100年続く北九州の「角打ち」 ライブも開催、多世代に愛され
毎日新聞 / 2025年1月2日 15時30分
酒屋の店先で立ち飲みをする「角打ち」は、製造業で発展した北九州の文化だ。北九州市若松区二島の「お酒と器と角打ちの栄屋」は1926年に創業。気軽に飲める雰囲気はそのままに、最近はライブも開くなど多世代に親しまれている。
店は、初代の古賀栄さん(故人)が折尾(北九州市八幡西区)の酒屋に丁稚(でっち)奉公した後に独立し、現在の店の近くに開いたのが始まりだ。周辺は工業地帯。3交代制の工場労働者らが仕事を終えた早朝や日中、一杯引っ掛けに来ては、水を張った樽(たる)の中で冷やされた瓶ビールをクッと飲み、仕事の疲れを癒やし、明日への英気を養った。
戦後、栄さんが切り盛りする店で、簡単な料理をして手伝っていたのが孫の古賀美和子さん(70)。料理好きが高じ、栄養科のある大学に進んだ。ただ、卒業後は喫茶店を経営。酒がスーパーやコンビニエンスストアでも買える時代になり、2代目の母智子さん(92)と父から「今から酒屋はするもんじゃない」と言われていた。
転機は25年ほど前。両親から「酒屋を閉めようと思う」と明かされ、人情に厚かった祖父の顔が浮かんだ。料理の道へ進む自分の原点となった店だけに「続けられる限り続けたかった」。美和子さんは3代目を継いだ。
5年ほど前からは、年代を問わず多くの人が集える場所にしようと、ビールケースを土台にした特設ステージでの音楽ライブや展示会を企画している。店の「紅白歌合戦」には、地域の小学生から90代まで参加し、子どもの居場所にも。美和子さんは「人と人が自然につながり、学びや喜びが生まれている」とほほえむ。
市民団体「角打ち文化研究会」によると、2018年に94軒あった市内の角打ちは、店主の高齢化なども背景に23年は60軒ほどに減少した。栄屋は今年が創業100年目。「老若男女が集まり『わはは』と笑って嫌なことを忘れられる場所になってほしい」と美和子さん。店主のぬくもりとそこに集う人たちの笑顔は今も昔も変わらない。【井土映美】
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