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津波で妹亡くした女性、震災テーマに映画2作品を制作 東京で上映

毎日新聞 / 2024年12月30日 10時30分

震災の経験を基に「春をかさねて」と「あなたの瞳に話せたら」を制作した映像作家の佐藤そのみさん=本人提供

 宮城県石巻市出身の映像作家、佐藤そのみさん(28)が制作した映画2作品が東京都渋谷区の「渋谷シアター・イメージフォーラム」で上映されている。幼い頃から地元・大川地区で映画を撮るのが夢で、中学2年時に東日本大震災に直面し、津波で変容した古里、そして妹を亡くし変わらざるを得なかった自らの胸の内にもカメラを向け、タッチの違う2作に結実させた。

 佐藤さんは2015年に石巻高校を卒業後、日本大学芸術学部映画学科に進学。震災前から思い描いた「大川の景色や人を撮りたい」夢と、「どうあがいても震災を避けて作品を作れない」苦しさに揺れながら「向き合わなければ次に進めない」と覚悟を決めた。

 4年生になる前に一時休学して脚本を書き進め、地元・北上川の自然や母校の大川小学校を舞台に、地元の友や知人、大学の仲間らの協力を得て19年にフィクションの「春をかさねて」とドキュメンタリーの「あなたの瞳に話せたら」を撮影した。

 「春をかさねて」は津波で妹を亡くした14歳の祐未が主人公。メディアの取材に「(妹の分まで)悔いのないよう生きたい」と気丈に語りつつ、本来の自分をなくしていくような違和感に苦しむ。同じく妹を亡くした幼なじみ、れいは東京からきたボランティアの大学生に恋をするなど奔放に生きているように見え、祐未はつい、心ない言葉をぶつけ、すれ違っていく。

 佐藤さん自身、津波で大川小6年生だった妹のみずほさんを亡くしている。登場人物には、自分や身近な人たちの要素を組み合わせて投影したといい「あの時、本当は誰かに話したかったことや、言葉にはしなかったけれど心の中に渦巻いていた『嫌な自分』も入っている」。大きな喪失、そして「震災がなければなかったはずの溝」とどう向き合い、和解していくのかを10代の目線から描いた。

 「あなたの瞳に話せたら」はフィクションでは描ききれなかった部分を表現した。大川地区で育った若者3人が亡ききょうだいや友人に宛てて書いた手紙を朗読し、あの日からどう生きてきたか、等身大の言葉で語りかける。当初は立場や世代の違う人たちを撮影する予定だったが、実現しなかったこともあり佐藤さん自身も登場し、みずほさんや家族への思いを言葉にすることで結果的に震災と正面から向き合う作品となった。

 自らの赤裸々な思いも描いた2作を公開することに当初はためらいもあったが「今は過去の自分として客観視できるようになった」。一方で「大人になるにつれあの時の大切な感覚を忘れてしまう気がして、忘れたとしても、作品の中に残ればちゃんと次へ進める気がする」とも語った。

 2022年以降、多くの要望を受け地元石巻をはじめ30カ所以上で自主上映してきたが、劇場の長期上映は今回が初めて。当初より延長し25年1月10日まで上映し、以降、京都、大阪、神戸、名古屋の各市や長野県上田市、神奈川県小田原市などでも予定する。

 佐藤さんは「震災の映画と重く考えすぎず、どんな大変なことがあっても『生きていてもいいんだよ』と肯定するような、もっと軽やかに、自分と向き合える映画として見てもらえたら」と話している。【百武信幸】

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