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銀世界に飛び立つタンチョウ 人に依存、すぐそこにある絶滅の危機

毎日新聞 / 2025年1月1日 10時0分

国の特別天然記念物に指定されているタンチョウがねぐらにする雪裡(せつり)川=北海道鶴居村で2024年12月13日午前6時43分、貝塚太一撮影

 北海道東部・鶴居村を流れる雪裡川(せつりがわ)。国の特別天然記念物タンチョウの群れがじっと夜明けを待っていた。この日早朝の気温は氷点下15度。日の出前、タンチョウは霧氷に包まれた銀世界の中から飛び立った。

 タンチョウは乱獲や湿地の消失で一時絶滅したと思われたが、1920年代に「再発見」された。保護活動により国内の生息数は約1800羽まで回復。しかし、今も人間が与える餌に依存し、いつ絶滅リスクが高まってもおかしくない。

 人類は今、三つの地球規模の危機(トリプル・プラネタリー・クライシス)に直面している。気候変動と生物多様性の喪失、そして環境汚染だ。

 化石燃料の使用などに伴う温室効果ガス排出量は頭打ちの気配すらなく、地球温暖化で熱波や干ばつ、豪雨などの気象災害が激甚化している。1年前に起きた能登半島地震の被災地は2024年9月、記録的豪雨に見舞われた。この豪雨について、気象庁気象研究所などの研究チームは、人為的な温暖化で総雨量が約15%増えていたと分析した。温暖化の悪影響と地震などの「複合災害」に備えることが欠かせない時代になっている。

 人間の命と暮らしを支える自然とその恵みもまた、危機的状況にある。約100万種の生物が絶滅の危機にあり、その多くが今後数十年で絶滅する恐れがあるとされる。プラスチックや化学物質などによる汚染も深刻で、人間の体内組織から微小プラが見つかったという報告も相次ぐ。

 あって当たり前と考えられていた人類の生存基盤が崩れようとしている。それも人間自身の手によって。

 国連環境計画(UNEP)が設置した専門家組織「国際資源パネル」は、トリプル・クライシスの主因を、化石燃料や生物資源、金属など地球上の資源の利用拡大だと指摘する。こうした物質の使用量は過去50年間で3倍以上になり、このままいけば60年までに20年時点のさらに1・6倍に増えると見込んでいる。

 「将来世代のことを考えて行動する必要性は1970年代から指摘されてきました。でも、短期的な問題への対応を優先し、資源は無限に利用できるものと思ってきたのが現実です」。国立環境研究所資源循環社会システム研究室の田崎智宏室長は話す。「悪影響が顕在化し、このままでは将来に禍根を残すと多くの人が実感するようになってきています。持続可能な社会にしようという意志を持ち、挑戦し続けることが重要です」

 70年代から持続可能な社会を将来世代に残そうと活動を続けたのが、環境分野で初のノーベル平和賞を受賞したケニア人女性、ワンガリ・マータイさん(11年死去)だ。受賞後、廃棄物の発生抑制(リデュース)▽再使用(リユース)▽再生利用(リサイクル)――の英語の頭文字を取った「3R」に加え、地球の資源に対する「Respect(尊敬の念)」を込めた「もったいない」という日本語を知り、世界共通語「MOTTAINAI」として広めることを提唱した。

 「私たちが呼吸する空気、飲み水、食べ物すべて、自然からの預かり物です。これこそがMOTTAINAI精神の最も大切な価値なのです」。マータイさんは亡くなる3週間前、こう語っていた。

 「預かり物」である環境と資源を将来世代に残す。それが現世代の責任――。マータイさんの言葉には、トリプル・クライシスを乗り越える礎となるメッセージが込められている。【大場あい、貝塚太一】

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