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今作る意味、考え 瀬々敬久監督が3月公開「少年と犬」に込めた思い

毎日新聞 / 2025年1月3日 15時0分

「少年と犬」 ©2025映画「少年と犬」製作委員会

 当代の人気監督といえば、この人は外せない。映画界に入って40年近く、瀬々敬久監督は大向こう受けするヒット作を連発する一方で、エッジの利いた小品も送り出す。2025年は馳星周の直木賞受賞作が原作の「少年と犬」の公開が控えている。「人と人の結びつきを取り戻す年になるといいですね」と、新作について語るのである。

 お正月の紙面に登場して、いささか照れくさそう。「『少年と犬』は、一休禅師のしゃれこうべみたいなものですよ」。一休さんが正月に、頭蓋骨(ずがいこつ)をかざして京の町を歩いたという逸話を持ち出した。「少年と犬」は、東日本大震災で飼い主を亡くした犬の多聞が、一人の少年に会うために5年かけて熊本まで旅をする物語。多聞は途中多くの人と関わり、死と遭遇する。「今は、実感を伴わない時代だと思う。人工知能の進化やSNS(ネット交流サービス)の普及で、人間が置いてきぼりにされるかもしれないという不安を、誰もが持っているんじゃないですか」。共同体の結びつきが薄れ、里山が消えて身近に自然を感じられない。「『少年と犬』で描かれる死を、見る人たちに実感のあるものとして捉えてもらいたい」。それが“生”を顧みることになる。

 作る映画は、観客の感情を揺さぶりながら社会を見つめる、骨太の娯楽作だ。「護られなかった者たちへ」(21年)では東日本大震災、「ラーゲリより愛を込めて」(22年)では第二次世界大戦終結後のシベリア抑留。ラブストーリーの「糸」(20年)では平成という時代を描いた。常に「今作る意味」を考えるという。

 「日本は80年もの間、身近に戦争がなかった。一方で、手のつけられない不幸として、地震や豪雨などの災害が起きている。人間の力ではどうしようもない、あらがえない状況をどう生きるかに興味があるんです。人間の一生でいえば、死にあたる。常に考えていたい」

 そして主人公はいつも片隅にいる人たち。「少年と犬」では、震災で仕事がなくなり盗品を売って生活する青年と、風俗産業で働く女性だ。「社会の中心にいて物事を動かす人よりは、時代や世の中に翻弄(ほんろう)されている人たちに興味がある。弱い立場の人に加担したくなります」

 ピンク映画の撮影現場から映画界に入って40年近く。今や日本映画界を代表する監督の一人。大手映画会社と組んだ原作ものを次々とヒットさせる一方で、「菊とギロチン」(18年)のような自主製作に近いオリジナル作品も発表する。振り幅を「いい意味で、自由でありたい」と説明する。「予算が少ない小さなピンク映画でも大作と対抗できる面白さがあるんだ、というところから自分の映画作りは始まっている。そのためには自由な発想が必要で、忘れたら映画の力がなくなっていく。危険も伴うかもしれないけれど、やり続けたい」。すでに新作を撮り終え、インディペンデントの作品も温めているという。

 「いろんなものがバラバラになっている時代だから、たくさんの結びつきができて、枠組みを超えていくといい」。「少年と犬」にも、そんな願いを込めるのである。【勝田友巳】

監督 瀬々敬久

脚本 林民夫

原作 馳星周「少年と犬」(文春文庫)

出演 高橋文哉、西野七瀬

3月20日全国公開

毎日新聞社など製作委員会

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