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急増する訪日外国人 警察の民間委託通訳、10年前の1.7倍に

毎日新聞 / 2025年1月3日 11時0分

全国の警察が民間通訳に委託した件数

 全国の警察が、外国籍の容疑者や被害者らから事情を聴くために通訳を民間委託した件数は2023年度に約6万6100件に上り、10年前の1・7倍に増えたことが警察庁への取材で判明した。警察は語学に秀でた人材の採用や育成に力を入れているが、それを上回る勢いで日本で暮らす外国人らが増えており、識者は「通訳に必要な人材やコストが不足している」と指摘する。

 警察庁によると、全国の都道府県警は警察内に通訳人を確保しており、24年4月時点で約4200人に上る。ただ、在留外国人の増加で需要が伸びている他、カバーしきれていない少数言語への対応もあり、民間の通訳人に委託するケースは増えている。

 民間通訳の委託件数は13年度の約3万8600件から毎年増加し、20年度は約6万3000件に達した。新型コロナウイルスの流行を受けて21年度は減少に転じたが、コロナ禍が収束すると増加傾向に戻り、22年度に再び6万件を突破。23年度の約6万6100件は過去10年間で最多だった。

 背景にあるのは、日本で暮らす外国人やインバウンド(訪日外国人観光客)の増加だ。政府がまとめた「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」によると、国内に長期滞在する在留外国人は約341万人(23年末時点)で、30年前の約132万人から倍以上に増えた。中でもアジア出身者の増加が目立ち、国籍も多様化。インバウンドも13年の1036万人から23年は2506万人となり、2・4倍超に伸びている。

 その結果、国内で外国人が容疑者となったり、被害者や目撃者として巻き込まれたりする事件や事故も急増。日本語が堪能ではない外国人から警察官が事情を聴く場面は多岐にわたっており、通訳業務の重要性は増している。

 警察も手をこまねいているわけではない。各都道府県警は警察大学校国際警察センターの語学研修に若手を派遣し、育成に力を入れる。警察庁によると、これまでに埼玉県警や愛知県警など全国約20の警察が語学に秀でた人材の専用採用枠を設け、約370人を採用した。

 アジアの玄関口となる福岡空港などを管轄する福岡県警は1995年度に、語学に秀でた人材を「専門捜査官」として募集する全国初の取り組みを開始。これまで英語23人▽北京語64人▽韓国・朝鮮語23人▽フランス語、スペイン語各2人--を採用した。ただ、それでも人手不足は補えず、民間通訳人に捜査協力を求めるケースは増え続け、23年度の民間通訳委託費用は過去最高の4200万円に及んだ。県警は若手職員を7カ月から1年間、ネパールに語学研修で派遣する制度なども創設して対策に力を入れるが、需要に追いついていないのが現状だ。

 通訳の質の確保も課題だ。津地裁は24年3月、誤訳を前提に起訴されたと認定し、覚醒剤取締法違反に問われたフィリピン国籍の女性に無罪を言い渡した。女性は2年以上勾留され、接見が制限された。弁護人を務めた本庄美和子弁護士は「通訳の内容に初歩的なミスがあったのに、捜査機関は十分に確認せず、女性が違法薬物を譲渡したことを前提に起訴した」と批判した。

 外国にルーツを持つ人に対する警察官の対応を調査してきた大阪公立大の明戸隆浩准教授(社会学)は「日本社会は外国人労働者なしで成り立たなくなっている。外国人を受け入れる以上、警察も相応に対応できるだけの仕組みや予算を確保する必要がある」と指摘する。【佐藤緑平】

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