太宰府天満宮が現代アートの聖地になったワケ 仕掛け人は東大卒宮司
毎日新聞 / 2025年1月1日 15時0分
「学問の神様」菅原道真を祭り、多くの初詣客を迎える太宰府天満宮(福岡県太宰府市)。そんな受験生の聖地が現代アートの“聖地”となりつつある。仕掛け人は東京大で美術史を専攻した宮司、西高辻(にしたかつじ)信宏さん(44)。古代から「西の玄関口」として栄えた太宰府に、文化の花が開く。
池に架かる太鼓橋を越えて楼門をくぐると、改修中の本殿に代わって2023年5月に完成した仮殿が姿を見せる。弧を描いて前方に傾いた屋根の上には、梅やクスなどの木や草花が植えられ、あたかも森のよう。自然と建造物が調和したアート作品だ。
「四季折々の変化があり、周りとのつながりもある」。西高辻さんが語る。
設計したのは25年大阪・関西万博で会場のシンボルとなる巨大屋根「リング」を担当した建築家、藤本壮介さんの事務所。設計を前に、藤本さんには秋の大祭の時にみこしが本殿に入る様子や神職らの動きを見てもらい「当時の最先端である中国の文化を学び取っていた菅原道真が住む場所を」と伝えて議論を重ねた。
「境内に森が現出するのは面白く、こういった発想があったのかと腑(ふ)に落ちる思いがあった」。西高辻さんが振り返る。
西高辻さんは道真の子孫とされる宮司の家系出身で、境内に実家があり、国宝など多くの文化財に触れる環境で育った。進学した東大では将来、宮司になることも考え、学芸員の資格を得られる美術史を専攻。その後、神職の資格を得るために国学院大大学院に進んだ。
現代アートに目覚めるきっかけは02年、米国人作家が招かれた博物館実習に参加し、学生たちが学内で撮った写真を分類して展示に取り組んだことだった。
「古い作品の展示と異なり、現代アーティストと一緒に議論しながら、展覧会を作る体験は非常に印象的だった。鳥の剥製とタービン模型といった違うものが作品で結び付き、既存の枠組みを超える力となることに大きな可能性を感じた」
大学院を修了して天満宮に戻った05年、西高辻家の悲願でもある九州国立博物館(九博)が開館した。西高辻家は高祖父以来、天満宮の文化財を公開するなど博物館の誘致に積極的に関わっており、用地の大部分は天満宮が寄贈していた。
「今ここで何かをすることが、次の九博や太宰府の未来を形作ることになると思った。アートを通じ、地域の人に九博や太宰府への愛着を持ってもらえれば」
翌06年、国内外の現代美術家を招き、神道や天満宮などをテーマにした新作を公開する独自のアートプログラムを始めた。人づてで頼み込んで引き受けてくれた美術家、日比野克彦さんを皮切りに、22年の米国出身のアーティスト、田島美加さんまでプログラムは11回を数える。
同時に、市民が参加するアートプロジェクトにも取り組んだ。日比野さんにはプロジェクトでも、サッカー・ワールドカップ(W杯)のアジア地区予選に参加した国と地域をイメージした船36隻を市民らと作製してもらい、作品は九博に展示された。数々のプロジェクトは、文化の裾野を広げることにつながった。
「当初は天満宮の職員にもなかなか理解されなかったが、地元の人ら1万人が参加し、アートの広がる力を感じてもらえた」。西高辻さんが振り返る。
アートプログラムの成果の一部は、境内に展示されている。
池のほとりに周囲の木々になじんでひっそりと置かれたコンクリート製の岩。実は英国出身のアーティスト、サイモン・フジワラさんの作品で、西高辻さんが「1000年続いてきた神社で1000年後にも残る作品を」と依頼したものだ。
作品には幼稚園児の手形が残るよう、水性のスプレーペイントで色が付けられた。洞窟の壁画のようにペイントの色ははがれるが、風雪にさらされても大切に受け継がれている天満宮の建物も暗示するという。「時間について考える」の作品名のごとく時間の経過と本物の意味を問う。
展示するアーティストは、出張の度に東京などで頻繁に展覧会を訪ねているという西高辻さんが太宰府天満宮文化研究所の学芸員らと話し合って決める。25年には、音をテーマにした外国人美術家のアートプログラムを予定している。
西高辻さんは「アートプログラムを約20年続けてきて『太宰府に行けば面白いことや驚きがある』という見方も広まってきた。かつて太宰府に文化が集まっていた時代のように、天満宮が文化の聖地となり、太宰府が芸術・文化を体験する場所になってほしい」と意気込む。【森永亨】
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