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アジアの現代アート作家4人の作品紹介 直島新美術館の開館前に

毎日新聞 / 2025年1月1日 14時0分

パナパン・ヨドマニーさん(1988年、タイ生まれ)の「Aftermath」(一部)=香川県直島町のベネッセハウスミュージアムで2024年6月14日、森田真潮撮影

 香川・直島のベネッセハウスミュージアム(同県直島町)で、アジアの現代アート作家4人の作品を紹介する企画展が2025年1月5日まで開かれている。直島では24年、民家を改修した新たな展示施設もオープンした。25年春にはアジアの現代アートの収集展示に力を入れる直島新美術館も開館する予定で、シンガポール美術館と協働した今回の企画展は、その“前哨戦”(福武総一郎・福武財団名誉理事長)の趣もある。

ベテランから気鋭のベネッセ賞・特別賞受賞者ら

 直島や豊島(同県土庄町)、犬島(岡山市)で美術館群を運営する福武財団は、1995年からベネチアビエンナーレで現代アート作家にベネッセ賞を授与。同賞は2016年に、シンガポールビエンナーレの公式賞に移行した。今回の企画展で紹介されるのは、16年以降に同賞(特別賞を含む)を受賞した、ベテランから気鋭まで4人の作品だ。

島で滞在制作の作品も

 アマンダ・ヘンさん(1951年、シンガポール生まれ)はシンガポールの現代アートの草分け的存在だという。出品された「Always by my side」は、1996年、2014年、23年の3度にわたって自身と母を同じ画面に収めた写真群で構成。経済成長するシンガポールで女性の社会的な役割が変化するなか葛藤があったという母娘関係や、娘の側から見た2人の距離感の変化をうかがわせる。

 また、直島に滞在して制作した映像作品「ベスト・タイム」は、島に暮らす2人の年配の女性の日常と、シンガポールでの自身の日常とを組み合わせて提示。隣り合った二つのモニター画面に、何気ない家の手入れやお茶を出す所作、体力維持のための散歩といった日ごろ繰り返される行為が淡々と映る。それぞれの場所での暮らしをじんわり認め合うようなシスターフッド(女性同士の連帯)を感じさせる。タイトルには「自分の務めを果たしてきて、自由に過ごせるようになった年代」という意味が込められているという。

社会状況を背景に

 ズル・マハムードさん(1975年、シンガポール生まれ)の立体作品「静粛なる抵抗宣言」では、床から天井まで細いゴムバンドが張り巡らされた場所で、床に置かれた小型スピーカーからトントンとリズムを刻む音が響いている。空中ではゴムバンドに取り付けられた微細な鈴が振動し、ジーッと途切れがちなラジオのような音を出している。

 実は、モールス信号に変換されたある「マニフェスト(宣言文)」を40ヘルツの周波数で流すことで、絶え間ない振動を生み出しているという。マハムードさんは「どれだけ小さな音を出したら、耳を傾けさせることができるかと考えた」と話す。逆説的にも聞こえるが、小さな音を聴こうとする態度は自己省察にもつながりそうだ。シンガポールでは街頭デモを行う自由がないという事情が作品の背景にある。

仏教もモチーフに

 パナパン・ヨドマニーさん(1988年、タイ生まれ)の立体作品「Aftermath」は立体絵巻のよう。災害の後を思わせるようながれきが壁面に沿って置かれ、白人による先住民の収奪の場面や、地獄を思わせるような絵、仏の姿などが描かれている。その前には小さなパゴタ(仏塔)も置かれている。タイトルは「何かが起こった後」の意。東南アジアの歴史を反映しつつ、さまざまなことが起こっても仏教が変わりなくあることをも示しているという。

欧米アート史を“反転”

 ヤン・ヘギュさん(1971年、韓国生まれ)の立体作品「上下反転ソル・ルウィット―1/10縮小のスチール構造」は、米国で活躍したコンセプチュアルアートのパイオニア、ソル・ルウィット(1928~2007年)の著名な作品を小さくしてひっくり返したような形。オフィスなどで使われる軽い素材のブラインドが使われ、天井からつるされている。ヘギュさんは「ミニマリズムは西洋の運動だというのが一般的な説明だが、実は他の地域にもあったのではないか。ソル・ルウィットの作品を(アジア人の)私がトレースすることで、美術史は西洋史だけのものではないことに関心を引きつけたい」と言う。

「またべえ」では昼夜切り替えの2人展

 一方、直島の本村地区で民家を改修した「またべえ」では、こけら落とし展示として、ヤンさんと、カンヌ国際映画祭でパルムドール賞を受賞した「ブンミおじさんの森」で知られる映画監督・現代アート作家のアピチャッポン・ウィーラセタクンさん(1970年、タイ生まれ)の2人による初の協働作品を展示している(会期末は未定)。

 「Ring of Fire―ヤンの太陽&ウィーラセタクンの月」のタイトルで、環太平洋火山帯が全体のモチーフ。地殻変動を観測するリアルタイムのデータに連動して、ヤンさんによる、さぬき盆灯籠(とうろう)に想を得た立体作品や、火山を逆さまにしたような形で多数の鈴がつり下げられた立体作品が回転したり音を鳴らしたりする。夜には、ウィーラセタクンさんによる、船上や上空からの移動を思わせる映像、火山を描いた絵などが室内に映し出されていく。【森田真潮】

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