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アル・パチーノさんも「記憶を飛ばした」 飲酒の「ブラックアウト」

毎日新聞 / 2025年1月8日 17時0分

「あれ? どうやって家に帰ったんだろう……」。忘れてしまったのか、それともそもそも最初から記憶していなかったのか(イラストはイメージ)=ゲッティ

 どうやって帰宅したのか――。

 なぜケガをしているのか――。

 どこで財布を落としたのか――。

 痛飲した翌朝、必死に自問しても全く思い出せない。そんな経験はないだろうか。

 どうして酒で記憶が飛んでしまうのだろう?

忘れる? それとも記憶していない?

 俳優の吉沢亮さんの所属事務所は6日、昨年末、酒に酔って帰宅した吉沢さんが自宅マンションの隣室に無断で侵入したと発表した。

 芸能人や元スポーツ選手らの酒にまつわる不祥事はたびたび起きてきたが、本人が全く覚えていないケースも珍しくない。

 背景にあるとみられるのが、飲酒時に記憶を失ってしまう「ブラックアウト」だ。

 大塚製薬が運営する情報サイト「減酒.jp」の監修も担当し、アルコールの健康障害に詳しい筑波大学医学医療系の吉本尚(ひさし)准教授によると、記憶をしまっておく倉庫のような役割がある脳の記憶中枢「海馬」が関係しているのだという。

 飲酒によって海馬がマヒすることで、やっていること、起きていることを記憶できなくなる。

 つまり、忘れてしまったのではなく、そもそも記憶していないのだ。

 酔いながらも本人は判断力をもって行動しようとしているが、記憶に残らない状態になっている。

 一般的にビール中瓶(500ミリリットル)なら7~10本飲んで至る「泥酔期」に起こるとされるが、体質や体調によってはもっと少ない飲酒量でも起こるという。

 ブラックアウトを巡る、笑うに笑えないエピソードも残る。

 関ケ原観光協会のウェブサイトによると、戦国時代の武将、福島正則(1561~1624年)は酔って口論になった家臣に切腹を命じた。だが、酔いがさめるとそのことを覚えておらず、家臣の死を知って号泣したという。

依存症の入り口

 吉本さんは「ブラックアウトはアルコール依存症の『境界線』と呼ばれます。頻繁に続くようであれば、専門機関などに相談した方がいいでしょう」と呼びかける。

 年に1回や2回、記憶を飛ばすならともかく、数日おきに繰り返したり、仕事に支障をきたしたりし始めると依存症の恐れがあるため、吉本さんは早めに相談するよう呼び掛ける。相談先はアルコール専門外来のある病院がなくても、一般的な内科でもいいという。

 米アカデミー賞俳優、アル・パチーノさん(84)は2024年に米誌ピープルなどのインタビューで、若い頃に酒の過剰摂取により深刻なブラックアウトを度々経験したことがきっかけで、1977年から断酒していることを明らかにしている。

急上昇する外傷リスク

 とはいえ、そんなことも忘れてついつい飲み過ぎてしまう人もいるだろう。筆者も例外ではない。

 飲酒の「適正量」として、純アルコールで1日平均20グラム程度と言われており、ビールなら500ミリリットル、日本酒なら1合に相当する。

 厚生労働省もそうした指標を出しているが、これでは少ないと感じてしまう。

 一体どのくらいまでなら飲んでいいのだろうか。

 吉本さんは「飲む人は20グラムは少ないと感じますよね。体質にもよりますが、飲み会などで多く飲む機会であっても、瓶ビールなら3本までにとどめておくのがいいでしょう。今はノンアルコールの商品も充実しており、うまく取り入れるなどしたらどうでしょうか」と提案する。

 吉本さんらが17年に報告した、日本の大学生2177人を対象にした研究の成果によると、過去1年以内に短時間で多量の飲酒をした学生は、そうでない学生に比べ、アルコールが絡んで外傷を負った経験が25・6倍にもなったという。

飲んだら置いて

 飲み過ぎないためにはどうすればいいだろうか。まず意外と知らないメカニズムを知ってほしいと吉本さんは話す。

 「お酒が体に染み渡るのに30分かかります。最初はいけると思って飲んでいたら、30分後に酔いが回ってきます」

 そのため最初の1杯をゆっくり飲むよう心がけることを推奨している。グラスやコップを持ったまま飲むのではなく、一口飲んだらテーブルに置き、お酒の味を楽しむようにするなどゆっくり飲む工夫をするとよい。

 空腹時はアルコールの吸収が速くなるため、何かを食べてから飲むのも重要だ。

 英国では1年が始まる1月に、お酒との付き合い方を見直すためにお酒を控える「ドライ・ジャニュアリー(乾いた1月)」と呼ばれるキャンペーンが行われる。

 「年末から正月にかけては、どうしても飲み過ぎてしまう時期。でもトラブルになると周囲も自分も楽しくなくなってしまいます。1月はお酒を控えて、うまい付き合い方を考えてみるというのもいいでしょう」【平塚雄太】

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