「大仏商法」から国際化の時代へ 奈良の観光、これまでとこれから
毎日新聞 / 2025年1月13日 14時0分
奈良市の奈良公園を歩くと、ここは本当に日本なのかと疑うほど外国人観光客であふれている。コロナ禍前、外国人観光客の訪問率全国5位を誇った奈良県だが、100年の長いスパンで振り返ると戦争、経済成長、交通網の発達など、時代の流れとともに変容してきた。県や奈良市に「観光課」ができたのは昭和初期。観光行政の歴史を振り返って次の100年を見据えたい。
奈良市は1933(昭和8)年に、県は37(昭和12)年にそれぞれ観光課を設置した。市は明治の市制施行当時から観光を市政の基本方針の一つと定め、さまざまなパンフレットを作って宣伝に力を入れていた。
37(昭和12)年に日中戦争が開戦されると、観光もレジャーというより国粋主義的な色彩を帯びていく。紀元2600年にあたる40(昭和15)年ごろには、皇陵巡拝が奨励された。天皇陵には御陵印が備え付けられ、西国三十三所や四国八十八所と同様に巡拝して集印することが流行した。県は42(昭和17)年、観光課と公園課を統合して聖地顕揚課を設置。「建国の聖地・大和」が強調され、奈良の観光は国民統合、戦意高揚に利用された。
そして敗戦。奈良は大規模な空襲を免れ、観光資源が大きく損なわれることはなかった。
「戦後の観光行政の転換期となったイベントが二つある」。そう指摘するのは竹田博康・県観光局長だ。一つは88(昭和63)年の「なら・シルクロード博」。「大仏商法」と皮肉られてきた奈良が、シルクロードとの歴史的なつながりをテーマに国際的な文化博覧会を開いた。会期の183日間で来場客数680万人を超えた。
そしてもう一つが2010年の「平城遷都1300年祭」。県内の文化財など既存の観光資源を生かし、県内の寺社の秘宝公開や伝統行事、イベントが展開され、奈良を国内外にアピールする機会となった。以降、奈良は国際的な歴史文化観光拠点として、外国人観光客の誘致に力を入れ、現在へとつながる。
では、次の100年で観光はどう変化していくのだろうか。竹田局長は「まず隣人が外国人という時代がやってくる。これまで感覚が分からずにやってきたインバウンド戦略の発想の転換が求められる」。そして人口減少。「とくに県南部の人口は著しく減っていく。奈良の観光は大仏と鹿のイメージが先行しており、他の地域にあるたくさんの財産が埋没している。それを磨いていかなければいけない。地域がしぼめば観光もしぼんでしまう」と指摘する。
時代の変化についていくために観光行政は何が求められるのか。「マーケティング、情報を届ける、地域を耕すことが必要。これまでこの部分について行政はあぐらをかいてきた。この地域にはどんなことが求められていて、どう改善したらいいのか、データを分析し、情報をしっかり届ける。人口が減っても奈良の魅力を維持していくための地域作りをがんばらないといけない。そうすれば奈良の観光はさらに成長する」と力を込めた。
人口減少、デジタル技術の進展、リニア開通や車の自動運転といった交通環境の発達。社会の在りようは加速度的に変化している。観光も変わっていかざるを得ない。竹田局長は「100年後なんて予想できない」と笑った。「奈良のすごいところは1300年間、文化的な香りを維持しつつ新しいことを取り入れてきたところ。それを支えるのが行政の役割。100年後が楽しみだ」。笑みの明るさが増した。【木谷郁佳】
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