震災がきっかけの支援制度 弁護士が「金額足りない」と思う背景
毎日新聞 / 2025年1月16日 10時30分
今月17日で発生から30年を迎える阪神大震災。それがきっかけにできた制度が、マイホームが大災害の影響で建て替えなければならなくなった時、全壊であれば最大300万円が支給される支援制度です。被災者生活再建支援法に定められています。
日本弁護士連合会の災害復興支援委員会で委員長を務める吉江暢洋(のぶひろ)弁護士は「この金額じゃ足りない」と見ています。首都直下地震や南海トラフ巨大地震に備えるため、災害時の生活再建に向けた制度をどのように考えればいいのでしょうか。
300万円じゃ、どうにもならない
――「資材高騰」が叫ばれる中、被災者生活再建支援法では全壊(損害の割合が50%以上)の世帯に最大300万円が支給されます。ただ、それでは不十分だという声が上がっています。
◆金額が足りないのは本当にそうだと思っています。やっぱり家を建て直さなきゃいけない状態になった時に300万円じゃ、どうにもなりません。
修理の場合でも、損害が40%台の「大規模半壊」で250万円、損害が30%台の「中規模半壊」で100万円が支給されますが、それでも足りません。
この法律に課題はありますが、損害が20%台に当たる「半壊」や10%台の「準半壊」の支援の方も深刻です。
――どんな状況なのでしょうか。
◆災害救助法に応急修理制度という仕組みがありますが、そちらの方がより金額が低いんです。現行では半壊だと最大で約71万円、準半壊だと最大で約34万円です。被害の認定が半壊以下だと、この制度しか使えないとなってしまうので、そちらの人たちも相当厳しいですよね。
浸水の被害の場合、半壊ではあるけれど、工事をしなければいけないところが中規模半壊や大規模半壊とそれほど変わらない、ということがあります。それでも応急修理制度しか利用できないので、71万円で足りるわけがありません。
その辺も含めた全体的な住居の再建、街の再建をどう考えるのか、もっと広い視野を持って総合的に考えないと復興なんてできないと思っています。
――政府の制度では足りない分、独自に支援制度を設けている自治体があります。その場合、どこまで支援すべきでしょうか?
◆そこは悩ましいですね。結局、どこまで自分たちのところの住民を守るのかっていうと、変な言い方かもしれませんが、そこもお金になってくるのでしょう。
2011年の東日本大震災の時、岩手県は手厚い支援をしました。政府の支援制度による支援金をもらった人の中には、自治体独自の事業でさらに最大100万円が上乗せで支給されました。
そういう工夫はとても良かったし、それで助かった人が多いと思います。自治体は、独自の支援制度のため、普段から資金のことを考えておく必要があるかもしれません。
――資金のことを考えた上で、自治体独自の支援制度が広がればいいですね。
◆そう思います。特に今後は豪雨災害がかなり起きるかもしれませんが、豪雨って局地的に被災することもあり、被災者生活再建支援法や災害救助法が適用されない場合も考えられます。そういう時のために自治体が支援制度をきちんと準備しておくのは、とても大事だと思います。
――政府や自治体の支援があっても、金額的には不十分ではないでしょうか。
◆建て替えや修理を全部、公費で賄うのは無理です。足りない分をどうするのかっていうと、個人で保険に加入しないと厳しいですね。
健康保険のように強制的に住宅関係の保険に入るというのを、不動産の建物所有者には義務づけるぐらいのことをしてもいいかなと思っています。
――支援額の上限以外で、被災者生活再建支援法の課題は何だと感じていますか。
◆この制度は建物が壊れた場合に住居の再建をどうするかという制度です。制度上、罹災(りさい)証明書の判定に応じて、支援が全て決まってしまうんです。
根本的な仕組みとして、罹災の判定がきちんとされないと支援が受けられないので、そこが何より問題だと思っているんです。
例えば、被災者が勤めている会社が被災したため収入がなくなっても、支援する制度がない。住宅の被害だけで生活再建の支援が決まっていく今の仕組み自体を、少し見直さないといけないでしょう。
住宅の被害に対する支援策として、この被災者生活再建支援法が役立つのは間違いありませんが、住宅以外のそういった被害をどう支援するのかっていう観点が全然ないんですよね。
――ほかにもありますか?
◆これも難しい課題だと感じていますが、被災者生活再建支援法は申請しないと支援金がもらえない点です。
全壊の場合、「加算支援金」と呼ばれている支援で、住宅の再建方法によって50万~200万円が支払われます。これは、被災者に「こういうふうに再建しました」と申請してもらわないと、自治体は把握のしようがありません。
ですが、100万円の「基礎支援金」は自治体の方でどの世帯が全壊なのか把握しているわけですから、申請がなければ払わないという姿勢ではなく、申請が必要だとすれば積極的に自治体から申請を促すよう動いてほしいです。【聞き手・洪玟香】
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