夢をテーマに届く感想文に目細め 愛娘奪われた父が講演を続ける意味
毎日新聞 / 2025年1月13日 7時45分
2004年12月~05年1月に起きた福岡3女性連続殺害事件の被害者の1人、福島啓子さん(当時23歳)の父敏広さん(68)=北九州市小倉北区=が、23年秋から学校や警察署で講演活動を続けている。客室乗務員(CA)を夢見て人との出会いを大切にした啓子さんの生き方と、命の大切さを伝えようと奮闘。何よりうれしいのは、講演を聞いてくれた生徒から届く感想文の中にある「夢」をテーマにした言葉の数々だ。
「夢とは人生の目標であり、人を努力させ、輝かせる唯一無二の存在であると感じた」「夢を絶対にあきらめず、福島さんの話を心に留め、前進していきたい」「私もCAに興味がある。娘さんの想いを胸に夢を追い続けます」「娘さんは天国でCAになっていると思います」――。講演を終えると、福島さんの自宅には学校などから家族への感謝や命を大切にしようとする生徒たちの言葉が届く。福島さんは全てに目を通し、特に「夢」の文字を見た際には、思わず目を細めてしまう。
啓子さんは、福岡空港で航空機への乗降に使う「旅客搭乗橋」の着脱などの地上支援業務をしていた。事件は05年1月18日朝に発生。福岡市東区の自宅から出勤途中に惨劇に遭った。敏広さんは「人との出会いを大切にした娘の足跡を残し、夢を語り合う場にしたい」とする手紙を福岡市に出し、23年1月、事件現場の大井北公園(同市博多区)には「夢を語る公園」という愛称が付けられた。
今月、事件から20年を迎えるが、今も公園には知人が訪れて手を合わせる。記憶に残り続ける娘の生き方を、講演を通じて多くの人に伝るために活動を始めた。演題は「夢を語る公園への想い」だ。特に若い人に、娘と同じように夢を大切にして生きてほしいと願い続ける。
講演活動を始めて自らも学びの毎日が続く。早朝から新聞各紙を読み込み、命やいじめをテーマにした話題を拾うことも。講演内容は毎回更新しており、文脈を吟味する際に「どうすれば人の心を打つことができるのか」を熟考する。「新聞を読み込み、一つ一つの文字の大切さを考えるようになった」と打ち明ける。また、学校での講演で力説しているのは「いじめ」についてだ。自らも最愛の娘を失った。減ることのない、いじめ事案の報道にも心を痛め、生徒たちに「人に暴力をふるったり、傷つけたりしてはいけない」とも語りかける。
「福島さんの話を聞いて、一層命の大切さを感じることができた」「見て見ぬふりせず、優しく声をかけてあげたい」。いじめについて記した生徒たちの言葉だ。講演はこれまでに、県内を中心に20回を数えた。福島さんは「毎回の講演が本当に楽しい。若い人たちが事件事故の悲惨さと、夢を持つことの大切さを考えてくれるきっかけになれば、こんなにうれしいことはない」。生徒とともに学ぶ日々が続く。【柳瀬成一郎】
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