「阪神」「東日本」二つの震災が結ぶ縁 紡ぐ言葉、記憶継承の道標に
毎日新聞 / 2025年1月16日 10時30分
長く暑い夏が終わり、秋めいてきた2024年10月中旬。神戸市中央区の公園「東遊園地」に、二つの大震災が縁で交流を深めた2人の姿があった。
会社員の米津勝之(かつし)さん(64)=兵庫県芦屋市=と、画家で作家・詩人の瀬尾夏美さん(36)=東京都。2人は公園に設けられた阪神大震災(1995年1月)の犠牲者をしのぶ「慰霊と復興のモニュメント」へと向かった。
米津さんは自らの体験を伝えるため、モニュメントの地下空間に瀬尾さんをいざなった。そこには、震災犠牲者らの名を刻む銘板があり、米津さんの長男漢之(くにゆき)さん(当時7歳)と長女深理(みり)ちゃん(同5歳)の名も並んでいる。瀬尾さんは静かに銘板を見つめた。
震災で米津さんの人生は一変した。芦屋の自宅アパートが倒壊し、同じ部屋で寝ていた2人の子は家具の下敷きになり亡くなった。悲しみに打ちひしがれながらも、後世に伝えようと語り部を続けてきた。
一冊の本に「これやんか」
2人を引き合わせたのは一冊の本だった。東京芸術大生だった瀬尾さんは、東日本大震災(11年3月)の直後からボランティアとして活動し、翌12年に岩手県へ移住。津波が襲った同県陸前高田市で暮らしながら、見聞きしたことを文章や絵で記録してきた。19年には被災地での7年間をつづった「あわいゆくころ」(晶文社)を出版した。
米津さんは新聞記事で彼女を知り、本を手にした。震災で亡くなった人と生き残った人、これから生まれる人をつなぐこと――。本を読んだ米津さんは「これはまさに、俺がやろうとしていることやんか」と共感した。
数となって表される犠牲者。でも、その裏側には一人一人の命の重みがある。そして、災禍の記憶を先の時代へ継承していくことは、それぞれが生き方を考え続けることでもある。米津さんの考えが、瀬尾さんによって精緻に言語化されていた。本はあっという間に付箋だらけになった。
米津さんは、感想を手紙にしたため出版社経由で瀬尾さんに送った。東日本大震災後、「阪神が忘れられてしまう」と不安を抱き、東北から目を背けていた時期があったことも正直につづった。
2人は20年に初めて顔を合わせた。その後、交流の機会が増え、震災の記憶を語り継ぐ意義などについて対話を重ねてきた。
遺族と詩人、響き合い
米津さんは小学生らを対象に体験を語る際、彼女の文章を引用する。語り手の言葉を受け取り、自分の思いを伝え、さらに相手の言葉を引き出す瀬尾さんについて「対話をつくる人。ああいうふうになれたらな」と言う。
17日で阪神大震災から30年。世代も経歴も異なる2人が紡ぎ出す言葉は、「体験していない世代」が震災について考える道標ともなっている。【稲田佳代】
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