抑圧に抵抗し「声をあげる」作品を集めた映画祭 日芸生が開催
毎日新聞 / 2025年1月16日 8時0分
昨年12月7〜13日、東京都渋谷区にあるミニシアター「ユーロスペース」で、日本大学芸術学部の現役学生が主催する映画祭(通称・日芸映画祭)が開催された。テーマは「声をあげる」。このテーマにどんな思いを託したのか、映画祭の実現に奔走した学生たちを取材した。【法政大・今井勇登(キャンパる編集部)】
若者にこそ見てほしい
日芸映画祭は、日大芸術学部映画学科映像表現・理論コースの「映画ビジネスゼミ」に在籍する3年生が企画運営して毎年開催している催しだ。映画を通じて社会問題や事件に向き合うことが目的で、今回で14回目となる。
毎年、テーマ決定から配給会社との交渉、作品の上映まで全ての作業を学生が行っており、今回は15人の学生が同学科の古賀太教授と志村三代子教授のサポートを受けて担当した。ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区侵攻が起き、出口が見えない泥沼の戦いが続く中、映画祭企画運営メンバー統括代表の溝手連さん(21)は「若者にこそ見てほしいと思って企画した」と話している。
ガザ侵攻への抗議デモに触発
2023年10月、パレスチナの解放を求めるイスラム組織ハマスが越境攻撃を仕掛けたことへの報復として始まったイスラエルによるガザ地区への侵攻。戦闘は1年以上続き、この間4万人以上が犠牲となっている。
昨年4月には、米国や日本などの大学で、ガザ侵攻に抗議するデモが起きた。ガザ侵攻に衝撃を受けていた溝手さんはデモの存在をニュースで知り「国は違っても、自分にも何かできることがあるのではないか」と考えるようになった。
「抑圧にどう抵抗したか」に着目
映画祭のテーマを決める時期だったこともあり、溝手さんはパレスチナ問題にしてはどうかと提案した。ただ議論を深めていく中で、虐殺されたり、抑圧されたりしている人々は世界各地にいることに着目すべきだという方向に意見が集約されたという。
そこで、過去に起きた事件や社会問題に対して民衆がどう抵抗したのかを学ぶことに価値を見いだし、より大きなくくりでテーマを設定することとなった。そして最終的に行き着いたのが、対象の幅を広げやすい「声をあげる」だった。
企画運営メンバーの清水千智さん(22)はこのテーマについて「声をあげるということは、若い世代にとってもっと身近な行為であっていいと思う。国のやること以外でも、自分がおかしいと思っていることに声をあげていいのではないか」と話した。
厳選した上映作品
今回の日芸映画祭では、貧困・政治問題や民族紛争、女性差別問題など、抑圧された人々が抵抗し、立ち上がる内容の15本の映画を7日間に分けて上映した。パレスチナ問題では、02年に起きたイスラエル軍によるヨルダン川西岸地区侵攻での虐殺と破壊を題材とした土井敏邦監督のドキュメンタリー作品「沈黙を破る」を選んだ。
映画選びには最も時間をかけ、学生らが見た映画の総数は100本を超えるという。そのこだわりは、日本で版権が切れていた2本のフランス映画、ナチスの収容所で起きた武装蜂起を描く「ソビブル、1943年10月14日午後4時」と、パリの暗部を移民の視点から映し出した「憎しみ」の上映権を交渉の結果、取得したことによく表れている。
同じく企画運営メンバーの森戸理陽さん(21)は、荒廃した世界で、独裁者に虐げられた者たちが反乱を起こすアクション映画「マッドマックス 怒りのデス・ロード」を担当した。この作品を選んだのは「政治問題を描く映画やドキュメンタリー作品には抵抗があっても、声をあげることを身近に感じてほしい」との思いからだったという。
きっかけ作りの場
作品の上映料やチラシ印刷代などは日大が負担し、ユーロスペースも会場を無償提供するなど学生の取り組みを支えている。14年の第4回から会場を提供しており、古賀教授の知人でもあるユーロスペース支配人、北篠誠人さんは同映画祭を「見た人が社会問題を考えるきっかけになれば」と語った。
映画祭の総来場者数は1795人だった。森戸さんは「幅広い年齢層の方に来場していただいた。当日のアンケートから、『声をあげる』というテーマで作品を選んだ意図が伝わったと感じ、大きな手ごたえを得た」と振り返る。
来場者である男子大学生(19)は、韓国での民主化抗争を描いた「1987、ある闘いの真実」を見て「暴力に対して民衆が立ち上がる姿に感動した。今、日本がどうなっているのかについて常に関心を持っていかないといけない」と話した。また、水俣病の存在を世界に知らせた記録映画「水俣―患者さんとその世界―」を見た日大の女子学生は「今まで人ごとだと思っていたことにも、もっと積極的に行動していきたい」と語った。
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