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30年前に夢見た神戸の副都心計画 今や巨額赤字を抱える事情

毎日新聞 / 2025年1月16日 16時0分

阪神大震災で火災が発生したJR新長田駅南側周辺(左)。再開発され高層ビルが林立する=神戸市長田区で2024年12月9日、本社ヘリから大西岳彦撮影

 神戸市長田区のJR新長田駅を降りて南口から出ると、目の前にはいくつものマンションや商業ビルがそびえる。30年前の1月、この一帯は阪神大震災による火災で焼け野原となった。

 復興に向けて、市の中心街・三宮に次ぐ副都心として再生させることを夢見て、市は被災地では最大となる再開発事業を実施した。だが、終わってみたら数百億円の赤字を背負うことに。巨大な復興まちづくりが残した教訓を探った。

「うちは借金だけが膨らんだ」

 駅南口から数分歩くと、マンションや商業ビル群の間を貫く天井の高いアーケード街がある。長さは500メートルほどだ。

 「ビルばかりが建てられて、空き店舗が増えた。30年たって、うちは借金だけが膨らんだ」。アーケード街の5階建てビルの1階にある日本茶販売店「味萬(あじまん)」店主の伊東正和さん(76)は、ため息をついた。

 この辺りはかつて、木造の商店や民家、地場産業のケミカルシューズ工場が密集していた下町だった。

 1995年1月の震災では、そのほとんどが全半壊するか地震後の火災で全焼した。伊東さんの店も焼けた。

 市は、住まいを失った被災者の住宅を急いで確保する必要があるとして、19万9000平方メートル(甲子園球場5個分に相当)に計44棟のマンションや商業ビルを整備するなどの再開発計画を立て、震災2カ月後に都市計画を決定した。事業費は約2277億円に上る。

 震災の特例で政府からの補助金が上積みされ、その額は事業費の2割近い約400億円になった。残りは、ビルの商業用スペースや再開発エリア内の土地を民間に売却して賄うはずだった。

再開発、予定通りに終わらず

 ところが、再開発エリアがあまりに広くて地権者との交渉に時間がかかり、事業は当初予定していた2004年に終わらなかった。この間に地価は半分に値下がりし、市が保有する土地の売却価格は、取得した時の価格を下回った。

 さらに、被災した商店主らが新長田から転出した。商業用スペースは売れ残り、賃貸で利用されても、倉庫として使われるところが目立つ。

 事業が完了したのは24年11月。あの日から30年近くがたっていた。商業用スペースは床面積の58%が売れ残ったままだ。市によると、この年の6月時点での収支は324億円の赤字となった。

 「商業用スペースの床面積は広すぎた」「商店主の入居や転居の見極めを慎重にすべきだった」

 再開発事業を検証する有識者会議が20年夏に始まったが、赤字の原因について厳しい意見が相次いだ。「災害をきっかけに短期で事業化され、事業が動き出すと待ったなしになる」と復興事業の硬直性を指摘する声も出された。

 売却できない商業用スペースや土地がこのままだと、赤字額は将来的に502億円に膨れ上がるという。

 日本茶販売店の伊東さんは再開発で建設されたビルの一つに入るために、約4000万円を投資した。売り上げは戻らぬ一方、固定資産税や月約2万円のビルの管理費もかさみ、借金の返済が続く。正月を除いて営業を続けていて、健康である限り店頭に立つつもりだ。

 新長田駅近くに事務所を構え、大学教授らと事業を検証してきた民間団体「兵庫県震災復興研究センター」の出口俊一事務局長は「復興の過程でも被災者が生活苦を強いられるのは『復興災害』だ。民間の視点を取り入れるなど市は責任を持ってにぎわい創出を続けてほしい」と話す。

石巻では「小規模」目指したが…

 人口減少が進む中、被災地の復興では地域の身の丈に合ったまちづくりが求められている。

 11年3月の東日本大震災で甚大な被害が出た宮城県石巻市は、中心市街地では震災後の復興基本計画で民間主体の「コンパクトなまちづくり」を目指した。

 市街地再開発事業は、地権者の組合によって3カ所で取り組まれた。再開発された場所の広さは3000~5000平方メートルだった。

 より小規模な整備も3カ所で実施された。地権者が複数の隣接する建物をビルなどに建て替える「優良建築物等整備事業」だ。

 震災で政府の復興構想会議の検討部会メンバーを務めるなどした都市計画家の西郷真理子さんは「小規模の建物でもデザインに統一性を持たせるとともに、まちづくり会社が地産地消のレストランなど石巻らしい新しいビジネスを生む店を入れていくようにした」と説明する。

 市の悩みは、震災で転居した人が戻ってこず、中心市街地の人口が以前の水準に戻っていないことだ。優良建築物等整備事業もさらに5カ所で計画されているが、市の審査でいずれも「事業性が厳しい」と判断され、再検討が続く。

 震災を受けて13年に施行された「大規模災害復興法」は東日本や阪神規模の災害が起きた場合、復興計画に将来人口の見通しを記載するよう被災市町村に求めている。

東京都で進む事前復興

 一方、人口減少を意識して、災害前から復興の検討をする地域もある。

 首都直下地震に備える東京都は阪神大震災の復興に学ぼうと、97年に災害前から復興に向けたまちづくりの準備をする「事前復興」のマニュアルをまとめた。

 98年度には、都と特別区などの職員で「都市復興訓練」を、01年度には住民も参加して復興まちづくりを話し合う「復興まちづくり訓練」を始めた。

 その中では、被災した都民が近隣の県に避難して復興まちづくりが遅れる事態が起きないよう、仮設住宅を建設するための土地を被災地に確保する「時限的市街地」という案が議論されている。

 事前復興マニュアルの策定に携わった中林一樹・東京都立大名誉教授(都市防災学)は「現在は30年前と異なり、将来予測が難しくなっている。被災直後に計画した大規模な復興事業に固執すべきではない」と指摘する。

 その上で「生活再建に必要な施設は緊急に復旧するが、将来の動向に合わせ柔軟に見直していく『ゆっくり復興』が望ましい。国の支援制度も身の丈に合った市街地整備を大事にする方向に変わっていくべきだ」と話した。

阪神大震災の復興市街地再開発事業

 兵庫県が05年にまとめた総括検証報告書によると、震災復興の市街地再開発は民間主体によるものも含めて神戸市や兵庫県西宮市など7市で計30地区(約63ヘクタール)で総事業費は9860億円。04年までに29地区は建築工事が完了し、最大の新長田駅南地区(19・9ヘクタール)だけが長期化していた。【山本康介、井上元宏】

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