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なぜ人は図書館に行くのか 貸し出し冊数“日本一” 漂う空間の妙味

毎日新聞 / 2025年1月19日 6時15分

「本が好きなので、図書館での仕事は楽しい」と口をそろえる司書の高村美由紀さん(左)と宮川陽子さん=福井県立図書館で2024年12月6日、萱原健一撮影

 21世紀に入って四半世紀。インターネットの普及で誰もが自分の意見を発信できる世になった。だが、文字がどれほどネット空間にあふれても、そこで読み流されていくデジタルの文字より、紙に印刷された活字を愛する人たちが今もいる。物としての本。場としての本屋や図書館。本を愛する人たちは何を求めているのか。図書館を歩いてみた。

   ◇

 図書館が静かににぎわっている街はいい街だ――。いつの頃からか、私はそんな思いを抱いている。昨秋、福井に赴任し、11月末に福井県立図書館(福井市)を訪れた時も同じことを感じた。

 長年愛読してきた東洋学者、白川静(福井市出身、1910~2006年)の業績を紹介する「白川文字学の室(へや)」に感激したのもあるが、約110万冊という蔵書を感じさせないゆとりある空間にホッとしたのだと思う。幅広い世代の人たちがそれぞれに自分の時間を楽しんでいるように見えた。

 県立図書館は福井と小浜の両市にあり、蔵書は計約140万冊。日本図書館協会の調査によると、都道府県立図書館の中で県民1人当たりに貸し出した本の冊数が21年度以降3年連続で日本一。12年度以降でも1位か2位だ。ただしこの調査には市町村立や私立の図書館が含まれていないため、下位の県民が本を読んでいないことにはならない。それでも蔵書数は大阪府や東京都などに次いで8位。県民1人当たりの冊数も鳥取県に次いで2位。充実した図書館であることには違いない。

 なぜ「日本一」かについては同館の司書たちも首をかしげる。これといった明確な理由も思い浮かばない。そこで質問を変えてみた。そもそもなぜ図書館に来るのか――。調べものをするならインターネットで検索できる。司書自身もネットを活用し、速報性や断片情報の検索には「ネットが勝る」という。

 司書歴25年以上の宮川陽子さんは「この空間に来るのが好きという人もいます」と説明する。例えば、録音図書を自宅に無料で郵送する視覚障害者向けのサービスがあるが、毎回わざわざ図書館まで借りに来る利用者がいるという。理由は「普段ふれ合わない人の声を聞くことができるから」だそうだ。

 「図書館なら一人で来ても詮索されない。お金もかからない。何時間居てもとがめられない。本棚を眺めているだけでもいい」と宮川さん。眺めている本棚の中で、ふと心に引っかかる言葉と偶然出合うかもしれない。

 2015年の夏休みが終わろうとする頃、神奈川県の鎌倉市中央図書館が「学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい」と呼びかけたツイートが話題になった。高村美由紀副館長はこの話を挙げてこう続けた。「図書館を利用している人って基本的に善人だと思うんです。本を借りていって期限やルールを守って使ってくださる。そういう人たちがいる空間に来たいということなのかな。安心して居られるんじゃないかな」【萱原健一】

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