「伝え続ける」葛藤から使命感へ 1.17に生まれた30歳の誓い
毎日新聞 / 2025年1月17日 5時30分
30年前の1月17日に生まれた男性が、阪神大震災の「語り部」として小中学校で出前授業を続けている。「生きたくても生きられなかった人がいる。その人たちのためにも、継承していく使命感がある」。被災体験はないが、その日に生を受けた宿命を背負う。
「おぎゃーーーーーー 夕方6時21分、ぼくはようやくうまれたんだ。お父さんもお母さんもたくさんたくさん泣いたんだ。うれしくて、うれしくて」
自身がモデルとなり、出版された絵本「ぼくのたんじょうび」。兵庫県尼崎市の会社員、中村翼さんは1995年1月17日、神戸市兵庫区で生まれた。あの日の混乱の中、多くの人に祝福された。
3歳の頃から誕生日になるとテレビカメラが回っていた。父の転勤で一時は神戸を離れ、15歳で再び戻ってくると、「震災の日に生まれた少年」としてまた取材を受けるようになった。
「誕生日という祝うべき日が、震災で多くの人が亡くなったんだ」。そんな残酷な現実を突き付けられた。「どうしたらいいのか分からない」。思春期だった当時はそんな葛藤を抱いた。
答え探しのために、大学では防災学習に熱を入れた。東日本大震災(2011年)の被災地にもボランティアで訪れた。足を踏み入れた瞬間、阪神大震災が起きた時の神戸の街が想像できた。
仮設住宅で暮らす人に話を聞く機会があった。地震直後に避難したが、貴重品を取りに自宅に戻って命を失った家族がいた話を聞いた。それが胸に刺さった。
父は避難直後、破水した母を病院に連れて行くため、車の鍵を取りに戻ろうと自宅マンションの階段を10階まで必死で駆け上ったという。「その行動がいかに危険だったのか。自身の奇跡的な誕生につながった尊さを思い知った」と目を潤ませる。
「自分を生むために必死で守ってくれた両親、生きたくても生きられない人がいた。そうした人たちの思いを断ち切らないためにも次の世代にも伝え続けなければならない」
30歳を迎えるにあたり、いつしか葛藤は使命感に変わった。命の尊さと助け合いの大切さを、震災を知らない世代に伝えていきたいと思う。「強く大きく羽ばたいてほしい」。「翼」の名の由来を教えてくれた両親に、これからの飛躍を誓う。【関谷徳】
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