南海トラフ地震が起きても生きるために 三重で阪神大震災伝える2人
毎日新聞 / 2025年1月17日 4時30分
1995年1月17日午前5時46分、兵庫・淡路島北部を震源とするマグニチュード7・3の地震が発生し、神戸市を中心に甚大な被害をもたらした阪神大震災から30年がたった。当時被災した2人の女性が今は移住した三重県多気町で、それぞれ子どもや地域の人に、いつ来るかわからない災害に普段から備えることの大切さを伝える。【下村恵美】
地縁なき被災、政治活動の糧に
県議の松浦慶子さん(59)は自身の被災経験から、女性や子どものための避難所運営を目指して、防災活動に取り組んでいる。
当時は徳島文理大薬学部の同級生だった夫の信男さん(62)と10カ月だった長女と神戸市西区の県営住宅に住んでいた。当日はトラックがぶつかったような衝撃で目が覚めると、すぐに長女を抱き寄せ、パジャマのまま外へ出たという。
神戸市内には被害の大きかった長田区に義父が経営し、夫婦で働いていた会社「万協製薬」があり、隣の兵庫区には義父母が住んでいた。心配して車で向かったが、なかなか進まず、途中から徒歩での移動に切り替えた夫ともはぐれてしまい、松浦さんは夕方に1度、自宅に戻った。
家財道具が散乱する自宅からミルクを持ち出し、長女と避難することにした。だが、奈良県出身のため、周囲に頼る人がいなかった。携帯電話が広く普及する前で今のように調べることもできず、避難所がどこかもわからず、たどり着いた中学校に身を寄せることにした。
誰からともなくお湯をもらってミルクを飲ませ、不安と寒さで毛布を体に巻いてうずくまっていると、見知らぬ女性が「赤ちゃんの分も食べて」とおにぎりを分けてくれた。優しい気遣いがうれしかったことを覚えている。
翌朝、信男さんが松浦さんがいる中学校を見つけ出した。だが、兵庫区の信男さんの実家も1階が潰れていたため、松浦さんは長女とともに知人の家に身を寄せた。断水は続き、トイレや風呂が不便な状況は変わらず、2月には長女を奈良県の実家に預け、松浦さん夫婦は親戚の家に住み、仕事を続けた。
神戸と実家を往復しながら生活を立て直し、約1年半後の96年7月、夫が継いだ会社を再建するにあたり、多気町に移住した。新たな土地で長男や次女も誕生したほか、地域の活動に参加して知り合いも増えた。
2011年には東日本大震災が起きて、神戸での記憶がよみがえった。不安でいっぱいだった避難生活でもらったおにぎりのありがたさを思い出し、一念発起して14年に多気町議に初当選し、23年からは県議として防災活動に向き合っている。「知らない土地で地震に遭い、母親として心細い思いをした。普段から地域の人とつながりを持ってほしい」と呼び掛ける。
防災×料理教室 子どもたちに生き抜く力を
多気町内で防災を意識した料理教室を運営する「根っこラボ」の代表、大須賀由美子さん(53)は30年前、兵庫県明石市の実家で被災した。「怖くて起き上がることもできなかった」という。
火災保険の書類を取るため、午前10時ごろ、勤めていた神戸市中央区の保険代理店に着いた。近くの神戸市役所は1階が潰れ、倒壊した家の前で立ち尽くす人がいた。煙が立ちのぼるのに消火する水が出ない。何もできない人たちがぼうぜんとする光景を目にして、「自然の脅威の前に人は無力だ」と強く感じた。
現在は子ども向けの料理教室を運営するほか、年間80校以上の小中高校を訪れる学校防災アドバイザーとしても活動する。食育と防災を結びつけた活動のきっかけは子どもの誕生だった。07年には夫の転勤に伴い、長女を連れて南海トラフ地震が懸念される三重に移住したことで、阪神大震災の経験から「人はどんな時でも生きなきゃいけない。大切な人や子どもたちに生きる力をつけてほしい」と思いを強くした。
料理が好きだったこともあり、「温かい料理を作ることができれば、元気になって生きる力がわく」と考え、14年に子ども向けの教室「だんだんキッチン」を立ち上げた。15年からは防災も取り入れた料理教室「ソナエノゴハン」を通して楽しんで、いざというときに向けて備える工夫を伝えてきた。
「根っこラボ」には、命の大切さや食や防災で生きる根っこを育てたいとの意味が込められている。防災アドバイザーとして学校や地域で広がる活動を続けながら、子供たちが防災の基礎を学び成長する姿、地域の人が第一歩を踏み出した取り組みなどを「論文にまとめたい」と考えている。
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