生き生きシニアがいい刺激 キッザニアなど子供向けサービスで存在感
毎日新聞 / 2025年1月19日 6時0分
働くシニア層の活躍の場が子ども向けのサービスを担う仕事に広がっている。長年培ってきた経験を未来を担う子どもたちに還元してもらおうと、積極登用するところも。生き生きと働くシニアの姿は、同僚の若手スタッフに刺激を与えるなど多世代に好影響をもたらしている。
職業体験をサポート
子ども向けの職業体験施設「キッザニア」。東京、兵庫、福岡の全国3カ所にある施設は、実社会のような街を再現し、企業・団体が出展する「パビリオン」で3~15歳の子どもたちが職業・社会体験をしながら世の中の仕組みを学ぶ。福岡市博多区の「キッザニア福岡」では、サービスを提供するスタッフ約600人のうち15人が60代以上という。
銀行のパビリオンで働く西口美恵子さんは60代スタッフの一人。「いらっしゃいませ、ご入金ですね」と子どもたちに笑顔で対応していた。銀行は、来場した子どもたちのほとんどが施設内で使える口座を開設したり、専用通貨「キッゾ」を預けたりするために訪れる。
航空会社の客室乗務員や航空系専門学校の講師など人と関わる仕事に約30年携わってきた西口さん。子どもが大好きで、キッザニア福岡の求人を見て「やってみたい」と応募した。2022年7月のオープン時から、子どもたちの体験などをサポートする「スーパーバイザー」を週3日ほど務める。
実社会で銀行勤務は経験がなく、「緻密な作業が苦手で不安があった」というが、オープン前に窓口対応などのトレーニングを受け、紙幣を数える「札勘」は、おもちゃの紙幣を買って練習した。
子どもたちのかわいらしいやり取りや笑顔に癒やされる毎日。仕事体験をする子どもの様子を観察し、自信がなさそうに見えた時こそ励ますなど、子どもたちに「大変だけど楽しい」「またやりたい」と思ってもらえるような声掛けやサポートを心がける。
パビリオンのスタッフには大学生などもおり、「若い人と仕事できるのも魅力。『今後どうなりたい』という夢や希望を聞くだけで元気になる」。新人スタッフのトレーニングも担当し、外国人の利用客向けに英語の受付用紙を用意するなど利用しやすい施設作りにも一役買っている。
西口さんと同じように施設のオープン当初から働くスタッフ、小池久夫さん(68)は、施設内にある親子向けの飲食店「宮武讃岐うどん」で調理などを担当。「帰り際に子どもたちから『おいしかったです』と声をかけられるとすごくうれしい」とやりがいを語る。
定年までの約30年は、車のバッテリーなど電池を作るメーカーの工場で品質管理の仕事一筋だった。ものづくりとは畑違いな子ども相手のサービス業を希望したのは、5歳の孫の存在が大きかった。「孫を相手に遊ぶのが楽しくて」
ほとんど料理をしたことはなかったといい、うどん店の社員から約2カ月間、天ぷらの仕込みや揚げ方、油の管理などの指導をマンツーマンで受けた。「『この年齢で怒られるのか』と思うこともあったが、教える方も一生懸命。私も必死に覚えた」と苦笑する。そうこうするうち、例えば形が曲がらないようにエビ天を揚げるなど調理のコツも体得。今やだしの仕込み、製麺、ゆで上げなど調理全般から配膳、接客まで全てこなす。
10代から60代までスタッフの年代は幅広いが、日帰りで一緒に旅行に出かけることもあるなど仲が良く、「家族からも『いくらか明るくなった』と言われた」。体力をつけようと、職場まで40分ほどかけて歩いて通っているといい、「ここで楽しく働いていたい」。
キッザニアの担当者は採用の狙いについて「世代間のコミュニケーションが希薄な世の中で、キッザニアでの経験が子どもたちの社会性を育むことに寄与すると考えている」とし、「人生経験を重ねたシニアの方が働いていると、子どもたちが安心して体験でき、他の世代のスタッフにもいい刺激になる」と話した。
ロボット教室でも一役
一方、小学生などを対象にロボット製作やプログラミングの教室を開く団体では、50~70代の元技術者などを「シニアコーチ」として積極的に登用している。
教室は一般社団法人「プラチナ構想ネットワーク」(東京)が運営する「プラチナ未来スクール」で、現在は茨城県取手市内や都内の中学校で開講。複数のロボットを組み立て、それぞれ動かすためのプログラミングの構成を考える学びを通じて、課題に対応する子どもたちの能力を育てるのが目的だ。
シニアコーチは、大学生のスタッフとともに子どもたちの学びを支援し、大学の元教員、パソコン教室講師ら50~70代の約20人が登録している。当初は子どもたちの対応に戸惑っていたシニアも、関わるうちに笑顔が増え、親しみを込めてお互いが下の名前で呼び合うなど良好な関係を築いているという。
ネットワークの担当者は「お互いに好きなロボットというツールがあると、会話が弾みやすいようだ」と分析。「シニアの人たちが培ってきた技術を生かせて、子どもたちも多世代で学ぶことでコミュニケーション能力が身につく。スタッフの大学生も、シニアに就職や進学の相談をしたり、仕事の経験を聞いたりして、同世代では得られない情報の交換ができる」とシニアコーチの意義を語った。【山崎あずさ】
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