「助けられずごめんなさい」あの日の帰路から癒えない傷 阪神大震災
毎日新聞 / 2025年1月22日 8時30分
「助けられなくて、ごめんなさい」
阪神淡路大震災から30年となった17日、神戸市の東遊園地で初めて「1・17のつどい」を取材した。敷地内に建てられた「1・17希望の灯り」の前。花を手向け、涙を流す女性は胸の内でそう語りかけていた。
兵庫県明石市在住の田中麗美さん(51)は私が声をかけると、遠慮がちに「遺族ではないんです」と口を開いた。「でも震災で自分の人生の歯車は狂い始めた。なかなかこの場に来られなかった」と自身の30年間を語り始めた。
芦屋市に住んでいた田中さん家族にけがはなく、自宅に大きな被害もなかった。震災発生からまもなく、長女だった田中さんは家族や田中さん宅に避難していた友人らの食料を調達するため、東灘区のスーパーまで1人で自転車を走らせた。その帰路。何カ所も救出作業が行われていた。だが、田中さんは家で待っている家族が心配で、一度も足を止めることはなかった。
しかし、その帰路で自分に何もできなかったという罪悪感でその後も20年以上苦しめられている。助けられたかもしれないという後悔や恐怖から、トイレや風呂などの個室に一人で入れなくなり、救急車のサイレンが聞こえると、ガタガタと震えが止まらなくなった。心身性のストレス症候群やうつ病などと診断され、仕事も長く続かなかった。
震災から数年間はつどいにも通ったが、遺族の悲しみやつらさに触れることがしんどくなり、つどいへの寄付を続けながら自宅で黙とうするようになった。田中さんは「長女気質で、まだ若かったから『自分が何とかしないと』という正義感が人一倍強かったのだと思う」と振り返った。
「30年の節目で、今日は自分を奮い立たせて来た」という田中さん。あの日の帰路と救出活動の光景はまだ鮮明だ。赤いバラと白い小花が入った花束を手向けた。涙をハンカチで抑えながら祈りを終えると、「ここに来てみて、自分でも驚くほど傷が癒やされていないことに気付いた。まだ自分を責め続けているんですね」とほほえんだ。聞き終えた私には掛けられる言葉が一つもなかった。田中さんの後ろ姿を見守ることしかできなかった。
東遊園地に並べられた灯籠(とうろう)に火がともる中、私はさまざまな人に話を聞いた。大切な家族、友人、恋人を失った人たち、隣の遺族の話を聞きながら涙を流す女性、震災後に病気で子供を亡くした母親――。ここを訪れたすべての人に30年分の人生があり、震災が影を落とした悲しみがあることを痛感した。私には何ができるだろうか。自分の中に芽生え始めた責任感に問いかけ、「また、ここで一人一人の声に耳を傾けよう」と強く思った。【飯塚りりん】
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