わいせつ被害後も加害隊員の接触禁じず 元空自女性隊員が国を提訴
毎日新聞 / 2025年1月30日 5時0分
航空自衛隊の女性隊員が2020年夏、九州の基地内で2階級上の男性隊員からわいせつな行為をされ、上司に被害申告後も職場で加害者から接触を受けていたことが関係者への取材で判明した。女性は国と男性隊員に計1210万円の損害賠償を求めて福岡地裁に提訴しており、「自衛隊側が被害申告後に配置転換などの適切な措置を怠り、精神的苦痛を受けた」と訴えている。
厚生労働省は男女雇用機会均等法に基づく指針で、セクシュアルハラスメントが職場で発生した際には「被害者と行為者を引き離すための配置転換」などの措置を取るよう求めている。ただ、民間の事業主に向けた指針であるため、対象外の自衛隊では同様の措置が取られず、トラブルになるケースも出ているとして専門家は注意を促している。
訴状や国側の答弁書によると、女性と男性隊員は当時、九州地方の別々の基地の所属で、男性隊員は両基地間を往復するバスの運転業務を担当。女性は20年夏、昼休みに基地内の娯楽室で男性隊員からキスされたり、胸を触られたりするなどのわいせつ行為を受けた。
女性は即日、上司のセクハラ相談員に被害申告したが、男性隊員の運転業務は継続された。自衛隊側は21年3月、女性が被害申告後も男性隊員と基地内で遭遇したとの情報を把握したため、男性隊員に基地内への立ち入りを禁じ、同月28日付で運転業務から外した。
だが、その後も接触を防げなかった。弁護士を通じて申し込まれた示談を女性が拒否すると、男性隊員は21年8月、基地内の別の部隊に異動していた女性に内線電話をかけ、直接示談を申し込んできたという。女性は応じなかった。
男性隊員は基地警務隊から強制わいせつ容疑で書類送検されたが、福岡地検は同年12月に不起訴処分(容疑不十分)とした。その後、女性は退官。自衛隊側は男性隊員の行為を「セクハラ」と認定した上で「故意かつ悪質」として停職1年の懲戒処分とした。
23年8月に提訴した女性側は訴訟で「被害直後から(複数の上司に)何度も接触・連絡の禁止を求めたが、基地への接近禁止という最低限の要望ですら取り合ってもらえなかった」と主張。厚労省の指針に基づいて働きやすい職場環境を維持する「環境調整義務」に違反したと訴えている。
国側は、男性隊員が同意なくわいせつな行為をしたことや、その後も基地内で女性と遭遇したり、内線電話をかけたりしたことは認めた。一方、厚労省の指針については「民間の事業主に対するもので、国家公務員について直接定めたものではなく、わいせつ行為後の対応に関する法的義務の根拠にならない」と反論。男性隊員には被害直後に女性への接触を回避するよう口頭で指導し、被害の約8カ月後に男性の業務内容も変更したことから「適切な措置を講じていた」として請求棄却を求めている。
男性隊員側は女性に明示的に許可を求めずにキスしたことなどを認めたが「直前に抱き合う行為があり、雰囲気的に許されると思った。不法行為の故意はない。(示談交渉のための架電が)タブーとの自覚はなく、注意も受けていなかった」などと主張。同じく請求棄却を求めた。
自衛隊のハラスメント問題に取り組む「自衛官の人権弁護団」の佐藤博文弁護士は「自衛官は人事院規則や行政不服審査法が適用されず、民間の指針の対象外であるため、治外法権のようになっている。被害が発覚しても被害者と加害者を引き離す措置を講じないケースは多々ある」と指摘。「セクハラなど労働者の人権に関わる重要な問題は公務員も民間も変わらず、公務員は一般職も特別職も変わらないという考えは確立している。事案発覚後、早期に被害者と加害者を引き離すという一般的な対応とかけ離れており、問題だ」と話す。【志村一也】
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