コミュニティフリッジ出雲、開設1年 ひとり親家庭に週1回の喜び
毎日新聞 / 2025年1月29日 9時15分
島根県出雲市のNPO法人「しまね子ども支援プロジェクト」が、経済的に困難な状況にあるひとり親家庭が食料を受け取れる「コミュニティフリッジ出雲」の運営を2023年11月に始めてから1年以上が経過した。ひとり親たちはどのような思いで施設を利用しているのか。
24年12月下旬、同市大社町入南にあるコミュニティフリッジ出雲には、米や果物、菓子のほかに、ケーキやそばといった年末らしい品物が並んでいた。施設は週に1回好きな時に利用でき、品物をバーコードで読み取って持ち帰ることができる。そこに、4歳の娘を連れた市内在住の30代女性がやってきた。
この女性は、娘を出産する1カ月前に娘の父親にあたるパートナーを失っている。理由は自殺だ。以来、一人で娘を育ててきた。児童扶養手当などを受け取るほか、週に二十数時間のパートで生活費を稼いでいる。女性は昨年の2月以降、毎週この施設を利用。「野菜や果物は価格が上がってなかなか手が出ないので頂けるのはうれしい」と喜ぶ。
娘の好物はキャラクターのシールが入った「ポケモンパン」だ。市内のスーパーがこうした菓子パンを寄贈する曜日を狙って、二人はコミュニティフリッジを訪れる。女性には「お金を出して買おうと思うのは主食や最低限の野菜。優先順位が低いお菓子はどうしても我慢させてしまう」という悔しい気持ちもある。
子どもは幼く頻繁に体調を崩す。最近は子どもと一緒に体調を崩すことが増えてきた。正社員として働くのは難しいと考えている。「娘も自分も野菜が足りていないと思う。娘に食べるものがあれば自分はそんなに食べなくてもいいかなと思っていたけど、娘と一緒に風邪をひいている自分のことを考えると、結構体が弱っているんじゃないかと思うこともある」
女性は「ひとり親でも子どもと一緒に生きていきたい」と強く望んでいる。それでも、「子どもが大きくなった時に周囲とのズレを感じて、悲しい思いをするかもしれない。進路を選択する高校生になった時が心配」と将来への不安は拭えない。
施設内には物品を寄贈した人たちへの感謝の言葉がつづられたメッセージボードがあり、この女性は毎回必ず書き込んでいる。「こうして民間の人が何か行動しないと、私たちが苦しい思いをするのはどうかと思う。書いた自分の気持ちが行政に届いて根本的な解決につながってほしい」と願う。
◇
NPO法人「しまね子ども支援プロジェクト」は2024年9~10月、利用者約180世帯(当時)を対象に生活状況や悩みなどに関するアンケートを実施した。
99件の回答があり、物価高による家計への影響に関する質問では、88・9%が「厳しくなった」と回答。複数回答の具体的な影響としては「貯蓄ができなくなった」が66・7%▽「家族全体の食費を削った」が42・4%▽「子どもの成長に合わせた衣服や靴を購入できない」37・4%――だった。
また、ひとり親として過去に感じた気持ちや経験を問う項目は複数回答で、44・4%が「将来に絶望を感じた・死にたいと思った」ことが「ある」「まあある」と回答し、「引け目に感じた・隠したいと思った」は45・5%だった。
同NPOの樋口和広副理事長(59)は「将来に絶望するなど困窮世帯の現状が行政には届いていない。我々も頑張るが、国や自治体も一緒になって支援をしなければ多くの子どもたちを救えない」と指摘する。
国内では20年に岡山市で初めて設置されたコミュニティフリッジは、行政が関わったり商工会議所が運営したりしているケースもあるという。出雲はボランティアのみで運営している。24年12月までに総額約840万円の寄付が寄せられたが、最近は寄付金や食料の寄贈も減少傾向だ。家賃や電気代などで毎月30万円の運営費がかかり、資金の確保が課題になっている。同NPOは寄付のほか、食料品の寄贈を求めている。問い合わせは同NPO(0853・31・5149)。【松原隼斗】
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