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創業5年のベンチャーと老舗がタッグ クラフトサケで守る能登の酒

毎日新聞 / 2025年1月31日 7時30分

揚げ浜式製塩法の塩を使った共同醸造に挑戦する日吉智さん(右)と佐藤太亮さん=福島県南相馬市小高区のhaccoba小高醸造所で2025年1月13日午前11時46分、錦織祐一撮影

 能登半島地震で被災した石川県内の酒蔵と、県外の酒蔵が共同で日本酒を造るプロジェクトに、東日本大震災の被災地・福島の新興事業者が加わった。挑むのは、新しい手法や副原料を使った「クラフトサケ」の醸造。被災地の伝統産業を守るため、100年超の歴史を持つ老舗と、創業5年の「酒造ベンチャー」がタッグを組む。

新ジャンルの「クラフトサケ」

 「塩味をどれだけ感じさせられるかが鍵ですね」

 1月13日、福島県南相馬市小高区にある酒蔵「haccoba(ハッコウバ)」の醸造所を、石川県輪島市河井町の「日吉酒造店」の杜氏(とうじ)、日吉智(あきら)さん(50)が訪れた。

 醸造に向けた準備のため、haccobaの代表、佐藤太亮(たいすけ)さん(32)らと念入りに打ち合わせしていた。

 協力して造るのは、クラフトサケと呼ばれる新しい酒。日本酒の製法をベースにしながら、醸造過程で副原料を使うことで酒税法上の「その他の醸造酒」となり、従来の日本酒より免許が下りやすく、新規参入が可能となる新ジャンルだ。

 多彩な副原料を用いることで独自性も発揮できる。今回はその副原料に、能登半島で500年以上の歴史を持つ、海水をくみ上げて砂浜にまく「揚げ浜式製塩法」の塩を使う。

地震で酒蔵が全壊

 1912(大正元)年創業の日吉酒造店は、能登半島地震で大きな被害を受けた。店舗は、大火が起きた輪島の朝市通りに面している。

 火の手は店の隣で奇跡的に止まったが、酒蔵は地震で全壊。日吉さんは金沢市に避難し、銘酒「手取川」で知られる吉田酒造店(石川県白山市)などに醸造を委託し、再開を目指している。

 日吉さんは「4、5年は自前の醸造は難しいだろう」と考えている。東日本大震災の被災地とは以前から交流があり、知人からは「必ず復興できる。焦るな」と強調されたという。

 「長期戦で取り組まなければいけないので、共同醸造で収入が得られるのは本当にありがたい」と話す日吉さん。「普段はよその酒蔵の仕事を見ることはないので、これを機にいろいろと知りたい」と前向きに考えている。

広がる共同プロジェクト

 能登地方は国内有数の酒どころで、日本4大杜氏の一つ「能登杜氏」でも知られている。しかし地震の被害は甚大で、多くの蔵元は酒造りができなくなった。

 その中で、吉田酒造店の吉田泰之さん(38)らが始めたのが「能登の酒を止めるな!」プロジェクトだ。

 県外の酒蔵に醸造への協力を呼び掛け、クラウドファンディングで資金を募った。2024年1月に第1弾、6月に第2弾を始め、計5200万円以上の応援購入を受けて計20銘柄の共同醸造酒が生まれた。

 今回の第3弾は24年11月から行い、初めてクラフトサケの蔵元4社が参加。haccobaは、東日本大震災の被災地から初めて加わった。

「日本酒で社会に貢献」

 haccobaは佐藤さんが20年2月に創業した。佐藤さんは埼玉県川口市出身で、慶応大に入学する直前に東日本大震災が発生した。くしくも、自身の誕生日は3月11日。年を重ねるごとに自然と被災地に思いが向き、「社会に貢献したい」と願うようになった。

 日本料理店でのアルバイトを通じて、日本酒の豊かさを知ったことも重なった。

 さらに日本酒への思いを深くさせたのが能登だった。地域おこしに関心があった大学4年の時、たまたま見つけたインターンシップで石川県七尾市のまちづくり会社に入り、半年間滞在した。

 老舗の蔵元を訪れ、醸造過程を見て回る日々。酒蔵ごとに醸される豊かな味わいに魅了され、杜氏らの日本酒との向き合い方に憧れを抱いた。

 卒業後は「酒蔵を設立したい」と考えたが、日本酒製造の新規参入はほとんど認められていなかった。いったんは東京のIT企業に入ったが、日本酒ベンチャー「WAKAZE(ワカゼ)」(東京都世田谷区)の存在を知った。後にクラフトサケとしてブランド化される製法で新規参入し、フランスへの進出も目指していた。

 一念発起し、退職して新潟の酒蔵などで修業した。妻みずきさん(48)の出身地の福島県浜通り地方で、東京電力福島第1原発事故からの復興を目指して起業家が集まっていた小高を創業の地に選んだ。「一から地域づくりができる中で、酒蔵を中心としたコミュニティーを作りたかった」

 夫婦で移住し、空き家をリノベーションした醸造所で酒造りに取り組む。ビールのようにホップを混ぜたり、東北のどぶろくの製法を取り入れたりした多彩なクラフトサケは、ネット通販などで次第に人気を集めるようになった。

 そんな中、24年の元日に起きた能登半島地震。吉田酒造店から酒造りを教わったこともあり、今回のプロジェクトには真っ先に手を挙げた。

 地震の被災地という共通点もあり、「オールジャパンで被災地の伝統産業を救いたい」と願う佐藤さん。「酒はその土地に根差す産業。この酒で能登の地に思いをはせ、好きになってもらうきっかけになれば」と期待を込める。

 共同醸造した酒は2月6日まで、クラウドファンディングサイト「Makuake」で応援購入でき、3月中の発送を目指している。【錦織祐一】

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