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惨状、肉声で生々しく 大洋デパート火災訴訟の録音テープなど寄贈

毎日新聞 / 2025年1月30日 14時29分

大洋デパート火災の民事訴訟で使われた録音機と法廷内の音声が記録されたテープ=熊本市中央区で2024年12月25日、中里顕撮影

 1973年、熊本市中心部にあった「大洋デパート」で104人が犠牲となった火災を巡り、その遺族らが起こした民事訴訟を担当した弁護士が、当時の資料を地元の大学に寄贈した。資料には、原則録音が認められていない法廷での証人尋問を収めたカセットテープもあり、現場に突入した状況を証言した消防隊員の肉声が火災の恐ろしさを伝えている。

 犠牲者のうち82人の遺族らが約37億円の損害賠償をデパートの運営会社側に求めた訴訟に関するもので、遺族側弁護団の事務局次長を務めた松本津紀雄弁護士(82)=熊本市=が保管していた。火災後のデパート内の写真、書面資料などがある。

 このうちテープは36本で、遺族集会や証人尋問を録音したものだ。松本弁護士によると、74年に始まった訴訟は証人が多数に上り、熊本地裁の裁判長が、迅速に審理を進めるため異例の法廷内の録音を認めたという。75年5月1日の証人尋問では、火災直後のデパート内に入った消防隊員が出廷し、出動時の状況を克明に証言していた。

◆弁護士 (ガラスを)破った瞬間、屋内は見えたか。

◆消防隊員 煙とものすごい騒音で中は全然見えなかった。

◆弁護士 (中に)入ろうと試みた時、注水からどれぐらい時間がたっていたのか。

◆消防隊員 30分ぐらい過ぎていたと思う。

◆弁護士 (発見した)遺体の状態は。

◆消防隊員 4体とも頭を西にしてほとんど平行といった感じだ。窓から約1メートルもなかったような感じがした。

◆弁護士 頭を西にしてというと、窓の方に向けている感じか。

◆消防隊員 そうだ。

 煙と熱気で思うように活動できなかったことを証言したこの消防隊員は、多数の犠牲者を目の当たりにし、「こういった火災は二度と経験したくない」と訴えていた。

 訴訟は76年、会社側が計約18億円を支払う内容で和解が成立。運営会社は会社更生法の適用を申し立てて事実上倒産したが、管財人を通じ遺族への補償金は支払われた。松本弁護士は本来は債務の取り立てを優先する金融機関に掛け合ったり、国会議員に陳情したりするなど遺族の補償が進むよう奔走した。

 大洋デパート火災は、前年に起きた千日デパート(大阪市)の火災と合わせて建物の防火対策強化のきっかけとなり、74年の消防法改正で、不特定多数の人が出入りするデパートなどは既存の建物にもさかのぼってスプリンクラーなどを設置することが義務化された。

 だがその後も多数の犠牲者が出る火災は各地で相次ぐ。松本弁護士は教訓を後世に生かす必要性を感じ、火災から半世紀となる2023年、「予防に役立ててほしい」と資料の寄贈を決め、翌24年、知人を介して地元の熊本学園大(熊本市)に託した。

 大学はテープの音声記録をデジタル化して公開することを検討している。24年12月、寄贈を記念して開かれたシンポジウムで、松本弁護士はこう訴えた。「訴訟記録は子どもみたいなもので愛情がある。ぜひこの記録を活用してもらいたい」【中里顕】

 大洋デパート火災

 1973年11月29日午後1時過ぎ、大洋デパート(地下1階、地上9階建て)の2~3階の階段付近から出火し、3階以上をほぼ全焼。客や従業員ら104人が死亡し、67人が負傷した。出火原因は不明。防火設備の不備や初期消火、避難誘導の練度が欠けていたことが被害拡大を招いたとされる。跡地は複合商業施設に建て替わった。

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