「臭い飯」と言わせない 刑務所栄養士が奮闘、ギリギリ予算も 愛知
毎日新聞 / 2025年1月31日 9時46分
「臭い飯」などと表現されることの多い刑務所の食事。さぞかし「まずい飯」なんだろうと想像する人もいれば、受刑者なんだから当然……なんて思う人もいるかもしれない。でも、塀の中では、「食事を通して更生を」と願い、限られた予算内でおいしい食事を提供しようと奮闘する人の姿があった。【田中理知】
「更生」願い、調理指導
昨年12月、主に精神疾患のある男性受刑者を収容する岡崎医療刑務所(愛知県岡崎市)の炊事場に、約100個のカップケーキが並んでいた。クリスマスの特別メニューという。余り物のクッキーをトッピングし、調理担当の受刑者がその脇に生クリームを絞っていた。
慣れない手つきで炊事場に立つ受刑者を、そばで見守る女性がいる。管理栄養士の黒柳桂子さん(55)だ。受刑者への調理指導のほか、メニュー考案や仮釈放前の健康指導などを担っている。
黒柳さんが同刑務所で働き始めたのは2012年。病院や介護施設で栄養士として勤務した経験があり、刑務所での仕事も「施設の給食と同じだろう」と思っていた。まさか、受刑者に料理を教えることになるとは思いもしなかった。
それまでは刑務所と無縁の人生だった。先入観から「怖いところ」と思っていたが、実際に訪れてみると想像と大きく違った。威勢のいい若者もいれば、気弱そうな高齢者もいる。男性のみの収容施設で、職員もほとんどが男性。そのせいか、女性職員にどう振る舞っていいのか戸惑っているように感じた。
指導する受刑者は15人ほど。彼らがどんな罪を犯したのか、黒柳さんには知らされていない。料理経験のある受刑者はほとんどおらず、失敗は日常茶飯事だ。
牛乳寒天を作るはずが、うまく固まらずシャビシャビに。煮汁がわらび餅のように固まった煮魚ができあがったこともある。「ひじきって何ですか?」「竹の子って本当に竹になりますか?」といった質問も飛び出す。そんな時は、黒柳さんが丁寧に説明し、おいしく食べられるように手を加える。
刑務所の食事には独特のルールがある。問題が起こらないよう「平等」が大原則。ミートボールや白玉はどの皿も同じ数で、肉や魚もできるだけ大きさをそろえる。平等に取り分けている間に冷めてしまうため、湯気の立った食事は出せない。
1食分の予算もギリギリだ。岡崎医療刑務所は1日3食で1人約540円、土日祝日のおやつは1人68円と決まっている。最近は物価高の影響もあり、さらに厳しさを増す。
それでも受刑者に満足いく食事を提供するため、値の張る牛肉は豚肉に、キャベツは白菜に変更。大根の皮のきんぴらをメニューに加え、余ったパンでラスクを作るなどして、おやつ代の節約に努めてきた。
試行錯誤しながらの13年。黒柳さんの原動力となったのは、受刑者から聞こえてくる「うまかったっす」の声だ。そしてもう一つ。やりとりを重ねるうちに、少しずつ表情が変わり、新たな目標を持ったり、出所後に目を向けたりする受刑者の様子を見ることもやりがいにつながった。
カップケーキにクリームを乗せていた受刑者は、服役中に調理師免許を取得した。「いつかお菓子屋さんを開きたい」と話し、ノートにパフェのデザインをいくつも描きためていた。他にも、刑務所で食べたメニューを「(出所したら)母ちゃんに作ってあげたい」と話す受刑者もいた。
22年に検挙された刑法犯のうち、再犯者の割合は約48%(8万1183人)で高止まりが続いている。
「食事を作ってくれた人や、作った過程に思いをはせてほしい」。それが黒柳さんの願いだ。食を通した関わりが、やがて再犯防止にもつながると信じている。
■ことば
刑務所の栄養士
法務省で働く技術職を指す「法務技官」の一つ。法務省によると、昨年4月現在で全国の刑務所などに20人が配置されている。その他に、非常勤の栄養士もいる。「酒類は使わない」などの規定に沿って献立を考え、「炊事係」の受刑者に調理指導などを行う。精神疾患がある男性受刑者を収容する岡崎医療刑務所では、生活支援のために収容された初犯の受刑者が炊事係に就く。
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