「アリ地獄のよう」 運転手の救助活動を阻む水と土砂 埼玉陥没事故
毎日新聞 / 2025年2月4日 19時54分
埼玉県八潮市の県道交差点で道路が陥没しトラックが転落した事故は、4日で発生から1週間となった。トラック運転手の70代男性の救助活動は水や砂に阻まれ難航しており、一進一退の状況が続いている。
関東平野有数の軟弱な地盤
「消防が本格的な救出に入れない状況は大変遺憾だ。昼夜を問わず、(がれきの撤去など救助のための)環境整備に全力を傾けたい」。埼玉県の大野元裕知事は4日の定例記者会見でこう述べ、2次災害の危険性などに阻まれ、救助活動が遅々として進まない現状に苦渋の表情を浮かべた。
陥没が発生したのは1月28日午前。当初は長径約9メートル、短径約5メートルの楕円(だえん)形の穴だった。翌29日には消防がトラックの荷台部分をクレーンで引き上げたものの、運転席部分は穴の内部に残り、地中に埋まった。こうした活動のさなかにも崩落が相次ぎ、穴は数日で最長部分が約40メートルにまで拡大。県幹部は「言葉は悪いが『アリ地獄』のよう」と評した。
地中深くを通る巨大な下水道管が破損した陥没現場は、埼玉県東部に広がる低地に位置し、約6000年前は「奥東京湾」と呼ばれる遠浅の海だった。
地質学に詳しい「だいち災害リスク研究所」の横山芳春所長によると、関東平野の中でも有数の地盤が軟弱な地域で、ボーリング調査では地下約45メートルまで泥のような層が続く場所も確認されたという。「水を含んだ砂が破損した下水管の穴に流れ込みやすく、空洞が広がったのではないか。固い地盤であれば、ここまで被害が拡大しなかっただろう」と指摘する。
消防などによると、救助活動は、重機で穴の中のがれきや土砂を除去▽専門家が地盤崩落や水の流入の危険性を調査▽消防隊員が手作業などで捜索――といった手順が想定される。だが軟弱な地盤に加え、止まらない水にも阻まれている。
救助活動を難しくする課題の数々
県は陥没現場の下水道管に流れ込む水量を減らすため、周辺12市町の約120万人に下水使用の自粛を要請。29日には上流部で汚水を川に流す緊急放流にも踏み切った。だが30日未明に起きた新たな崩落後、下水道管の上部を通り損傷した「雨水幹線」から、用水路の水が陥没現場に流れ込んでいることが分かり、土のうなどを積む応急措置に追われた。
併せて消防などは、重機を穴の中に進入させるスロープを造成。2月1日に完成したが、陥没現場にはまたしても水が流入し、救助活動は中断した。下流の下水道管が土砂などで目詰まりして汚水の行き場がなくなり、穴の中にあふれたとみられる。現状のスロープだけでは救助活動に限界があるとして、新たなスロープの造成に着手し4日も作業が続けられ、本格的な救助活動には至っていない。
さらに、下水道管は下流ほど地中深くに埋設する必要があることから、下水処理場の手前約3キロに位置する今回の陥没現場では深さ約10メートルを通る。これも救助活動を難しくさせている。12市町の下水が集まる地点にあり、直径は4・75メートルと下水道管の中で最大規模で、陥没現場に流れ込む汚水を完全に遮断するのは現状では不可能とされる。
「1年かかるのでは」容易でない復旧工事
復旧はどうなるのか。県は救助活動が完了し、破損した下水道管の応急復旧が終われば、本復旧に向けた検討を本格化させる方針で、2日に有識者らでつくる「復旧工法検討委員会」を設置した。ただし、120万人分の汚水が流れ込み、交通量の多い県道下を通る下水道管を直す作業は容易ではない。
実際、陥没現場から約500メートル上流にある下水道管は、2020年度の調査で早急に修繕が必要と判断されたが、現在も補修に取りかかれず、工事設計の段階で止まったまま。県の担当課は「120万人の下水を止めず、片側2車線の大きな道路も止めずに修繕する方法が不明で、検討していた」と明かす。
県の復旧工法検討委員会で委員長を務め、下水道政策などに詳しい日大生産工学部の森田弘昭教授(環境工学)は、陥没の要因を「下水管内の微生物の働きなどで硫酸が発生し、コンクリートや鋼鉄製のパイプを腐食させ、地下水と土砂が流れ込み、地中の空洞部分が徐々に拡大した可能性がある」と解説。複数の管から集まった下水が混じり合って攪拌(かくはん)されながら流れる地点に当たり「硫化水素や硫酸が発生しやすい」と分析した。
復旧については、上流部から「迂回(うかい)路」をつくって一時的に汚水を流し、その間に陥没現場を補修する方法などが考えられるといい、「新たに下水道管を設置する工事となるので、1年程度はかかるのでは」との見通しを示した。
ある県幹部は、現場付近に埋設された長さ50~60キロの下水道管の本復旧には「十数億円から数十億円かかる可能性もある」と頭を抱える。【鷲頭彰子、木原真希、安達恒太郎】
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