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「何度家出したか」 発症で性格も変わり…失語症の息子支える母

毎日新聞 / 2025年2月8日 14時30分

自身も障害を抱えながら息子の失語症と向き合っている北川千恵美さん=大津市本堅田6で2025年1月12日午後1時46分、飯塚りりん撮影

 脳梗塞(こうそく)などの後遺症で会話や読み書きが困難になる「失語症」。ある日突然、言葉を失う戸惑いや悲しみと向き合う失語症者たちのありのままの姿を、広まらない滋賀県内の支援体制の実情とともに伝える。

それぞれ交通事故、脳梗塞で発症

 「私も障害を持っている。どうしてこんなに苦しい思いをしないといけないのか」。高次脳機能障害がある北川千恵美さん(61)=湖南市。息子の祐也さん(41)も同じ障害となり、会話や読み書きが困難になる「失語症」も発症した。互いの脳の障害が原因でぶつかり合ってしまう。日常生活は「しんどいどころではない」。北川さんは力なく笑う。

 北川さんは31歳の時に交通事故に遭った。脳を損傷し、高次脳機能障害を負った上、左耳の聴力も低下した。多弁や記憶障害のほか、一度に複数のことができなかったり、圧力的な言葉を掛けられるとパニックを起こしたりすることもある。北川さんは祐也さんを育てつつ、仕事では業務を忘れないようにメモを繰り返すなど、工夫してきた。

 ところが4年前に祐也さんが脳梗塞となり、高次脳機能障害を発症、失語症との診断も受けた。「この子も自分と同じ運命をたどるのか」。脳裏に死ぬことが思い浮かぶほどだった。

 がくぜんとした北川さんだったが、生活環境が急激に変わっていき、一つ一つ対処していくことに追われた。

 失語症となった祐也さんは北川さんが話した言葉を理解できず、字も書けなくなった。何を話しかけても「分からない、無理、できない」。外出を避け、仕事もできなくなった。2人の暮らしを北川さんの給料で支えるしかなかった。

 北川さんを心底つらくさせたのは、障害によって祐也さんの性格が変わってしまったことだった。言葉遣いが攻撃的になり、怒ることが増えた。北川さんには強い話し方をされると動揺する症状があり、度々パニックになった。「悪循環だった。会話のすれ違いが多く、私が何度、家出をしたか分からない」と振り返る。

 北川さんはこのまま時が過ぎても光明は差さないと一歩を踏み出した。「(祐也さんを)理解しないことには生活できない」と、2022年度から「失語症者向け意思疎通支援者養成講座」を受講し、県内第1号の支援者として登録された。

 日常生活では祐也さんのリハビリになるようにさまざまな配慮をしている。数字や計算が苦手な祐也さんには毎日、夕飯の買い物と自炊を任せた。市役所での手続きは北川さんが仕事で同行できない場合でも対応できるよう、手紙を持たせ、市に電話した上で、できるだけ1人で行かせるようにしている。

 祐也さんの発症から4年。北川さんは息子の変化を感じている。自分で金額を調整しながら買い物ができるようになったり、外出して人と話したりもするようになった。祐也さんは現在、就労継続支援B型事業所に通っている。

 ただ、祐也さんとの日常的な衝突は今も絶えない。北川さんは「言い合いになった時に、間に入ってくれる人がいれば、と願うこともあるが結局、支援はない。私が工夫するしかない」と自分に言い聞かせている。【飯塚りりん】

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