「やせたくて」「ストレスで」 一人じゃない、アルコール依存の女性
毎日新聞 / 2025年2月9日 10時0分
女のくせに――。アルコール依存症で苦しむ女性の中には、性別による社会の偏見を気にして肩身の狭い思いをしている人も多い。依存症の女性が気兼ねなく語り合える場を提供しようと、高松市の病院では定期的に「女子会」が開かれている。【川原聖史】
「ダイエット目的で飲んでいた。ビールでおなかをいっぱいにして、夕飯は食べなかった」。「夫に気づかれないよう、家で缶ビールを音を立てないで開けることができる」――。
それぞれが打ち明ける体験談に「分かる、分かる」とうなずく女性たち。香川県依存症治療拠点機関「三光(さんこう)病院」(高松市)で週1回開催されている女性アルコール依存症回復プログラム「アメトーーク」だ。テーブルの上にはお菓子が置かれ、ミラーボールが回っている。記者が取材に訪れた1月中旬、4人の参加者が談笑している様子は、なじみの飲食店での女子会のようだった。
アメシスト×トーク
アルコール依存症者などの自助組織である全国の断酒会では、女性会員やそのグループを「アメシスト」と呼ぶ。アメシストは「酒に酔わない」という意味がある「紫水晶」と呼ばれる石のこと。同病院のプログラムは「楽しく明るく話す場」として人気バラエティー番組にもちなみ、アメシストのトーク「アメトーーク」と名付けられた。
参加者は「酒害」を経験した入院患者や、かつて入院していた人たちだ。女性たちが赤裸々に語る過去の経験談は重い内容だが、話し終えるとすっきりした表情になっていた。
「やせたい」から始まった飲酒
当時入院中だった加藤佳子さん(40代、仮名)は、25歳の時に「やせたい、きれいになりたい」という思いからダイエット目的で酒を飲み始めた。数年たつと、毎晩500ミリリットルの缶ビールを少なくとも6本は飲むようになった。自宅外では飲まず、仕事は無遅刻無欠勤だった。会社を退職後は、朝から飲酒をするように。家族から注意されても酒量は減らず、自分を依存症だとは思っていなかった。こうした生活は17年続いた。
家族と話し合い、2024年8月に三光病院に入院。3カ月後に退院したが、自宅でふと「今、飲んだらどうなるんだろう。節制できるはず」と考え、一口飲んでしまった。興味本位で飲んだら止まらなくなり、退院から約10日後に再入院となった。「情けない気持ちでいっぱいです」と反省の言葉を口にした加藤さん。他の参加者は「よくあることだよ」と声をかけていた。
キッチンドランカーが…
四国地方に住む岡田美香さん(50代、仮名)は、アメトーーク開催の数日前に退院したばかり。夫と毎日晩酌をしていたという岡田さんは、仕事のストレスから酒量が増え、料理をしながら酒を飲む「キッチンドランカー」になっていた。コンロの火を付けたまま飲酒して意識が飛んだこともあったという。幸い火事にはならなかったが、異変に気づいた夫に連れられ三光病院を受診し、即入院が決まった。「自分で何とかできる」と自身の依存症を認められず、入院が決まった時は「夫に捨てられたと思った」と振り返る。岡田さんは入院後、アメトーークで同じ依存症の女性たちと話をする中で気持ちが楽になり、回復に向けて光が見えたという。
当事者の経験から
中心となって会を開催しているのは、同病院のデイケアに薬剤師として所属する臼井志乃さん(49)だ。自身もアルコール依存症に苦しんだ。31歳の時に心の支えだった実父が亡くなったのを機に、さみしさを紛らわすため酒を飲み続けた。21年に地元で開催されている断酒会を探し、参加した。今は酒を断つことができているが、酒への未練はなくならない。断酒を決行することは、一人では無理だったと振り返る。
「依存症は『自分は違う』と認めない否認の病気。認めることから回復の一歩が始まる」と臼井さん。「依存症で苦しんでいる女性の中には性被害を受けた人などもいて、男性もいる断酒会では話しにくいこともある。女性だけの場で、苦しんだ過去を気さくに話してつらい経験を価値に変えてほしい」と呼びかける。
三光病院には全国から依存症の患者が訪れる。海野順院長によると、アルコール依存症は男性が多いが、近年は女性も増えているという。「女性の依存症者は、うつ病や不安障害などの精神疾患が併存する『重複障害』が男性よりも多く見られるのが特徴だ」と指摘。「男性より偏見が大きく居場所を失いがちになっている女性にとって、アメトーークのようなコミュニティーは必要だと思う」と語る。
女性専用のアルコール依存症回復プログラム「アメトーーク」の問い合わせは三光病院(087・845・3301)。
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