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愛媛・内子町の醸造老舗、海外展開も人材不足 生産追いつかず

毎日新聞 / 2025年2月11日 8時15分

森文醸造の森秀夫社長(右)と、長男で取締役営業本部長の森隆志さん=愛媛県内子町の同社で2025年1月30日午前10時45分、太田裕之撮影

 1893(明治26)年の創業から132年となる愛媛県内子町の醸造食品会社「森文醸造」が海外展開を拡大している。伝統技術を生かした「秘蔵」のしょうゆや米酢に加え、独自開発した健康飲料「おいしい酢卵」などをアジアや欧米の10カ国・地域に輸出。今後も4カ国を追加する計画だ。だが、販路拡大で成長が見込まれる一方、人材確保が難航。せっかくの需要に生産が追いつかない状況となっている。

 2025年1月30日、同町の重要伝統的建造物群保存地区「八日市・護国の町並み」の入り口に位置する同社では、台湾向けに出荷する商品計600ケース(9000本)がトラックに積み込まれた。台湾への出荷を始めた14年当時と比べると20倍の量という。

 「おいしい酢卵」は酵素分解と低分子化ペプチドの機能を活用。米酢とパパイア酢に放し飼いの有精卵を殻ごと溶かし、アセロラやユズの果汁、ローヤルゼリーなどで栄養と味を調えた。島根大農学部から愛媛大大学院に進み、酵素を研究した4代目の森秀夫社長(78)が開発して1998年に商品化。同社の主力商品に育ち、全国各地に顧客を持つようになった。台湾や香港、シンガポールでも百貨店や高級スーパー、健康食品専門店で販売され、インターネット通販で全土に届けられている。

 独自開発した回展式加圧蒸煮装置(NK缶)を使ったしょうゆと米酢、ノンオイルドレッシングなども含めた多種類の商品の輸出は2014年、台湾、中国、スイスに始まり、香港、シンガポール、仏英独、豪州、米国へと広げた。健康志向と和食人気の高まりを背景に、現地の邦人消費者向けや日本食レストランなどの業務用に売れている。

 現在では同社の全体の3割を占めるようになった10カ国・地域での販売実績は10年間の累計で8200万円。近くアラブ首長国連邦も加わり、韓国、インド、ベトナムも見通しが立っているという。「国内では人口減少で需要が縮小する中、強化してきた海外輸出が順調で、まだまだ伸びる」と森社長は語る。

 それにもかかわらず、直面しているのが人材不足だ。創業100周年の頃に35人を数えた社員は高齢による退職が進む一方、新たな採用が進まず減少傾向が続いていたが、新型コロナウイルス禍で激減。募集してきたものの補充はできなかった。現在は森社長と、長男で取締役営業本部長の隆志さん(46)の他は、いずれも60代以上の社員3人だけだ。

 アレルギー対策で小麦の代わりに県産大麦で仕込むしょうゆは、協同工場で委託製造するようになった。社内ではタンクからのろ過、火入れ殺菌、機械による瓶詰め、ラベル貼り、箱詰めまでが主な作業で、5人の力で何とか回しているが、需要に応えきれていない。同社の24年の総売上額は約1億円で、1995年の約3億円と比べ3分の1に減っている。

 輸出先を増やすにも生産体制がネックとなっており、2年ほど前から募集を強化。商品を共同開発してきた愛媛大農学部の教授らをはじめ、知人にも人材紹介を依頼しているが、地方での就職希望者は見つからない。24年11月から人材募集のテレビCMも出すようになった。「海外向けに成長できる仕事だと知ってほしい」と、同年5月に商談で訪れたドバイの高層ビル群を映してアピールしているが、まだ採用には結びついていない。

 一方、同社が大切にしているのは大企業にはない新たな商品開発だ。森社長は愛媛大大学院在籍時に開発した乳酸菌の酵素が画期的と注目され、東京大や大阪大、大手製薬会社の研究者から「菌を分けてほしい」と依頼された。発酵に関する研究論文を5本も発表。九州大から勧誘を受け、研究者の道を進むつもりだった。そんな矢先に2代目社長だった父が倒れ、3代目となった兄と共に家業に携わるようになった経緯がある。

 大学を離れても家業の現場で続けた研究が「おいしい酢卵」や「おいしい玄米粉」などの健康食品を生み出した。「今後も新たな開発を続ける必要がある。今はノウハウがある自分がいるが、継承できる人材にも来てほしい」と森社長。また、海外との連絡事務は隆志さんが一手に担っているが、いずれ5代目社長となるため、代わりの人材も必要だ。

 生産体制のために2~3人、研究開発と事務も含めると計5人程度は採用したい同社。「例えば酢卵が世界に広がれば糖尿病対策につながる。病を抱える人を助け、世界に貢献できる健康産業としての意義が当社にはある」と森社長は語る。

 人材不足は全国的な問題だが、特に地方では業績の維持・成長が見込める企業でも深刻だ。「当社だけの話ではないだろう」と森社長は話す。「創意工夫の努力を重ね、一生懸命営業して注文がたくさんあっても生産体制が間に合わず、廃業せざるを得なくなる恐れすらある。社会全体の問題として考えてもらえれば」

 同社への問い合わせは電話(0893・44・3057)か電子メール(mori-sutamago@deluxe.ocn.ne.jp)で。【太田裕之】

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