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ウラン鉱山抱えるインドの村 故郷を写して訴える核被害者の実態

毎日新聞 / 2025年12月23日 10時15分

世界核被害者フォーラムで発言したアシッシ・ビルリさん=広島市中区で2025年10月5日午後4時29分、武市智菜実撮影

 国営ウラン鉱山を抱えるインド東部の村、ジャドゥゴダ在住のアシッシ・ビルリさん(34)は、フォトジャーナリストとして自身の故郷を記録し続けている。10月に広島市で開かれた「世界核被害者フォーラム」に登壇し、「核の暴力に抵抗するため被害地から声を上げよう」と訴えた。

 ジャドゥゴダでは1967年にインド初のウラン鉱山が開かれた。国営公社の運営でウランの採掘と精錬を繰り返し、核兵器の原料や原発燃料にしてきた。工場から出る放射性廃棄物を含んだ排水はパイプを通って居住区近くの人造池に捨てられ、周辺の土壌や川を汚染している。鉱山が操業を始めて以来、村ではがん患者や先天性障害を持つ子どもが増えたとされる。

 ビルリさんの自宅は鉱山から500メートルにある。鉱山労働者だった祖父は45歳で肺がんで他界し、夫の作業服を洗濯していた祖母も後に肺がんで亡くなった。ビルリさんは放射線の危険性を身近に感じながら育ったが、自身の家族のような核被害者が世界中にいるとは思いもしなかった。

 転機は、2002年の広島訪問だった。インドとパキスタンの若者の平和交流の一環で来日し、世界各地の子どもたちが集う反核集会に参加した。「核の狂気は世界で共通する問題なんだ」と気付いた。帰国後、ウラン鉱山の被害の取材に訪れた外国人記者の通訳として多くの被害住民に会い、「被害地から核の実態を世界に訴えよう」と決心した。

 13年にフォトジャーナリストを名乗り、幼少期から趣味だったカメラを告発の手段として駆使している。

 背中が湾曲した青年。防護服なしでウラン鉱石を積んだトラックで作業する男性。下半身に奇形を持つ乳児をひざに乗せ、両目を見開きカメラを見つめる母親……。「被写体それぞれに痛みが詰まっていた。撮影時に受けたショックや居心地の悪さが忘れられない」とビルリさんは言う。

 ジャドゥゴダは「アディバシ」と呼ばれる先住民が多く、ビルリさんは伝統的な祭りや歌を収めた写真を多く撮影してきた。被害写真も撮り続けるのは「民族文化を継承するためには、温かい日常だけでなく、目を背けたくなるような痛ましい場面も記録しないといけない」という思いからだ。

 経済的理由や放射能被害の認識不足などの事情で、ウラン鉱山で働き続ける住民がまだ多い。10月のフォーラムでは、米西部ニューメキシコ州の活動家も登壇し、同州の先住民ディネ族がウラン採掘で受けた被害を語った。ビルリさんは「核兵器開発のしわ寄せは常に、先住民や貧しい人などの社会的マイノリティーにいく。被害者自身が連帯して、抗議の声を大きくしなければいけない」と呼び掛けた。そして「ノーモア・ジャドゥゴダ、ノーモア・ヒロシマ、ノーモア・ナガサキ、ノーモア・ヒバクシャ」と訴えた。【武市智菜実】

  * * *   

 原爆や核実験、ウラン採掘などに伴う被害者と専門家らが集う「世界核被害者フォーラム」(核兵器廃絶をめざすヒロシマの会、核の無い世界のためのマンハッタン・プロジェクト主催)が10月5、6日、広島市中区で開かれた。フォーラムに参加した人々の声を振り返る。

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