自筆証書遺言書を相続人が隠匿したら?遺産分割前に知っておくべきトラブル事例と解説
楽天お金の総合案内 みんなのマネ活 / 2021年12月27日 10時0分
自筆証書遺言書を相続人が隠匿したら?遺産分割前に知っておくべきトラブル事例と解説
遺産分割のトラブルとは、遺産分割前後で様々な事情が発生することにより、遺産分割協議が無効となったり、再協議が必要となってしまうことです。今回は、自筆証書遺言書を隠匿した相続人がいる場合、遺産分割協議をやり直すことの可否、相続開始前に成立した遺産分割協議の効力について解説します。
自筆証書遺言書を隠匿した相続人がいる
遺言書を隠匿した相続人は、民法の規定により相続人となることができないとされています。これを相続人の欠格事由といいます。
欠格事由に該当した相続人は、相続権を失うことになります。
民法では、相続人の欠格事由を次のように規定しています。
民法891条(相続人の欠格事由)
次に掲げる者は、相続人となることができない。
1. 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
2. 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
3. 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
4. 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
5. 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
【注意点】
・訴訟が必要
相続欠格事由に該当するかどうかは裁判所が認定します。
そのため、他の相続人は裁判所に訴えを提起する必要があります。
ただし、遺言書を破棄または隠匿した場合で、相続人のそのような行為が不当な利益を目的とするものでなかったときは相続欠格者には該当しないと判断した判例もあります。
相続欠格者に該当するかどうかは個別具体的に裁判所が判断する必要があります。
・代襲相続の対象となる
相続権不存在確認訴訟の結果、相続欠格事由に該当することが認められた場合、その相続人は当然相続人の立場を失います。
ただし、その欠格者に子がいる場合、その相続分は代襲相続により、その子が取得することになります。
他の相続人は欠格者の子を含めた全員で遺産分割協議を行う必要があります。
【用語解説】
・代襲相続
代襲相続とは、亡くなった方の子供が先に死亡している場合や、欠格事由に該当したことで相続権を失ったときにその者の子(亡くなった方から見ると孫)が相続人になること。
相続開始の時点で孫もすでに亡くなっていた場合はひ孫がいればさらに代襲することになります。(再代襲)
兄弟姉妹が相続人となる場合、代襲相続は1世代のみ適用されます。(亡くなった方から見ると甥・姪まで)
遺産分割協議をやり直すことの可否
遺産分割協議の成立後に相続人全員の合意により解除し、改めて遺産分割協議を行うことが可能です。
裁判所の判例によると、相続人全員による合意解除の場合は法律上の制限がない限り有効であるとして、可能であると解されます。
【注意点】
・相続人の1人からの解除請求(法定解除)は認められない。
遺産分割協議の中で、ある相続人が一定の負担をする代わりに相続財産を多く取得する内容で成立したが、その相続人が負担を履行しない場合、他の相続人はこの不履行を原因として遺産分割の解除を請求することはできないとしています。
例)不動産を取得する代わりに他の相続人に対して代償金を支払う
不動産を取得する代わりに高齢の母親の介護をする
これは、遺産分割協議により生じた財産の対外的な安定性を優先することが理由です。
・遺産の再分割をするときの税務上の注意点
遺産分割協議のやり直しは、税法上の遺産分割には該当せず、贈与や交換と認められ、贈与税や所得税が課されるおそれがあるので注意が必要です。
ただし、やり直しの時期が当初の遺産分割と近接している場合は上記のような課税は認めないという判例もあります。
時期、内容、理由等により課税されるかどうかが個別具体的に判断されることとなります。
・遺産分割調停の解除
裁判所で成立した遺産分割調停の内容を相続人全員で合意解除することは可能と解されます。反対に、調停で定めた負担を履行しないことを理由に法定解除をすることはできないという判例があります。
【用語解説】
・合意解除
当事者間の合意により解除をすること。契約を解除するという契約。
・法定解除
法律上定められている解除権に基づいて行う解除
例)債務不履行による解除(民法541条)
・遺産分割調停
遺産分割協議において、相続人間で内容がまとまらない場合に、家庭裁判所に遺産分割の調停の手続を申立てることができます。
この手続では、各相続人がそれぞれどのような内容を希望しているのかを第三者である裁判所の調停員が確認し、解決案を提示したり、合意を目指した話合いが進められたりします。
相続開始前に成立した遺産分割協議の効力
相続開始前に行った遺産分割協議は無効です。
相続が開始してはじめて相続人や相続財産が確定するため、遺産分割協議に限らず、相続放棄や相続分の譲渡は相続開始後にのみ行うことができるとされています。
ただし、遺留分の放棄は相続開始前にすることができます。
【注意点】
相続開始前の遺産分割協議を相続開始後に相続人の全員で追認することは可能であるとされています。
これは、相続開始前に成立した遺産分割協議内容と同一の遺産分割協議が成立したと考えられます。
【用語解説】
・遺留分の放棄
一定の相続人に法律上保証されている、相続財産を取得することができる一定の割合を遺留分といいます。
この遺留分は相続の開始前に家庭裁判所の許可を得ることで予め遺留分を放棄することができます。
ただし、遺留分の放棄をするには合理性や必要性等の厳格な要件を満たしている必要があります。(例 既に十分な財産の贈与を受けている等)
まとめ
自筆証書遺言書はその存在が知られていないことがあるため、悪意をもって遺言書を破棄されてしまうことがあるかもしれません。
現在は自筆証書遺言書を法務局で保管してもらえる制度も開始しています。
相続人の間で疑心暗鬼になってしまわないよう、こういった制度を利用することもお勧めします。
遺産分割協議が一度成立してしまうと、相続人全員の合意がない限り内容を変更したり、やり直したりすることができません。
よく考えてからハンコを押すようにしましょう。
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