「愛読書作り」で企業分析力を高める。はっしゃんさんに聞く、決算書から企業を見る目の養い方
楽天お金の総合案内 みんなのマネ活 / 2022年9月5日 10時0分
「愛読書作り」で企業分析力を高める。はっしゃんさんに聞く、決算書から企業を見る目の養い方
株式投資で安定して資産を形成していくためには、どのように投資対象の企業を分析すれば良いのでしょうか。利益を軌道に乗せたあとは、年4回の決算時にチェックするだけの「スロートレード」で成果を出している投資家Vtuberのはっしゃんさんに、初心者が企業分析力を高める方法について教えていただきました。
投資歴20年!投資家Vtuber・はっしゃんさんとは
マネ活編集部:今回は、投資家Vtuberのはっしゃんさんに「企業分析力」の高め方についてお話をお聞きしたいと思います。まずは自己紹介をお願いできますか?
はっしゃんさん:私は現在、投資活動を行いながら投資家Vtuberとしても活動しています。3年ほど前に会社員を卒業してIT会社を起業し、情報配信やサイト運営、書籍の執筆などさまざまな活動をしています。考えを整理して発表するためにブログを始めたのが、情報発信を始めたきっかけです。
マネ活編集部:3年前というと、ちょうどコロナ禍と重なりますね。何か投資活動に影響はありましたか?
はっしゃんさん:私がしているのは長期投資なので、それほど大きな変化はありませんでした。コロナ禍によって前提条件が変わった分、銘柄を入れ替えたりした程度ですね。会社員を辞めたことで時間が取りやすくなったため、Vtuberなど活動範囲を広げてきた3年間でした。
マネ活編集部:はっしゃんさんの投資スタイルは「スロートレード」と呼ばれる手法だと伺っています。どのような投資スタイルなのでしょうか。
はっしゃんさん:私の言うスロートレードは、「割安成長株への長期投資」と言い換えられます。「トレード」と聞くと、株価をチェックしながら売ったり買ったりと何となく忙しそうなイメージがありませんか?例えば、トレーダーと呼ばれる人の部屋にはスクリーンが何台もあって、ニュースをこまめに見ながら売り買いをしているといったような。
スロートレードはそういったトレードではなく、マイペースでゆっくりとできる投資です。10年ほど前に「スローライフ」というライフスタイルが流行しましたが、その考え方をトレードに適用したものがスロートレードなんです。
マネ活編集部:株価のニュースに追われずにできる投資ということですか?
はっしゃんさん:はい、時間はかかるものの企業の持続的な成長に投資することで、資産を増やしていくスタイルです。要は、サスティナブルな企業かどうかを見て、長く付き合えるところに投資するわけですね。そうすることで、基本的には放ったらかしでコツコツ資産を増やしていけるんです。
マネ活編集部:はっしゃんさんがスロートレードを始められたのはいつ頃なのでしょうか?
はっしゃんさん:株式投資を初めて1、2年が経った2000年頃ですね。当時はITバブルからニューヨーク同時多発テロ事件が起きたころで、株価の動きが激しい時期でした。株価の上がり下がりが気になってしまい、仕事が手に付かなくなってしまったんです。これはあまり良くないなと思い、株価の変動を意識せず、長く株主として企業を応援するスタイルに変更すべきかなと考えました。
なんとなくではなく、根拠を持って買わなければいけない
マネ活編集部:先ほど、少し過去のご経験についてお話いただきましたが、ここではっしゃんさんの今に至るまでのキャリアについてお聞きしたいと思います。そもそも、株式投資を始められたきっかけは何だったのでしょうか。
はっしゃんさん:まず、両親が株式を保有していたため、「株式というものがあり、それは上がったり下がったりするものらしい」といった程度の知識は持っていました。自分で触れたのは社会人になってからですね。就職した上場会社の持株会に入り、定期的に株式を購入するようになったので、株式用の口座を開設したんです。
ただ、このときにはまだ外部企業の株を購入することはありませんでした。当時はまだ株取引の手数料が高く、一介の会社員には手が出しづらかったものですから。しかし、金融ビッグバンが起こり、株式の売買手数料の自由化やネット証券の誕生と状況が大きく変わったんです。そのタイミングで、経済の勉強をしてみようと思って始めた感じですね。
マネ活編集部:始めた当初は何で情報収集していましたか?
はっしゃんさん:インターネットが多かったですね。マネー雑誌はあまり読んでいませんでした。私が株式投資を始める前後くらいの時期に山一證券が倒産するなど、当時は今よりも企業の倒産が多かったんです。そのため、倒産しない株式を買う方法や、借金のない安全な会社、配当をきちんと出してくれる会社を調べようと情報を集めていました。
マネ活編集部:投資を始めて1、2年でスロートレードに切り替えられたとのお話でした。その後も先ほどお話に挙がったニューヨーク同時多発テロ事件やリーマンショック、東日本大震災など株価に影響を及ぼす出来事がありましたが、影響はあまり受けずに済んだのでしょうか。
はっしゃんさん:いえ、やはりかなり損失を出したときもありましたね。その時々で改善を重ねながら今に至っていまして、最初のターニングポイントは2001年の同時多発テロ事件でした。
テロ後の海外旅行者の激減を受け、ある旅行会社さんの株価がかなり厳しい状況に置かれたんですね。そこで、株価が安くなったことに興味を持ち、その会社のサイトを見てみたんです。すると、サイトに月次情報というものが掲載されていることに気づきました。
月次情報は月ごとの売上を開示しているもので、それを見れば前年比何%なのかがわかります。それまでの私は四季報を見るくらいで、決算書も読んだことがなかったんです。「月次情報を見れば、『何となく株価が下がっている』ではなく、具体的にどれぐらい数字が悪くなっているのかがわかるんだ」と知りました。
そこから別の会社を見てみると、結構いろいろな会社が月次情報を出しているとわかりました。業績を見ることで、次に決算が良くなりそうな会社がわかるようになり、投資で大きく勝てるようになったんです。
月次情報は決算のように決められた規格がないので、当時はExcelに手作業で書き写し、推移をまとめていました。今でも似たような作業を続けています。
マネ活編集部:他にもターニングポイントはありますか?
はっしゃんさん:リーマンショックから東日本大震災ぐらいの時期ですかね。リーマンショックで少し損失が出ていたところに加え、東日本大震災でさらに大きな損失を被ったんです。その理由は、電力株の購入でした。
震災が起こる前は、どこにも買いたい株がなく、「配当利回りがよく、安全な投資先だ」と言われていた電力株を買ったんです。すると、そのタイミングで震災が起こり、購入時の半分以下に減ってしまったんですよ。この経験から、ちゃんと根拠を持って買わなければいけないなと学びました。
マネ活編集部:どのような根拠でしょうか。
はっしゃんさん: PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)が割安度を測る指標として用いられていまして、それを見れば誰でもその会社が割安なのか割高なのか判断できます。私がもともと使っていたのはPERで、1株利益の何倍が株価になるかという評価指標です。例えば、1株利益が10円で10倍なら株価は100円ということですね。
ただ、その何倍が適切かどうかの判断が難しいため、決算の内容で統計的に妥当値を出すものが理論株価です。今の私は、PERに加えて自分で開発した理論株価を元に投資をしています。
あとは、売り買いのルールに則って投資をしていますね。私は長期投資タイプなので売るのが下手なのですが、とにかく1円でも買ったときよりも株価が下がったら売るのが大事ですね。これは損切りルールと呼ばれるもので、上昇した株だけを保有するようにするものです。
一方で、損をしない範囲内での上がり下がりでは売りません。下がりながらでも右肩上がりになっていればいい。企業の成長を長く応援していくのがスロートレードですから。
企業分析能力の高め方は、ズバリ「愛読書を作ること」
マネ活編集部:ここからは、今回の本題である「企業分析能力」の高め方についてお聞きしていきたいと思います。どうすれば企業を見る目を養えるのでしょうか。
はっしゃんさん:1番良いのは、自分が興味のある分野に近い企業を調べてみることだと思います。例えば、マンガが好きなのであれば出版社を見てみる。自分の興味のある分野の会社だと、業績や決算を読んで勉強するのは面白いのではないかと思います。「こういう感じでヒット作が出て利益が出たんだな」といった会社の成長の歴史も読み解けますしね。
株式投資は「あれを買え、これを買え」と言われることが多いんですが、私は1社でもいいから追いかけて深く知ることが大切だと考え、「愛読書を作ろう」と言っています。愛読書=その会社の決算書ですね。1社をとことん知ったら、次はライバル社を見てみようと横に少しずつ広げていく。会社の決算書は似ているので、1社を追究すれば他社のものも読めるようになりますよ。
マネ活編集部:ちなみに、はっしゃんさんの場合はどのような業界を選んだのでしょうか。
はっしゃんさん:いくつかありますが、入口は小売業でしたね。旅行会社のサイトから月次情報を見ることを知り、他にも出ていないかを調べた結果、小売業が多かったのがきっかけでした。
マネ活編集部:決算書を見たことがないという初心者の方はどうすればよいでしょうか。読み方にコツはありますか?
はっしゃんさん:決算書は思っているほど難しいものではなく、基本的には誰でもわかるように書かれています。まず、読むのは基本的に1ページ目だけでOK。大切なことの90%は1ページ目に書かれているんですよ。まずは売上が増えているかどうか、前年比で確認しましょう。あとは利益もプラスであれば企業の成長という点で問題なしです。
そのあとは、1ページ目の1番下にある今期の予想も見てみましょう。決算は過去の結果を示すものなのですが、そこだけには未来の予想が書かれています。今期の予想が悪ければ、過去がどれほど良くても株価は上がらないんです。前期の結果と今期の予想、この2点を見るだけでもかなり違ってくると思いますよ。
マネ活編集部:そのあとは、決算が出るときに見る程度でいいのでしょうか。
はっしゃんさん:私は月次情報の開示がある会社は月1でチェックしていますが、あとはおっしゃる通り年4回の決算のときに確認する程度で良いと思います。ただ、投資直後だけはもう少し頻繁にチェックする方が安心ですね。買った株価を下回ることがあれば、損切りをして売りましょう。10%以上利益が出れば1週間に1回ほどにし、さらに利益が出るようになれば、四半期に1度でいいと思います。
マネ活編集部:軌道に乗るまでは注意が必要なんですね。初心者がスロートレードを始めるときには、どの程度の金額がおすすめですか?
はっしゃんさん:給与1カ月分くらいですね。あまり高額にならない方がいいと思いますが、かといって少なすぎるとギャンブル感覚になって真剣に勉強しなくなってしまう人もいるので、多少のリスクを負って真剣に勉強しようと思える状態を作るのが良いと思います。
マネ活編集部:情報収集についてはいかがでしょうか。今はSNSやYouTubeも含めいろいろな情報源がありますが、注意すべきことはありますか?
はっしゃんさん:1番良いのは自分で決算書を読んで勉強することですね。やはり一次情報に勝るものはありません。勉強になるYouTube動画もありますが、エンタメ性に振り切ったものが多い印象もあるので、企業発信の情報をまずは重視した方がいいと思います。私も発信をしている立場ではありますが、投資はエンタメではなく、学び、サイエンスなので、その観点で情報の取捨選択をしてもらいたいですね。
自分の中に新たな価値観を生み出せたことが株式投資の良さ
マネ活編集部:はっしゃんさんの今後の展望についてお聞かせください。
はっしゃんさん:これまで通り発信活動を続けていきます。人それぞれだと思いますが、私は投資でお金が増えた減ったと盛り上がるよりも、誰かに私の情報で喜んでもらえたりお礼を言ってもらえたりするのが嬉しいタイプなんですよ。
マネ活編集部:最後に、あらためて読者へのメッセージやアドバイスをお願いします。
はっしゃんさん:メディアを活かすかどうかはその人次第ですから、上手く情報を利用してもらいたいですね。今は社会が不安定で難しい時期なので、無理に投資を始めず、決算書を読み始めてみるなど、勉強時間に充てるのもありだと思います。
個人的に株式投資をして良かったと思うのは、新しい価値観を自分の中に生み出せたことです。普段の仕事が一般社員でも、投資をすると経営視点で会社を見る視点を持てますし、今の自分を客観的に見る力も養えます。私は決算書が読めるようになってから、職場の会議での発言が投資家視点、経営視点になったからか、上の方に認められて昇進に繋がったこともありました。
スロートレードは、株価の変化から一歩距離を置いて精神的な負担を小さくすることで、長く続けられる投資です。とはいえ、投資であることに変わりはないので、利益が保証されているわけではありません。軌道に乗ったあとは基本的に放置できますが、1円でも損をしたら売る、2倍の利益になったら売るなど、自分でコントロールしながら長く付き合っていただけたらと思います。
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