魔法のような節税術はないけれど、正しく利用できる制度はある。税理士・脇田さんに聞く、今知っておくべき税金の話
楽天お金の総合案内 みんなのマネ活 / 2023年8月10日 10時0分
「所得税」や「自動車税」「ふるさと納税」など、身近なところで見聞きする税金。ただ、正直なところ、これらの税金について、しっかりと理解できていない方もいるのではないでしょうか。もしかしたら知らない間に損をしているのではないかと不安な方もいるかもしれません。今回は、専業主婦から税理士になり、セミナーや講演など幅広く活動を行う脇田弥輝さんに、20~40代の若年層、子育て世代が知っておくべき税金の話をお聞きしました。
顧問税理士の活動の傍ら、事業者向けに「経費精算カフェ」「インボイス相談カフェ」も開催中
マネ活編集部:脇田さんのご活動についてお聞かせください。
脇田さん:独立して7年目の税理士で、中小企業を中心に20社ほどのお客様を抱えています。モットーは「外部の偉い税理士先生ではなく、内部の敏腕経理」と思っていただける存在であること。お客様と二人三脚でともに事業を成長させられる税理士でありたいと思って活動しています。
このほか、ありがたいことにご依頼をいただいてセミナー講師の仕事もしています。個人事業主の方向けの確定申告セミナーや、最近ですと2023年10月から始まるインボイス制度のセミナーが多いですね。大学院の非常勤講師として、税理士を目指す方に論文指導も行っています。
あとは月に1回、「経費精算カフェ」という活動も行っています。個人事業主の方など自分で確定申告をしなければならない方たちが、ちょっとした疑問を気軽に税理士の私に聞ける場です。似たような活動で、今は「インボイス相談カフェ」も始めました。
「やりがいのある仕事がしたい」が子育てをしながら資格勉強をがんばれた理由
マネ活編集部:子育て中の専業主婦だった脇田さんが、税理士になろうと思ったのはなぜですか?
脇田さん:最初から税理士になろうと思っていたわけじゃないんですよ。会社員の夫がいる専業主婦ですと、税金を意識することはあまりありませんし。
最初のきっかけは、長男が1歳4カ月くらいになり、夜にまとまって寝てくれるようになったことでした。夜の時間が取れるようになったので、何か資格を取りたいなと思ったんです。
そんなとき、税理士資格を知りました。税理士資格は合否が0か100かで決まるのではなく、1科目ずつ積み上げていける科目合格制と呼ばれるもので、仕事や育児をしながら資格勉強を両立している人が多いと聞いたんです。始めは全然受からなかったですが、少しずつ積み上げていって、6年半をかけて資格取得したという流れです。
マネ活編集部:では、その間に第2子もご出産されているということですね。
脇田さん:はい。1科目めの合格は次男が生まれた年でした。さすがに今年は受からなくても仕方ないけど、知識が抜けないようにするためにも継続して受験しようと思ったら、ようやく受かったんです。やめずに続けてよかったなと思いましたね。
ただ、2人の育児をしながらの勉強は大変でした。今思うと、取りつかれているかのように勉強しなきゃと思っていた気がします。
それでもがんばれたのは、資格を取れたら何か変えられるかもと思えたからです。私は早くに結婚して退職しているので、産後に社会復帰したときにやりがいのある仕事に就けるかどうかわからないと思っていました。セミナーで女性税理士の話を聞いて、「やりがいのある仕事なんだな」と思えたこともモチベーションになりましたね。
魔法のような節税術はない。子育て世代が知っておきたい「税金」の話
マネ活編集部:では、ここからが今回のテーマとなります。20~40代の子育て世代の方が、若いうちから知っておくべき税金の基本についてお聞きしていきたいと思います。
脇田さん:まず、税金は何となく嫌なもの、払いたくないものという印象があるかと思いますが、図書館や育児支援センターなど、子育て世代の公共サービスが受けられるのは税金のおかげなんですよ、ということをお伝えしておきたいなと思います。むしろ、長者番付に載るレベルのごく一部の人以外の人たちは、税金で受けられる恩恵のほうが大きいんですよ。
とはいえ、家計のためにも負担は減らしたいものですよね。税理士の私も別に税金を払うのは好きではなく、なるべく抑えたいと思っています(笑)。そこで、用意されている節税方法をきちんと利用しましょうとお伝えしたいです。
節税に繋がることですと、やはりふるさと納税がおすすめですね。ふるさと納税は複数の自治体に何度か寄付をしても、寄付金控除の上限額以内であれば、1年間の自己負担額は2,000円です。以前、1回の寄付で2,000円の自己負担だと思われている方がいたので、「それは違うよ」とお伝えしたいです。
あとは医療費控除。これは扶養に入っているかどうか関係なく、夫婦で合算して申請できます。医療費が年間10万円を超える場合、所得の高いほうで申請しましょう。
あとはiDeCoやつみたてNISAなどの投資ですが、ここは投資に回せるくらいの所得があり、節税したいと思った方向けかなと思います。ただ、これらは元本割れをする可能性のあるものですから、リスクを理解したうえで始めてほしいです。
個人事業主の方は、事業に使ったものをきちんと帳簿に付けて経費にすることも節税に繋がる大切なことですね。
マネ活編集部:脇田さんのように子育て中の専業主婦の方の場合、働き始めるときに税金で得するライン、損するラインが気になる方もいるのではないかと思います。いかがでしょうか。
脇田さん:「103万円の壁」「130万円の壁」「150万円の壁」といわれるものですよね。現在、こうした壁は税金の壁、扶養の壁、配偶者特別控除の壁の3つの壁があります。まずは「103万円の壁」。これは税金の壁で、年収103万円を超えると所得税や住民税が発生するという壁です。
次は「130万円の壁」。これは税金ではなく社会保険料の壁ですね。妻が主婦、夫が会社員の家庭の場合、妻の年収が130万円を超えると夫の扶養から外れ、パート先で健康保険・厚生年金に加入する、もしくは自分で国民健康保険・国民年金に入ることになります。130万円を少し超えるくらいの収入の場合、超える前より社会保険料分で手取りが少なくなってしまうラインが出てきます。ただ、社会保険料を払った分、将来の年金が増えるという考え方もできますね。
その次が「150万円の壁」。これは配偶者特別控除に関係する壁です。妻が主婦、夫が会社員の夫婦の場合、妻の年収が150万円までであれば夫は配偶者特別控除を満額受けられるため、その分の所得税が減るのですが、150万円を超えた時点から、控除額が段階的に減少します。なお、先ほどお話した「103万円の壁」を超えた時点で妻に所得税は発生しています。
また、所得が1,000万円と年収が高い方は配偶者控除がありません。「私が稼いでしまうと、控除が受けられないから」とおっしゃられる方の中には、そもそも配偶者控除の対象外というケースも見られるんですよ。
あと知っておきたいのは児童手当です。2023年6月現在は15歳までは扶養控除がなく、児童手当が所得に応じて支給されます。16歳からは扶養控除が受けられますが、こちらは所得に関係なく夫婦のどちらかが受けられます。
これは家庭の事情や個人の価値観にもよってくるものですが、私個人としては、稼ぐほど税率は上がるけれど、稼いだほうが手取りは確実に増えるので、壁を意識せずに働いちゃったほうがいいと思っています。
マネ活編集部:ありがとうございます。節税方法について注意点はありますか?
脇田さん:最近見られるのが、節税や資産が増えると謡っている詐欺まがいの話です。「海外のこの銀行に預けたら高い利率で資産が増えていく。本来は富裕層の人限定だけれど、特別に3,000万円から預けられる」と言われたと相談に来られた方がいました。実際に似たような話で被害に遭った方もいます。これも、万が一なくなってしまっても良い金額であれば自己責任でいいと思いますが、「うまい話はない」と考えていただきたいと思いますね。
あとは保険です。年末調整や確定申告の際、加入保険は控除に使えます。ただ、保険の本来の目的は節税ではないですよね。「節税にもなるから」と不要な保険にいくつも加入するのは本末転倒ですから、必要な保険にだけ入るようにしましょう。
法人化も同じですね。節税のために会社をつくるという方がいますが、法人化には一定のお金がかかりますし、個人事業と違って事業をたたむ際は手間もかかります。こうした注意点も踏まえたうえでならいいと思いますが、「節税メリットがあるから」とだけで決めてしまうのはあまり良くないと思います。まずはきちんと経費にできるものをしているかのチェックからしてもらえたらと思いますね。
マネ活編集部:最近は、子育て中の方がハンドメイドで収入を得られるようになるなど、仕事の幅が広がっています。税金の面で気を付けたほうがいいことはありますか?
脇田さん:趣味レベルであれば納税の義務はありませんが、利益が20万円を超えてきたら確定申告をする必要があります。趣味として始めたうちは売上と経費と利益がどれくらいか計算していない方もいると思いますので、売上が20万円を超えてきたら、そのうち経費にどれくらい使っているかをチェックしてみると良いでしょう。
開業届を出して事業にすれば、材料費など必要なものを経費にできます。自宅で活動しているならば、家賃も一部経費にできますよ。なお、申告せずにバンバン利益を出していると、税務署から勧告を受けるおそれがあります。「バレなければいいや」とは考えず、利益が出ている方はきちんと申告しましょう。
なお、ブランド品など生活の不用品を販売して小遣いを得ている方もいるかと思いますが、こちらに関しては課税対象にはなりません。ただ、売るために仕入れて売る場合は課税の対象になります。
これからも、お客様に寄り添う税のプロとして活動したい
マネ活編集部:今後の目標、展望をお聞かせください。
脇田さん:これからもお客様に寄り添った仕事をしていきたいです。魔法のような節税術はないのですが、知らずに損をしているのはもったいないので、経費精算カフェなどでいろいろな方にアドバイスができたらと思いますね。顧問客も大切ですが、顧問税理士を付けていない個人事業主の方などが税理士に相談するハードルを下げ、節税やインボイス制度などについて話を聞ける場を設けていけたらと思っています。
公立小学校に話をしに行ったこともあるんですよ。「みんなは1人当たり月7万円の税金を使ってもらっているんだよ」と伝えると、みんなびっくりした顔をしていましたね。税金により恩恵を受けているのは事実。使える制度を正しく使って節税し、気持ち良く納税の義務を果たすアドバイスをしていきたいですね。
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