子供が楽しくお金を学ぶアイデア 佐藤ねじさんに聞く小1の長男が「家庭内起業」をした話
楽天お金の総合案内 みんなのマネ活 / 2023年10月24日 10時0分
一晩中遊べるホテル「ボードゲームホテル」や、子供服ブランド「アルトタスカル」など、独創的なアイデアで新しいものを次々生み出しているプランナー/クリエイティブディレクターの佐藤ねじさん。今年8月に上梓した「子育てブレスト」では、育児の困りごとを乗り越えてきたアイデアと工夫がたくさん紹介されています。
その中には、お金に関するものも。例えば「小1起業家」では、おこづかいが欲しい長男(当時6歳)に佐藤さんが「おこづかい講座」を開講。その結果、長男がコーヒー屋さんを“家庭内起業”した様子が書かれています。
佐藤さんは、お金への興味関心をどのように引き出していったのでしょうか。楽しみながらお金を勉強するポイントについて伺いました。
佐藤ねじ/1982 年生まれ。プランナー/クリエイティブディレクター2016年ブルーパドルを設立。WEB・アプリ・商品やお店などの企画とデザインを行う。主な仕事に「ボードゲームホテル」「隠れ節目祝いbyよなよなエール」「アルトタスカル」「不思議な宿」「佐久市リモート市役所」「小1起業家」「劣化するWEB」など。著書に「子育てブレスト」「こどもの夢中を推したい」など。主な受賞歴に、ACC CREATIVE AWARDゴールド、文化庁メディア芸術祭・審査員推薦作品、グッドデザイン賞BEST100、TDC賞など。
お金を増やすために「コーヒー屋さん」を家の中で起業
――著書「子育てブレスト」で育児の困りごとを楽しく乗り越えるさまざまなアイデアを紹介されている佐藤ねじさんですが、まずは「小1起業家」のお話から聞かせてください。この企画を始めたきっかけはなんだったのでしょうか?
佐藤ねじさん:きっかけは、小学校1年生のとき長男がポケモンカード(通称ポケカ)にハマったことです。当時、彼のおこづかいは月100円で、ポケカは1パック税込み150円(当時)。ポケカを買うには2カ月分のおこづかいが必要だったんですね。かといって親に「買って!」とねだるわけでもなく「欲しいけどどうしよう…」と悩んでいる様子でした。
僕自身がデザインや企画の仕事をしていることもあり、これまでいろいろなことを遊びを交えつつ伝えてきました。なので、このときも遊びの一環として、お金のことを話してみようと思ったんです。
おこづかい講座の様子
そこで、受講料100円で「おこづかい講座」を開くことを提案しました。会場は、当時借りていたコワーキングオフィス。そのほうが本物っぽいですし、特別感があるだろうと。
――確かに。家で話すより、ちゃんと話を聞いてくれそうですね。
佐藤ねじさん:こちらの「本気度」が伝わりますし、子供も「1カ月分のおこづかいを払った」というプレッシャーもあって、真剣に受講してくれましたね。お子さんのタイプにもよると思いますが「子供っぽくやらないほうが本気になってくれる」というのはあると思います。
――「おこづかい講座」では、どんなことを話されたんですか?
佐藤ねじさん:最初に、お金や時間の使い方には「投資」「消費」「浪費」の3つがあることを話しました。「マンガを読んでいる時間は浪費に思えるけど、この経験をどう生かすかで投資にも変わるんだよ」みたいに、自分次第で使い方を変えられることを伝えたかったんです。
これを踏まえて、お金を得る方法を一緒に考えました。我が家ではお手伝いは「するべきこと」なので、お金は発生しません。それ以外の方法でお金をもらうには「ターゲット(両親)の困りごとを解決してあげればいい」と説明したんです。じゃあ「ターゲットの困りごと」と「小1ができること」の組み合わせを考えてみよう、と。
――そのひとつが「コーヒーを入れる」だったわけですね。コーヒー屋さんはどのように始めたんですか?
佐藤ねじさん:起業準備として、ちょっと良いコーヒー豆を仕入れるところから始めました。お手伝いではなくビジネスなので、「子供が入れたコーヒーだから買ってあげよう」ではなく、「美味しいコーヒーだから買おう」であるべきですから。
コーヒー豆は、お年玉貯金の1,000円に加え、僕から900円を借り入れして、200g(11杯分)で1,900円のものを買いました。これを1杯200円ですべて売れば、2,200円の売上になり、300円の利益が出ます。値付けやコーヒーの入れ方などを教えて、お店のオープンまでこぎつけました。
コーヒー屋さんのドリンクメニュー
――ちなみに利益はどれくらい出たのでしょうか?
佐藤ねじさん:お菓子をつけたセットメニューを考案したり、違う店でもコーヒー豆を仕入れたりと事業を展開して、2カ月目には黒字に転換、3カ月後には1,150円の利益が生まれたんです。
コーヒー屋さんのセットメニュー
でも、そのころにはポケカよりコーヒー屋さんのほうが面白くなったみたいで「世界中のコーヒー豆を集めるんだ!」と意気込んでいましたね。結局コーヒー屋は半年ほど続きましたが、「もっとおこづかいが欲しい」という話から、どんどん興味が広がっていく様子は、見ていてとても面白かったです。
週1回の「定例会議」で子供とコミュニケーション
――「小1起業家」の経験を踏まえて、息子さんがお金について取り組まれたことはありますか?
佐藤ねじさん:その後、ハマるものが年齢によっていろいろ変わっていったんですが、5年生になって再び家庭内起業を始めましたね。また事業を一緒に考えるところからスタートして、このときはビジネスモデルの話をしました。「やっぱりサブスクは強いぞ!」と(笑)。
そこで長男が始めたのが、週1回、自分が育てたレタスで夕食のサラダを作るサブスクサービス「レタスハザード」です。
――ネーミングが面白いですね(笑)
佐藤ねじさん:いいですよね(笑)。レタスはうちの家庭菜園から鉢をひとつ借り、買ってきた種を植えて育てるところから始めました。これでサラダを作るわけですが、レタスだけだとビジネスにするにはちょっと寂しい。とはいえ、ほかに野菜を育てたり買ってきたりするのは大変です。そこで、ドレッシングで特徴を出すことにしました。
テレビで紹介されたドレッシングを調べて、実際に買ってサラダにかけてみたら、確かに美味しいんですよ。「こんなに美味しいドレッシングがあるんだ」と、今度はドレッシングに詳しくなってきました。親としても、毎週新しいサラダとドレッシングが出てくるのが楽しみでしたね。
――コーヒー屋さんのときもそうでしたが、「大人も子供も楽しんでいる」のがポイントのように思いました。
佐藤ねじさん:そうですね。一緒に買い物に行ったり料理をしたり、ひとつのブームとして大人も子供も楽しんでいる感じでした。「レタスハザード」は、長男が料理に興味を持つきかっけになりましたし、大人もそれがとても嬉しかったので、Win-Winのビジネスだったと思います。
――ちなみに小1のときと小5のときで、親子の関係性に変化はありましたか?
佐藤ねじさん:小5のときは、ちょっと思春期に入り始めたこともあり、昔のように親の話を真っ直ぐ聞いてくれる感じではなくなってきたんです。平日は僕の帰りが遅くなることも多かったので、毎週日曜日の午前中に「定例会議」の時間を設けることにしました。
2人でカフェやファミレスに出かけて1時間くらい、長男とミーティングをするんです。ミーティングといっても内容は雑談が中心で、1週間を振り返ったり、最近ハマっていることを教えてもらったり、それについて僕が「こんなものもあるよ」と見せたり、ゆっくり会話する時間にしています。
アジェンダを残しているので、レタスの話も記録に残っていますよ。あのときはサービス名について話していて…息子から出てきた案が「勝手にサラダ」「プランター」「サラダの宝箱」「レタスハザード」の4つでしたね。これを見て僕が「レタスハザードめっちゃいいね!」って言ったと思います(笑)。
「投資信託を買ったつもり」で、子供に長期投資を体験してもらう
――著書「子育てブレスト」には、「小1起業家」以外にも、お金を絡めた取り組みがいくつか掲載されています。子供が決めた値段でアート(工作や絵)を販売する「5歳児が値段を決める美術館」も面白かったです。
Webサイト「5歳児が値段を決める美術館」より
佐藤ねじさん:これも長男ですね。このときはお金の教育というより、数字の概念を完全に理解し切れていない感じが面白かったんです。1万円と1億円の差もよくわかっていないし、「1000万円億円」なんてありえない値段もつけちゃう。この感じを残しておきたいな、という思いもありました。
値段を付けた作品は実際にECサイトで販売したのですが、テレビで取り上げられたこともあり、売れたものも結構ありましたね。アート感を出すために額装して発送したので、トータルでは赤字なんですが(笑)。
――息子さんは「自分の作品が売れた」というのは理解していたんでしょうか…?
佐藤ねじさん:理解はしていましたが「儲かった」という感じではないですね。お店屋さんごっこの延長で「お客さんが買ってくれた!」と喜んでいました。発送作業も手伝ってくれて「せっかくだから折り紙の手裏剣を一緒に入れよう」と楽しんでいましたね。
この取り組みではむしろ、大人の方が「お金」や「価値」について考える機会になりました。高額の値段がついた工作は、なんとなく扱いが丁寧になるんですよ(笑)。家の中だけの「ごっこ遊び」ではなく、パブリックに値段を提示したからこそ生まれた感覚だと思います。
――「小1起業家」は遊びの一環として取り組まれていましたが、最初からお金の教育を意識して取り組まれたものはありますか?
佐藤ねじさん:その意味だと、「家庭内投資 イエカブ」がお金の教育として始めた唯一のものだと思います。長男が小4のときに、貯金2万円で長期投資をすることにしたんです。小学生は株式を買えないので、擬似的にS&P500連動の投資信託を買ったことにして、利益が出た分は僕が払うことにしました。
これは2年近く経った今でも継続中です。買った当初の数値をメモしていて、今どれくらい増えたのかをグラフで見られるようにしています。息子は基本的に忘れているんですけど、たまに「どれくらい増えたかな?」とグラフを確認していますね。この前、そろそろ精算したいと言い始めたので「もうちょっと待って」と止めましたが(笑)
――もう少し長期で持っておいてほしいと(笑)。「イエカブ」を始めるにあたり、息子さんには株や投資について説明されたんですか?
佐藤ねじさん:説明しました。ひとつの会社に投資するのもあるし、国に投資するのもあるよとか。買い方も個別株とか投資信託とかいろいろあるよとか。S&P500が何かまで理解しているかは怪しいですが、大枠は興味を持って聞いてくれましたね。
子供が興味を向けている方向に、親が無理なく合流する
――お金の教育には、親の知識も必要になるかと思います。佐藤さんご自身も投資などの経験はありますか?
佐藤ねじさん:そうですね、個別株や投資信託を人並みにやっています。ただ、すごく早くから始めたわけではなくて、昔は本当に何も知らなかったんですよ。ただ調べること自体は好きなので、ファンダメンタルズ分析(※国や企業などの経済状態などを表す指標をもとに株価や為替の値動きを予測すること)などいろいろ調べていくうちに、すごく面白い世界だなと思えるようになりました。
なので、子供と投資の話をするのも、「自分がハマったものを人に話す」という感覚が近いですね。単純に、一緒に盛り上がってくれる人が近くにいてほしいじゃないですか。今はニュースで経済の話題が出ると、家族で情報をシェアしたりしています。
――金融教育をはじめ、学校でも「お金」について学ぶ機会が増えています。楽しみながらお金について学ぶのに、大切なことはなんだと思われますか?
佐藤ねじさん:体感するのが一番良いのではないでしょうか。サッカーボールの蹴り方を身に付けようと思ったら、教科書を読むよりも、実際にボールを蹴ったほうが早いですよね。同じようにお金についても、教科書を読むだけでは面白さが伝わりにくいのではと思います。
あと、これはお金の教育に限らないのですが、「その分野に子供が興味を向けているか」も大切だなと感じています。親が何かやらせようということに対して、子供は年々敏感になってきますよね。
なので、子供が興味を向けている方向に沿って、親が「伝えたいこと」「やりたいこと」をスッと添えることを心がけると、うまくいくような気がします。無理やり方向を曲げると、嫌いになってしまうこともありますから。
――親が子供の興味に合流するわけですね。そうなると、子供がどこに興味を向けているか理解するのも大事になりそうです。
佐藤ねじさん:そうですね。うちの場合、「定例会議」がまさに「興味の方向」を理解する機会になっています。最近は会議で聞いたゲームをやってみたり、アニメを見てみたりして、ちょっと子供に擦り寄るようにしていますね。同じ「推し」ができれば話が盛り上がりますし、関連する学びも自然と盛り込めますから。
もちろん「子供がお金の話に興味を持ってくれない」という場合もあると思うんです。でも、焦らなくてもいいと思います。子供の興味は、いつどこに向くかわからないし、それこそ大人になってから興味を持つかもしれません。
だから、子供にスルーされた提案も、またタイミングを見て出してみたらいいんです。ハマるかハマらないかは別として「親はきっかけを提案する役割」くらいの気持ちで接するのが、お互いにとって良いのだろうなと思っています。
取材・文:井上マサキ
編集:はてな編集部
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