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【自白と恋愛感情】裁判の行方は...。再審無罪の西山美香さんが、取り調べ警察官に直接質問「あなたは『俺がお前の不安を取り除いてやる』と言った」

MBSニュース / 2024年5月26日 6時24分

 滋賀県・湖東記念病院の元看護助手、西山美香さん。患者の人工呼吸器を外して殺害したとして有罪判決を受け、12年服役したのち再審=やり直しの裁判で無罪が確定した。いま西山さんは、違法な捜査で長期間拘束されたなどとして、国と滋賀県に損害賠償を求め、裁判で争っている。 23日は『自白』をめぐって因縁浅からぬ、当時の取り調べ官の証人尋問が行われた。西山さんは警察官に何を聞いたのか…。まずは事件を振り返る。

西山さんはなぜ、自白していたのか

 そもそも、やってもいない罪を西山美香さんが自白していたのは、なぜだったのか。当時の取材に対し西山さんは、事件の取り調べにあたった警察官に、『ある思いを抱いたから』と話していた。

「 好意を持ってしまったんですよ。(それはどうして?)優しかったんですよ」

「小さいときからコンプレックスがあって、兄2人が賢く、私は勉強ができなかった。取り調べの刑事が『あなたも賢いところある』と、すごく理解してくれた」

「そこでコロッともう、好意を持つようになって、気に入ってもらおうと思って、どんどんウソをついていったんです」(西山美香さん 当時の取材)

服役中から訴え、再審で無罪が確定

 そして大津地裁は、「被告の自白には、極めて高い自発性が認められる」などとして、懲役12年の実刑判決を言い渡した。控訴、そして上告も棄却され、2007年5月、刑が確定した。

 その後、西山さんは服役中からえん罪を訴え、再審開始が決定。そして2020年3月、大津地裁で無罪が言い渡された。判決は、有罪の決め手となった自白についても「重要な点で大幅な変遷があり信用性がない」とした。

 さらに「取り調べの警察官が、自分への恋愛感情などを利用して供述をコントロールしようという意図のもと捜査情報を提供して整合性がとれる自白へ誘導した」と、任意性にも疑いがあると判断した。

無罪確定したあとも…終わらないたたかい

 検察が上訴権を放棄して、無罪が確定。その後西山さんは、違法な捜査で長期間拘束され、苦痛を受けたなどとして、国と滋賀県に約4300万円の損害賠償を求め提訴した。

「(今でも警察が)捜査の違法性ないとはっきり言えることが私にとってはおかしくて仕方ない」(西山美香さん 提訴時)

 いっぽう、県警を管轄する滋賀県側は、「捜査に違法性はなかった」と改めて主張、争う中で23日、当時取り調べを行った現役警察官の証人尋問が行われた。

 朝、裁判所に姿を見せた西山さんは、「(取り調べの警察官と)初めて会ったのがちょうど20年前ぐらい。自分でも尋問させてもらうので、どういうふうに考えているのかを知りたい」と話し、入庁した。

恋愛感情の利用について否定

 これまでの無罪判決では、取り調べを担当した警察官が西山さんの恋愛感情を利用して自白を誘導したと認定したが、この日の尋問ではまず、警察官と県側の弁護士が、そうしたことへの否定ともとれるやり取りを展開させた。

(県側の弁護士)「あなたから原告に対して接触したことはありますか?」
(警察官)「ありません」
(県側の弁護士)「原告からあなたに対しての接触はありましたか?」
(警察官)「ありました。7月24日ごろ、起訴前かと思います」
(県側の弁護士)「どういった状況であったのですか?」
(警察官)「当時、私は(取り調べ中で)供述調書を作成していました。右手にボールペンを持ち、左手は机の上に置いていました。すると、原告が私の左手の甲をさするような感じで接触がありました」
(県側の弁護士)「その時あなたはどうしましたか?」
(警察官)「注意して払いのけました」

 警察官は「西山さんからの身体的接触はこの日以外もあった」などと言及。しかし、そうした接触をどう受け止めていたか尋ねられると…

(県側の弁護士)「接触があった時、原告が自分に好意を寄せているという認識はありましたか?」
(警察官)「ないです」
(県側の弁護士)「その理由はなんですか?」
(警察官)「原告からそんなことを(好意について)言われたことはないからです。原告は自分に対して白目を向けたり鼻水をたらしたりすることもあった。本当に恋愛感情のある相手に、そんなことをするとは思いません」

 恋愛感情の利用について、真っ向から否定。これに対し、西山さん側の弁護士からも質問が投げかけられた。

取り調べ官としての信頼関係だと認識

(西山さん側の弁護士)「取り調べ中に、西山さんからの気持ちを認識していましたか?」
(警察官)「被疑者と取り調べ官との間で信頼が寄せられていると思っていました」
(西山さん側の弁護士)「逮捕後の供述調書や供述書には、『刑事さんは本当に私のことを思って話を聞き、私のことを決して見捨てませんでした。いつも一生懸命にしてくれて、お前を信じている、俺がお前の不安を取り除いてやる、と言ってくれました』と書かれていますが、その気持ちは本心だと認識していましたか?」
(警察官)「はい」
(西山さん側の弁護士)「不安を取り除いてやる、と言いましたか?」
(警察官)「そのような言葉だったか覚えていないですが、自分には取り調べ官として責務がある。被疑者は不安な気持ちでおりましたので、真実を話すように、という意味で話したと思います」
(西山さん側の弁護士)「西山さんの感情についてはどう認識していたか?」
(警察官)「信頼が寄せられていると思っていました」
(西山さん側の弁護士)「信頼が寄せられるべきだという認識で、西山さんの気持ちを意識をしたことはあるか?」
(警察官)「取り調べ官として当たり前のことです」

 警察官は、西山さんから寄せられていた気持ちは「恋愛感情」ではなく、あくまで「被疑者と取り調べ官としての信頼関係」だと認識していたと訴えた。

西山さん 警察官に直接質問する

(裁判長)「ここは、意見を言う場所ではありません。原告に対しては質問をしてください」

 裁判の終盤には、西山さん本人が警察官に直接質問する時間も設けられた。裁判長からそのように諭されると、西山さんは静かに頷き、立ち上がった。

(西山さん)「先ほど代理人から取り調べの中で、『イスを蹴ったり机をたたいたりはしていない』とあなたは答えましたね?」
(警察官)「はい。そうしたことは、していません」
(西山さん)「(バンバン)こういうふうにたたいたことはありませんか?」
(警察官)「一切ありません」

 淡々と否定し続ける警察官。西山さんも、冷静に、言葉を選びながら質問を続ける。

(西山さん)「そうですか…。あなたは何日も取り調べをする中で『俺がお前の不安を取り除いてやると』私に言いました。その理由は?」
(警察官)「取り調べで被疑者を改心させるため、反省させるために言ったことです」

 最後に、西山さん側の弁護士から、こんな質問が投げかけられた。

(西山さん側の弁護士)「あなたは今でも西山さんが殺害したと思っていますか?」
(警察官)「無罪判決が出ています。取り調べ官として取り調べをした私が答える立場にはない」

 その直後だった。

(西山さん)「答えてくださいよ!今でも私が犯人だと思っていると言ったらいいじゃないですか」

 それまでの冷静さを欠き、声を荒げた西山さん。法廷は、静まり返りまった。

ちゃんと謝ってほしかった

 閉廷後、記者会見でこの日の尋問をこう振り返った。

(西山さん)「(警察官と)お会いしたのは約20年ぶりでした。第一印象は、『えらい年をとったな』と思いました。当時、それまで誰からも肯定されてこなかった自分に対して『賢いほうだよ。自信持って』と。そう言われるだけで好きになってしまって。なんでそんな人を好きになってしまったんだろうと。でも、ちゃんと謝ってほしかった」

 5月30日には、警察官の上司の証人尋問も予定されている。「謝ってほしかった」。そう望む西山さんの思いは届くのだろうか。

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