「30センチ必要なのに厚さわずか3センチ」"空洞だらけ"のトンネル施工不良 原因は「施工業者の倫理観欠如」調査報告書で結論付ける 知事「規模は車の認証不正に匹敵」と糾弾
MBSニュース / 2024年6月8日 15時15分
和歌山県の串本町と那智勝浦町を結ぶ「八郎山トンネル」でコンクリートの厚さが不足するなど施工不良が見つかった問題。専門家らによる「技術検討委員会」は今回の問題に関する調査報告書を取りまとめ、建設会社の技術員や現場監督らの倫理観の欠如やミス、さらに県の監督体制に不備があったなどと指摘しました。
南海トラフ地震の災害時のう回路として去年12月に供用開始予定だった
問題となっているのは和歌山県の串本町と那智勝浦町の町境をつなぐ県道のトンネル「八郎山トンネル」です。県などによりますと、全長711mのこのトンネルは、南海トラフ地震などの災害時には、海沿いの国道42号の迂回道路として、重要な意味合いを持つ県道として、整備中で、トンネルはおととし9月に完成し、去年12月に供用開始の予定でした。
コンクリの厚さ30センチ必要なのに…わずか3センチしかなく
しかし、おととし12月の照明の設置工事で、コンクリート内部に空洞があることがわかったということです。空洞は少なくともトンネルの約8割の範囲に及び、調査で、本来の設計でコンクリートの厚さは30センチ必要な箇所が、最も薄いところで、わずか1/10の「3センチ」しかなかった所もあったということです。
今回のトンネル工事は、は和歌山市にある「淺川組」と田辺市の「堀組」の共同事業体が実施していました。和歌山県によりますと、業者は「コンクリートの厚さは設計以上に確保されていた」という書類を提出していましたが、県の聞き取りに対し、「検査で薄いことは把握していた」と回答、書類を設計値以上に書き換え、改ざんしたことを認めたということです。
「自分はトンネル工事の専門家」敏腕とされた現場所長 独断で工事強行
浅川組などによりますと、今回のトンネル工事を担当した現場所長は社内でも経験が豊富で「トンネル工事」と言えばこの人と称される“敏腕社員だった”ということです。
所長は社内でのヒアリングに対して「覆工コンクリートの厚さが確保できないことを認識しながら、本社に相談することなく工事を進め、数値を偽装して検査を通した」と回答、さらに、「手直しをすれば工期に間に合わなくなる。赤字にしたくない。1次覆工で強度は保たれているのでトンネルの安全性に問題はないと判断した」と話したということです。また、「何よりも自分はトンネル工事の専門家であり、本社に相談してもどうなるものではない」とも回答していたということです。
さらに、所長は『覆工コンクリートは、化粧コンクリートのようなもので厚さが足りなくても問題ない』などという発言もあったということです。この内容について報告を受けた県の担当者は「全く信じられない発言で、あり得ない」とも話していました。
全コンクリートをはがして工事は全面やり直し
専門家らからなる技術検討委員会は原因調査と今後の補修工事の方針について協議を続けてきました。その結果、鋼材が本来の設置位置からずれていることなどから、コンクリートを全てはがし、工事を全面的にやり直す必要があると判断しました。施工業者の浅川組は、去年12月からコンクリートをはがす工事をはじめ、ほぼ撤去が完了したということですが、完了は来年12月の見込みで、本来の開通時期から約2年遅れになるということです。
報告書では「業者の倫理観の欠如」が背景と指摘
技術検討委員会は、5月末に報告書を取りまとめました。検討委によりますと、施工不良が起きた原因について、『測量技量の未熟さ』、『コンクリートの厚さやアーチ状の「支保工」の設置位置の確認不足』などがあったと指摘したうえで、施工を担当した浅川組の技術者や現場監督らの倫理観の欠如などが背景にあったとしています。
一方で県も「段階確認」を適切に実施していないなど監督体制に不備があったこと、監督者らの技術力不足があったことなども指摘したということです。
今後、再発防止策として、発注者である県側の監督員の技術力強化や不正を未然に防ぐ検査体制等の環境整備を進めていくとしています。県は6月中にも報告書をホームページで公開すると予定だということです。
岸本知事「ブルータスお前もか…車の認証不正に匹敵する倫理観の欠如」
岸本知事はこうした報告書の状況などを踏まえて、6月5日の会見で改めて今回の問題について「倫理観の欠如は車の認証不正問題に匹敵する」などと糾弾しました。
「本当にこんなずさんなことが、起きたのかと言うのは今一度驚かされる。報告書にありますように倫理感の欠如、まさに今直近で言えばトヨタ始め自動車会社の世界に冠たる自動車会社のああいう不正の問題もありますけれども、それに匹敵するような、倫理観の欠如ということがあったと」
「今回の会社については猛省を促すわけであります。『ブルータスお前もか』と豊田章男会長の言葉を借りるわけじゃないですが、日本社会全体の大きなひずみというものを感じます。もう一度襟を正して我々も含めてもう一度倫理感について見つめ直していきたいなと感じています」
開通遅れで延滞金…損害賠償を請求を検討
また、開通時期が2年遅れに伴う延滞金や逸失利益などについてどのように算出するかなど検討しているということです。
(岸本知事)
「現在どのような形で請求ができるのか。弁護士さん、それから国交省さんともですね綿密に相談しながら進めていると聞いております。損害賠償はする方向で今準備を緻密にしているというところでありますので結果報告を聞いておりませんがきちんと詰めた上で皆様にも報告できるタイミングが出てくるのかなと思っております」
現場所長の安易な判断から、トンネルの7割にも及ぶ施工不良が及んだ今回の問題。いつ起こるか分からない災害のう回路として活用するはずだった地元の人にとっても、早期の開通が望まれます。
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