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「殺処分される不幸な猫を減らしたい」不妊去勢手術の普及図る獣医の奮闘 糞尿・鳴き声に悩む"野良猫あふれる島"で出張手術

MBSニュース / 2024年6月16日 15時42分

 野良猫があふれ、糞尿や夜間の鳴き声などに悩まされている兵庫県の坊勢島。島の自治会は殺処分でなく猫と共存することを選択し、出張の『不妊去勢手術』を依頼しました。「不幸な猫を減らしたい」そう願う獣医の挑戦を追いました。

「おしっことかウンコするのが困る」繁殖した野良猫に悩む島民

 瀬戸内海に浮かぶ、兵庫県姫路市の坊勢島。人口約2000人の小さな島には、島民らを悩ませる「ある問題」があります。

 (島民)「猫が入ってくるのよ、網戸を開けて」
 (島民)「猫はおしっことかウンコするやろ、それが困る」

 小さな島に野良猫があふれ、糞尿や夜間の鳴き声など被害が出ているのです。そんな島に“救世主”として現れたのが1人の獣医。不幸な猫を1匹でも減らしたい…獣医の願いがありました。

1日中休みなく手術することも…“猫専門”の不妊去勢手術を提供する獣医

 兵庫県姫路市にある動物病院「スペイクリニック姫路」。運ばれてくるのは猫だけです。

 (来院者)「今10か月のメス猫ですね。発情期が来てたので、妊娠を防ぐために避妊手術を受けにきてます」

 「スペイ」とは「避妊や去勢手術」のこと。このクリニックは「猫」専門で不妊去勢手術に特化した病院なのです。

 獣医で院長の野村芽衣さん(41)は、このクリニックを2年前に開業しました。

 (スペイクリニック姫路 院長・野村芽衣さん)「きょうは18匹ですね。(Q神経を使いますか?)そうですね、1匹1匹集中してやってるので」

 このクリニックは不妊去勢手術に特化することで、低価格で手術を提供(オス猫:5500円 メス猫:7700円)。姫路市以外からも利用客が訪れ、予約が多いときは朝から夕方まで休むことなく手術をすることもあるといいます。

“過剰繁殖”で殺処分される猫を救うためクリニックを開業

 幼い頃から動物に囲まれて育った野村さん。北海道の大学を卒業し獣医に。2013年から働いた兵庫県尼崎市の動物愛護センターでは、野良猫を保護して希望者に譲渡する活動などに奔走しました。そこで直面したのは、「過剰繁殖」の問題でした。

 (野村芽衣さん)「保護と治療と譲渡をずっと繰り返す。果てしなかった」

 環境省によりますと、猫は一度に平均5匹の出産を、年に2~4回行います。計算上、1匹のメス猫が1年後には20匹、2年後には80匹にも増えるのだといいます。

 野良猫は保護されても、譲渡を希望する人がいなければ殺処分されます。野村さんは「不幸な猫を減らしたい」という願いから不妊去勢手術を普及させようとスペイクリニックを開業したのです。

 (野村芽衣さん)「飼い猫も野良猫も保護猫も全て手術しないと、この問題は根本的に解決しないんだよと。不妊手術をするのが当たり前だと思う認識に切り替えてもらったら」

殺処分ではなく“共存”を選んだ島民 出張の不妊去勢手術を依頼 

 今年6月5日、野村さんはある場所に向かいました。兵庫県の坊勢島です。瀬戸内海に位置し、サバやシラスなどの漁業が盛んなこの島では、漁師がネズミ対策で猫を飼う習慣がありました。しかし、放し飼いをする島民も多く、外で猫の繁殖が進み、野良猫の数が増えてしまったといいます。

 (島民)「玄関にもしょっちゅう来ます。ここにもウンコしたりね。こんなん(白い人形)を置いてるのは猫が寄ってこないように」

 (島民)「ネズミが増えへんからええんちゃうかなと私は思うんですが、嫌われる方もいらっしゃるので…。なんとか猫と共存できていったら」

 殺処分するのでなく、共存することを選択した坊勢島の自治会は、不妊去勢手術を一部助成する姫路市の制度を利用して、野村さんに出張手術を依頼。まずはボランティアたちの手を借り、猫の捕獲をします。

 (ボランティア)「生まれてもね、病気とかもあるし」
 (島民)「病気がな」
 (ボランティア)「何回も妊娠したら弱くなったりもするし」

 島民たちの協力を得ながら、この日は猫45匹を捕獲しました。

「この機会にできる限りのことをしたい」1日で41匹の猫を手術

 島にある公営の施設に「仮設の手術室」がつくられ、野村さんは手術にとりかかります。1匹目はメスの猫。手際よく手術を進めていきます。

 1匹あたりにかかる手術時間は、オスが約5分、メスが約20分。

 さらに、野村さんは不妊去勢手術のほかにも、ある治療をしていました。

 (野村芽衣さん)「目の症状からすると、おそらく『ウイルス性の猫風邪症状』を発症していますので、それに対する目薬と眼軟膏、抗生物質の投与。この機会しか野良猫たちは医療を受ける機会がないので、この機会に分かったことは全部できる限りのことをさせていただきたいと思っています」

 手術が終わった猫には、耳に“カット”を入れます。自然に帰った後も、「さくら耳」と言われるこの印が手術を終えた目印になるのです。

 この日は手術する猫の数が多いため、別の獣医も合流し、手分けして進めます。

 手術の合間には、犬とともに野村さんのもとへ訪れる人の姿も。

 (野村芽衣さん)「心臓の音も肺の音も特に問題ありません」

 動物病院がない坊勢島。犬の診察対応もしながら、あわただしく午前中が終了しました。

 (野村芽衣さん)「お疲れ様です。午前は20匹(手術した)。また午後から頑張ります」

 午後も野村さんのもとには次々と猫が運び込まれ、ひたすら手術を続けます。

 (野村芽衣さん)「爪の根元の部分にばい菌が入って、膨らんで穴があいて膿が出ています」

 健康状態の良くない猫も少なくなく、適切な処置を施します。この日の最後の手術も、集中を切らすことなく丁寧に行います。

 この日、獣医2人で手術した猫は41匹。無事に終わり、野村さんも安堵の表情です。

 (野村芽衣さん)「ミスは許されないので、きちんと確認させてもらいながら。事故なく終わってよかったです」

“迷惑な猫”が“愛される猫”になるように…獣医の挑戦は続く

 翌朝、手術を終えた猫たちの健康状態を見回る野村さん。猫たちはこのあと、元いた場所に戻されます。

 (野村芽衣さん)「現場に入れば入るほど、まだ解決できてないところがたくさんあるし、次から次へと問題があがってくるので、これからも動き続けなければいけないなという思いはありますね」

 1匹でも多く、「地域の迷惑な猫」ではなく「地域から愛される猫」が増えるように、野村さんの挑戦は続きます。

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