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殺害された保護司から服役中に届いた手紙『皆さんの温かさに報いてもいないうちに夢を語るのは早すぎます』を胸に 更生支援を受けた男性「何も恩を返していない...なんでこんなことに」

MBSニュース / 2024年6月26日 11時51分

 滋賀県大津市で保護司の新庄博志さん(60)が殺害される事件が発生した。逮捕されたのは新庄さんが更生支援を担当していた男だ。事件発覚から1か月。保護司であった新庄さんのおかげで立ち直れたという男性と、新庄さんを慕って保護司になった男性が、初めて実名・顔出しで取材に応えてくれた。

10代のころから繰り返し非行…それでも支え続けてくれた保護司

 滋賀県大津市に住む谷山真心人さん(27)。窃盗罪などで去年8月まで刑務所に服役していた。現在は飲食店に卸す野菜を作っている。

 (谷山真心人さん)「ミニトマトの苗を今から植えていきます。元々少年院で畑作業を経験していたので、それを今の会社に伝えたら、土地があるからやろうかって」

 学校にもまともに通わず、10代のころから非行を繰り返してきた。

 しかし何度道を踏み外しても支え続けてくれた人がいた。谷山さんの保護司だった新庄博志さんだ。

 (谷山真心人さん)「初めて保護観察を満了して、記念で新庄さんと撮った写真です。『もう悪いことすんなよ』とか、『いい環境にいるんやからここで地に足をつけて頑張れよ』と。僕の社会生活も道半ばだったというか、何もかっこいいところを見せられていなかったので、なんでこんなことになってしまったんだろうなって」

担当保護司を殺害した疑いの男 その「人物像」

 逮捕された飯塚紘平容疑者(35)。新庄さんを刃物で刺して殺害した疑いが持たれている。犯行当時は保護観察中で、新庄さんが担当の保護司だった。

 2人の接点は5年前。飯塚容疑者が大津市内のコンビニから現金を奪った強盗の罪で保護観察の付いた執行猶予判決を受けたことがきっかけだった。

 保護司とは、罪を犯して保護観察がついた人の立ち直りを地域で支える民間のボランティアだ。専門的知識を持つ国家公務員の保護観察官と連携し、月に数回、保護観察中の人と自宅などで面接して社会復帰を手助けする。

 飯塚容疑者も新庄さんの家のすぐ近くに住んでいて、今年4月以降、3回面接を受けていた。しかし事件はその面接の最中に起きたとみられている。

 飯塚容疑者はどんな人間だったのか。周辺を取材すると、その人物像が見えてきた。

 (飯塚容疑者を知る人)「人とあまりコミュニケーションを取らない。急にキレはりそうな感じですね。(何か言っても)ずっと黙っているけど、別に言い返してくるわけでもないし。かといって一生懸命人の話を聞いているわけでもなさそうで」

 さらに、本人のものとみられるSNSには、保護司の新庄さんや保護観察の制度について不満をほのめかす内容が投稿されていた。

 【飯塚容疑者とみられるSNSより】
 「今日は僕の家に保護司がく~るくる」
 「保護観察とか~。全然保護しない」
 「やっぱり保護って言葉は要注意ワード」

 また、新庄さんが飯塚容疑者の対応に手を焼いていたこともわかってきた。

 (更生保護団体の関係者)「新庄さんから、自分が担当している対象者の仕事先を紹介してもらえないか、と相談を受けました。ところが2か月くらいで辞めて帰ってきよったと。なんで辞めたのかなと新庄さんにお聞きすると、(飯塚容疑者は)自分に対する正当な評価をしてもらえない、と」

新庄さんの勧めで保護司となった男性「頼れて相談できる先輩でした」

 新庄さんの死を惜しむ声は今も後を絶たない。大津市の保護司・宮本一幸さん(56)。新庄さんとは30年の付き合いだった。今回、初めて取材に応じた。

 (宮本一幸さん)「偉大な先輩でした。本当に残念な人をなくしたなと。これからもますます活躍していただけたらなと思っていたのに」

 13年前、青年会議所の先輩だった新庄さんから勧められて保護司となった。尊敬できる先輩だったという。

 (宮本一幸さん)「『社会に役立つことをお前もせなあかんやろ』みたいな感じで、『今からは恩返しや』みたいな感じで誘われました。やっぱり頼りがいがある、何かあったときには頼れる、相談できる先輩でしたね」

 これまでに約30人の保護観察にあたってきた。取材した日も面接が入っていた。

保護観察中の男性「会って近況を話すだけでもストレスは減る」

 やってきたのは保護観察中の40代男性。海外から覚醒剤を密輸した罪で実刑判決を受けたが、仮釈放が認められて保護観察となり、2週間に一度、面接を受けている。今年8月で刑期を終え、保護観察も満了するという。

 (宮本さん)「8月までは仕事を考えて?ゆっくり吟味して?」
 (保護観察中の男性)「この年で何かというとやっぱり限られてくるので、その中から自分の興味のある仕事を探していこうとは思っています」
 (宮本さん)「ご家族もOK?また家を空けることになるけど」
 (保護観察中の男性)「それはおかんが言うてましたけどね。近くにいてほしいみたいな」

 再犯は孤立を深めた先にあると言われている。今、男性にとって宮本さんは心の拠り所だという。

 (保護観察中の男性)「相談する相手がいないのは結構しんどいと思うので。やっぱりこうやって2週間に1回でも会って近況を話すだけでもやっぱりストレスは減るので。近所に住んでいるのも大きいんちゃいます。歩いていける距離に住んでいる優しいお兄さんが『もうやったらあかんぞ悪いこと』という話をいつもしているので」

 「味方であり続けたい」。宮本さんはそう思って続けてきたが、新庄さんの事件以降、こんな思いも抱くようになったという。

 (宮本一幸さん)「今見させてもらってる方とは、もう信頼関係というか、何回もお会いしているので全然不安とかはないんですけども。次に新しい方を保護観察するときに、やっぱり不安もありますし、どう接していったらいいかなというのでものすごく身構えるというか、そんな気持ちになってしまいますね」

「やめたい」不安の声…揺れる保護司制度

 こうした不安は広がりつつある。法務省は6月、全国の保護司を対象に行っている調査の途中経過を報告。面接への不安や「やめたい」という申し出もあったことがわかった。

 揺れる保護司制度。通常の1対1ではなく複数の保護司で対応する方法も議論されている。

 一方で、元保護観察官の専門家である龍谷大学の矯正・保護総合センターの浜井浩一センター長は、ベテランの保護司が新任の保護司をサポートできる仕組みは必要だとしたうえで、こう指摘する。

 (龍谷大学 浜井浩一センター長)「保護司さんを支えるのは、保護観察所だけの役割ではなくて、地域の役割でもあるんですよ。地域が保護司さんの味方でいる。保護司さんは本人(保護観察中の人)の味方であると。そういう状況がうまく作れれば、保護司さんが孤立することはないです。支援者を孤立させない支援がすごく大事」

『我々の社会の門を叩き、くぐって来てくれる事を念じて止まない』新庄さんの言葉を胸に…

 保護観察中、新庄さんから更生支援を受けた谷山真心人さん。谷山さんは再犯して服役した刑務所で、新庄さん宛てに“将来の夢”を綴った。返ってきた手紙の言葉を大切に胸に留めている。

 【新庄さんからの手紙より】
 「皆さんの温かさに報いてもいないうちに、自分の夢を語るのは早すぎます。社会復帰ではなく、我々の社会の門を叩き、しっかり門をくぐって来てくれる事を念じて止みません」

 (谷山真心人さん)「ああいう人に出会えてよかったなと初めて思いましたし、何も恩を返してないうちにお別れしてしまったことに対してすごく思うことがあるので。『これからの僕を見といてください』って言いたいですけど、それくらいしか言えないですね、今は」

 誰もが立ち直るチャンスを。新庄さんが残した意志を、私たちはこれからどう受け止め、どう受け継いでいくのか。

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