最高裁で勝訴「67年間苦しんできた。こんなに嬉しいことない」14歳で"強制パイプカット"された夫、意を決して妻に秘密打ち明けた 旧優生保護法は憲法違反、国に賠償命令
MBSニュース / 2024年7月3日 17時20分
かつての優生保護法は、障害のある人などに強制的に不妊手術することを認め、およそ1万6000人が本人の同意を得ずに手術を受けたとされています。その中には、障害がない14歳の少年も含まれていました。
当時の少年らを含む原告らが訴えた裁判で、最高裁大法廷は7月3日午後、「旧優生保護法」は憲法に違反するとして、国に賠償を命じる判決を言い渡しました。
およそ50年間も、国家の施策として強制不妊を行った国の責任は極めて重大だとして、原告らに賠償を命じる判決を言い渡し、原告側が完全に勝訴した形となりました。
◆母親が出産に反対、妻が中絶手術
兵庫県明石市に住む小林宝二さん、92歳。ともに裁判を闘ってきた妻の喜美子さんは、7月3日の判決を見ることなく、2022年この世を去りました。
「ひとりになってしまいました」「本当に寂しいですねぇ… まだまだ寂しい気持ちが続いています」(小林宝二さん)
ともに聴覚に障害があり、お見合いで出会った宝二さんと喜美子さん。絵に描いたようなおしどり夫婦でした。
しかし2人は笑顔の裏で、壮絶な苦しみを抱えてきました。1960年、結婚式を挙げた数か月後に喜美子さんの妊娠が判明します。2人はとても喜びましたが、宝二さんの母親が出産に反対。喜美子さんは中絶手術を受けさせられました。
◆”にぎやかな家庭を”夫婦の夢を奪った強制不妊手術
宝二さんと喜美子さんは同じ年に神戸地裁に提訴(1審は敗訴 2審で逆転勝訴)。そして、宝二さんはひとりで、最高裁判決を迎えることになったのです。
「私たちは騙されていたんだ、もう取り返しのつかないことをされてしまった」
「聞こえても聞こえなくても構わないと思うんです。子どもを育てることはできると思います」(小林宝二さん)
◆差別的な理念掲げた旧法律 背景に当時の人口急増もあったという
戦後の人口急増などを背景に1948年に成立した旧優生保護法には、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」とあります。
差別的な理念を掲げたこの法律によって、(母体保護法に改正される1996年までに)少なくとも約2万5千件の不妊手術、すなわち「優生手術」が行われ、うち1万6千件あまりは本人の同意がない「強制」でした。
◆かつて、優生手術に携わった精神科医が実名で証言
優生手術に携わった経験のある精神科医がMBSの取材に実名で応じました。岡田靖雄さん、93歳です。1950年代から60年代にかけ、都立病院の精神科に勤めていました。
「年に2回、医局の黒板に優生手術の対象になる人がいたら、名前を書きだせと」
「同じような知的障害の人が生まれては困ると思って、医局の黒板に、その名前を書いて」(岡田靖雄さん)
岡田さんは、中度知的障害がある女性患者が、男性患者と性的な関係を持ったと知り、その女性の名前を黒板に記入。本人の同意は得ていませんでした。実際に手術が行われる際も助手を務めたといいます。
――ためらいみたいなものはなかったですか?
「いや、ですから、日常業務のひとつだったわけですね。言ってみれば、この患者さんに電気痙攣療法をやるかどうか決めるのと同じように、日常の仕事としてやったわけです」(岡田靖雄さん)
「加担の事実をはっきりさせることが、加担の責任を取る一番の方法だと」
「証言を求められれば、這ってでも行って証言する、それが僕の息がある間は責任だと思っています」(岡田靖雄さん)
◆14歳で「パイプカット」障害のない少年も手術対象
優生手術の被害を受けたのは障がいがある人だけではありません。北三郎さん(※活動名)81歳です。
仙台で生まれた北さんは生まれてすぐに母親を亡くしました。父親やその再婚相手との折り合いが悪く、学校にもなじめなかった北さんは、児童自立支援施設に入れられました。
14歳の時、ある日突然、職員が病院に連れていきます。
「『俺帰るよ、悪い所は別にない』と言ったんだよね」「看護婦さんに呼ばれて背骨に注射を打たれたんです。その時に意識朦朧としちゃって…」(北三郎さん)
予想もしていなかった手術を受け、激しい痛みに苦しんだ北さん。後日、施設の先輩から自分が受けた手術は、パイプカット=男性の不妊手術だと知り、がく然とします。
◆『子どもが何でできないのかな』と話す妻 意を決して秘密を打ち明けた
北さんは20代後半で結婚したものの、妻には、自分が子どもを作れない体だと打ち明けることはできませんでした。養子を迎え入れようと、持ちかけたこともあったといいます。
「ポツンと私に言いましたよ。『子どもが何でできないのかな』って」「(養子の候補を)どの子がいい?と女房に写真を見せたんだけれども、あなたの子どもでないとダメだということを言われた時には断念しましたよ」(北三郎さん)
妻が白血病に倒れて亡くなる直前、北さんは、意を決して“秘密”を打ち明けました。
「『産婦人科に連れていかれて、パイプカットをやられた』と。『そのために子どもができなかったので、本当に申し訳なかった』と言いましたよ」(北三郎さん)
――本当の事を言った時、奥さんはどんな反応だったんですか?
「うつむいて、しばらくは黙っていて、『ご飯だけはちゃんと食べてね』と言って、まもなく(2、3日後に)息を引き取った」(北三郎さん)
夫の嘘を責めることはなかった妻。最期の会話でした。
2018年に仙台での裁判の報道を見て、ようやく自分が受けたのは優生手術だと認識し、訴えを起こした北さん。国の責任を認める判決を勝ち取り、人生のひとつの区切りにしたいと願ってきました。
「自分の体はもう取り返せない、人生も取り返せない」「一言でもいいから国に謝ってもらいたい気持ちがあります」(北三郎さん)
そして迎えた注目の判決。3日午後、最高裁は旧優生保護法について憲法違反と断定しました。
およそ50年間も、国家の施策として強制不妊を行った国の責任は極めて重大だとして、原告らに賠償を命じる判決を言い渡し、原告側が完全に勝訴した形となりました。
改正前の民法が定めた除斥期間(=賠償を請求する権利は不法行為から20年が経てば消滅するという原則)について、最高裁は、「今回の原告らに適用することは著しく正義・公正の理念に反し到底容認できない」と指摘。
8人の原告に対し、総額1億円あまりの賠償を国に命じました。(仙台訴訟は仙台高裁に差し戻し)
東京訴訟の原告・北三郎さん「こんな嬉しいことはありません」「(他にも被害者はいるし)まだ全面解決になっていないんじゃないか」「みなさんの全面解決をしてもらいたいという気持ちでおります」
兵庫訴訟の原告・小林宝二さん
「喜美子も天国から見て喜んでくれていると思います。この判決を待っていました、(提訴から)6年間長かったです」
最高裁は裁判官15人のうち、多数意見として、本人の同意があった不妊手術も「そうした同意を求めること自体が個人の尊厳に反する」として、強制にあたるという見解を示しました。
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