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「余裕がなければ人に優しくできるわけない」障がい者施設職員の虐待なぜ相次ぐ?独自アンケートで見えた過酷労働 回答者の半数が「虐待を見た・聞いたことある」

MBSニュース / 2024年7月24日 12時4分

 障がい者施設で働く職員による虐待が相次いでいる。2022年度には、956件と過去最多の認知件数となった(厚生労働省の調査より)。その一方で、障がい者施設は家族にとって大きな存在で、入居を待つ人が大勢いる。なぜ虐待が増加するのか、障がい者施設で働く現場職員にMBSが独自アンケートを実施し、背景にあるものを探った。

突然起こる自傷行為 強度行動障害の息子と暮らす母親

 長野県内に暮らす蒲和美さん(51)と息子の涼太さん(27)。涼太さんは自閉症の診断を受けていて、「強度行動障害」がある。普段は穏やかな性格の一方で、自ら壁に頭をぶつけるなど、突如として自傷行為を起こす。

 (涼太さんを止める蒲和美さん)「涼太もういい加減にして!」

 大人が数人がかりで止めるのがやっとだ。

 (蒲和美さん)「自傷行為の頻度は不定期なんですよ。規模というか大きさも全く、なってみないとわからない。涼太と接しているときはずっと気を張っているんだと思いますね。無意識のうちに」

 強度行動障害とは、自傷行為など周囲に影響を与える行動が高い頻度で起こる状態を指す。涼太さんは「時間」に強いこだわりがあり、日々の予定が少しでも狂うとそれが自傷行為につながる。和美さんはこうした生活に向き合い続けてきた。涼太さんが小学1年のころに綴った日記には…

 【蒲和美さんの日記より】
 「4月の頃は毎日、何回もパニックになり、毎日戦争だった。体が痛い…」

 (蒲和美さん)「心が折れたことは幾度となくあります。この世からいなくなりたいなって思ったことも本当にいっぱいありましたね」

 そんな障がいのある人と家族を支える存在がある。いわゆる障がい者施設だ。

 涼太さんは平日の日中、施設に通っている。強度行動障害のある人を受け入れる施設は少なく、ようやく見つかった場所は車で約1時間半のところにある。施設では決まったスケジュールを過ごせるため、涼太さんにとっても家族にとっても大切な時間となっている。

 (蒲和美さん)「もう本当に買い物に行くにも市役所に行くにもどこに行くにも、涼太を連れて行かないといけないので、気が狂いそうになってました。自分の時間も一切ない。(施設が見つかって)本当に『やった』って感じですよね、うれしくて」

障がい者施設の職員による虐待が相次ぐ

 施設を必要とする声があがる一方で、障がい者施設の職員による虐待は後を絶たない。今年4月、大阪府岸和田市にある障がい者支援施設の職員4人が入居者の50代男性に対し、暴行を繰り返していたとして逮捕・起訴された。

 さらに翌月の5月には、和歌山県の施設の女性職員(30代)が入所者の目と口をテープでふさぎ、その様子をスマートフォンで撮影したことが発覚。

 厚生労働省によると、職員らによる虐待は2022年度に過去最多の約1000件となり急増している。

「支援員も疲れている」「人手不足」アンケートで見えた過酷な労働環境

 障がい者を守るはずの職員がなぜ虐待を繰り返すのか。私たちは障がい者施設の現役職員が所属する全国の労働組合にアンケート調査を実施した。そこから見えてきたのは“過酷な労働環境”だ。

 【アンケートの回答より】
 「人手不足で過酷な環境になっている」
 「給料安い」
 「支援員も疲れている。心と身体に余裕がなければ、人に優しくなんて出来る訳がない」

 ほとんどの職員が「人手不足」「労働時間の長さ」「賃金の安さ」などを指摘。こうした状況による“余裕のなさ”が虐待につながるとする職員もいた。そして、虐待行為を見たり聞いたりしたことがあるか、という問いに対しては…

 【アンケートの回答より】
 「あります」
 「施設でありました」

 回答のあった22人のうち半数の11人が見たり聞いたりしたことがあるとした。

障がい者施設で働く新人職員の日常

 では、障がい者施設での日常とはどういったものなのか。大阪府岸和田市の「山直ホーム」で4月から働き始めた新人職員、賀数将さん(22)を取材した。賀数さんは、弟に障がいがあることをきっかけに志したという。働き始めてまだ3か月ほどだが、すでに重要な戦力だ。

 (賀数さん)「1回座って。1回座って。なんで?トイレ?」
 (先輩職員)「嫌がる?」
 (賀数さん)「嫌がります。トイレかな?」

 座るよう促してもなかなか座らない利用者。トイレに誘導すると、すんなり座った。

 (賀数将さん)「落ち着かないときや座らないときはパンツに便がついていることが多くて、おしっこ終わったらすんなり座った感じです」

 この施設では主に重い知的障がいのある26歳~63歳の入所者40人に対し、48人の職員が勤務している。人手不足で日中の活動が制限されることもある中で、新人も即戦力として現場で経験を積んでいる。

 部屋で音楽が流れていないことにいらだち、服を脱いで外に飛び出してしまう利用者も。

 (先輩職員)「先に部屋に戻ってもらうことが先決や」
 (賀数さん)「音楽流してきます」
 (先輩職員)「OK、よろしく」

「人材不足は大きく感じる。大変さと見合っていない」

 入所施設のため24時間勤務のシフト制。職員の身体的な疲労は大きいが、さらに夜勤は1人で入所者全員を見なければならないなど責任も重い。そこで、先輩職員によるサポートに重きを置き、月1回の面談を行うなどフォローの体制は整っているが、やりがいの一方で不安を感じていると話す。

 (賀数将さん)「人数が少ない『人材不足』は大きく感じますし、働いていても、なんでこんなに人が少なくて今ここに入るのが2人しかいない、あと1人いればとか。3か月しか働いていないのであんまり言えないんですけど、やっぱり実際に働いているより(給料は)少ないのかなというイメージはありますね。大変さと見合っていないというか」

 その一方で、この施設への入所を待つ人は約130人にのぼる。施設はいま、入所者を受け入れたくても受け入れられないジレンマを抱えている。

 (山直ホーム 叶原生人施設長)「支援の質と継続性については職員の確保と共に、当然育成が必要になってきます。国の職員配置基準の課題、処遇改善の課題とか、さまざまな課題が絡んで一つの虐待という事象に出ていくと思います」

「虐待をする気持ちはわからなくはない…でも信頼して預けたい」

 長野県に住む蒲和美さん。自閉症の息子・涼太さんをいつか自分が支えられなくなった時のため、いまは通所施設ではなく、安心して預けられる入所施設を探している。

 (蒲和美さん)「この子を殺して自分もみたいな考えが過去にあったので、虐待をする気持ちはわからなくはないです。だけども、預ける身としては悲しいというか、信頼して預けたい」

 障がい者を抱える家族と彼らを支える施設。それぞれの悲鳴から目を逸らしてはならない。

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