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「自分のことが一番信用できない」若年性アルツハイマー型認知症 それでも一人暮らしを選ぶ59歳美香さんの決意

MBSニュース / 2024年7月25日 12時6分

 国内に1002万人いると推計されている認知症患者(※軽度認知障害を含む 2022年の厚労省調査より)。その認知症の治療薬として去年9月に承認されたのが、国内初の新薬「レカネマブ」です。承認から10か月、見えてきた希望と課題とは?レカネマブの投薬治療を行う50代の患者を取材しました。

「自分のことが一番信用できない」若年性アルツハイマー病と闘う女性の日常

 大阪市内でひとり暮らしをする美香さん、59歳。若年性アルツハイマー型認知症の患者です。症状はまだ軽度ですが、聞いたことややったことを忘れるなどの記憶障害があります。取材した日、近所の店に弁当を買いに行きますが…

 (美香さん)「ごめんなさい。ちょっと待って」

 通い慣れた道のはずが行き方がわからなくなってしまいました。

 (美香さん)「どうやって行ってたかな。忘れた。やばい」

 このように突発的に記憶が飛ぶこともあります。無事店にたどり着き、弁当を買うことができました。しかし、自宅に帰ってから様子が落ち着きません。

 (美香さん)「お弁当どこやったっけ。お弁当どこいったっけな。玄関かな」
 (記者)「美香さん、これだと思います。あの白い袋」
 (美香さん)「お弁当はお弁当としてあると思っていたら大間違いなのね。袋に入ってたんか…」

 記憶障害だけでなく、空間や物を認識する力も衰えてきています。

 (美香さん)「お茶あったかな。きのうのかな?わからない…。うわ、どうしよう…」
 (記者)「お茶ですか?」
 (美香さん)「うん」
 (記者)「それごま油です」
 (美香さん)「ごま油!?やばい~めちゃめちゃやばい。本気でお茶やと思ってた」

 病気の診断を受けた5年前から症状は少しずつ進行していて、1人で食事をするのも難しくなってきました。好きだったカラオケからも足が遠のき、塞ぎこむようになりました。

 (美香さん)「『覚えてる歌ばっかり歌ったらいいやん、行こうや』と言われても、気分がすごくどよどよになってしまって。自分のことが一番信用できないし、だから他の人たちのことも100%信用できないようになってきているのがちょっと最悪やなって」

投薬治療を開始 美香さんの母「うれしくて涙が出ました」

 そんな美香さんに一筋の光がさしたのは去年9月のことでした。アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」(商品名:レケンビ)が国内で承認されたのです。病気の原因物質を取り除く国内初の薬で、症状の進行を遅らせる効果があります。美香さんは早速、今年1月にレカネマブの投薬治療を始めました。

 (美香さん)「お薬と先生に頼って…祈るだけ」

 2週間に一度、点滴で薬剤を投与。これが1年半続きます。離れて暮らす母親の幸子さん(88)が毎回、病院に同行しています。

 (母 幸子さん)「(Q何を書いている?)あの子が覚えていられないから私が全部書いて、『次は何日よ』と言うてやるんです」

 幸子さんはレカネマブの実用化が現実味を帯びたころから、ずっと治療が始まる日を心待ちにしてきたといいます。

 (母 幸子さん)「『薬を打ちましょう』って言っていただいたときは、本当にうれしくて涙が出ました。まだ50代というのはあまりにもひどすぎるので。ちょっとでも遅らせてもらったらありがたいという気持ちです」

 美香さん親子のように多くの患者らが期待するレカネマブ。しかし思うように治療が進んでいない現状があります。約1000万人いる認知症と軽度認知障害の患者のうち、投与を始めているのは7月始め時点で約2700人。0.03%にしか満たないのです。

なぜ?患者のうち投薬を始めているのは『わずか0.03%』

 大阪府内に住む70代の男性患者。去年9月頃に発症して以降、レカネマブに期待を寄せてきました。
 
 (男性患者 70代)「薬が出るのは知っていました。ラッキーと思いました」

 ところが、投与できるかどうかを調べる事前診断で…

 (近畿大学病院 花田一志医師)「出血が多いからレカネマブの治療ができないという話になってしまいます」

 レカネマブを投与できるのは症状が軽度の患者に限られるほか、薬の副作用で脳出血が起きることがあるため治療前に出血が複数ある人は投与できません。この男性は診断の結果、脳内の5か所で出血が見つかり薬の対象外となりました。

 (男性患者 70代)「やっぱりショックです。一抹の不安もありながら(投与に)期待する…」
 (近畿大学病院 花田一志医師)「ひとつ治療が受けられへんからダメという話ではなくて、しっかりとここから治療を一生懸命していきましょう」

治療開始から半年 美香さんの症状の進行は…

 7月上旬。美香さんがレカネマブの投薬治療を始めて半年が経過しました。認知機能を確かめる検査で薬の効果を確認すると…

 (大阪公立大学医学部附属病院 武田景敏医師)「4月の検査で認知機能は26点に下がっちゃったんですけど、今回は変わりなく26点でした」

 前回から認知機能は変化なし。他の検査結果もあわせると「若干の進行にとどまる」という結果でした。

 (大阪公立大学医学部附属病院 武田景敏医師)「(Q薬を投与していないとさらに進行?)もちろんです。特に若年性の認知症は進行が速いですので、半年、1年でもかなり進んでいきますから、その進行の程度を考えたら、十分治療効果はあるんじゃないかなと考えています」

「前向きに考えて生きていけるかなと」

 美香さんは、今後も治療を続け、できるだけ自分の力で生活したいと話します。

 (美香さん)「何もなくてどうしようもない、ただただ過ぎていく時間を待つだけというのはあまりにも悲しすぎるので、前向きに考えて生きていけるかなと」
 (母 幸子さん)「歌が大好きなんだから、お友達とカラオケ行ったりしてね、楽しめることは楽しんで」
 (美香さん)「わかりました」
 (母 幸子さん)「わかりましたね」

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