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「先生も言いたいこと言えない」性教育で悩む教育現場 背景に"性交は一律に教えるものではない"はどめ規定「もっと踏み込んだほうがいいと思うことも」保健師が唱えるイマドキの性教育

MBSニュース / 2024年8月2日 20時27分

 性犯罪から子どもをどのように守るか。0歳~19歳が被害者の不同意性交等罪・不同意わいせつ罪の認知件数は去年、約3700件に上っています(警察庁の犯罪統計より)。しかし性被害は表に出にくいため、これは氷山の一角ではないかとも言われています。子どもたちを守るための最新の性教育とは?MBS河田直也アナウンサーが中学校を取材しました。

“生きる上での土台”となる性教育とは

 河田アナが訪れたのは、兵庫県明石市にある江井島中学校。性教育の講師を務めるのは、NPO法人「HIKIDASHI」の大石真那さんです。

 保健師の大石さんは4人の子どもを育てるママ。7年前に長男から「赤ちゃんはどうやって来たの?」と聞かれたのをきっかけに性教育に取り組み始めました。

 大石さんが教えるのは国際基準に基づいた「包括的性教育」と呼ばれるものです。

 (NPO法人HIKIDASHI 大石真那さん)「ベースには人権教育。子どもたちが生きていく上での土台として幅広く繰り返し学んでいけたらいいなと思います」

「包括的性教育」とは

 ユネスコなどの国際機関が発表した、世界の性教育の指針である「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」がもととなった新しい性教育の考え方。生殖や避妊に関する知識だけでなく、ジェンダーの多様性や、多様な価値観、文化、家族の在り方など、人権をベースとした教育。

 生きていく上での土台となる性教育とは?この学校では年に1回、性教育の講演を行っていて、今回は中学3年生と一緒に河田アナも学びます。

 講演は60分。主なテーマは「“愛の12段階”とは」「NOと言う権利」「性感染症のリスク」の3つです。

ぼやかした言葉ではなく“はっきり”と伝える

 (講演する大石真那さん)「これから恋愛とか、セックスについてお話をしていきたいと思います」

 授業が始まってまず出たのは、このドキッとするワード。包括的性教育では、ごまかしたりぼやかしたりせずはっきり伝えることが大切だと言います。

 そして恋愛関係を「12」の段階に分け、イラストを使って講義を進めていきます。

 (講演する大石真那さん)「大切なポイントは3つあって、1つ目は1番(目視する)から12番(セックス)まで必ずしも順番に進むわけではないということ。そして2つ目、付き合っているからと言って、必ず12番(セックス)までしなければいけないこともない。3つ目がとても大切で、自分はここまでしたいと思っていても、相手はそうじゃないかもしれないから、きちんとお互いの気持ちを確認しあうことがとても大切です」

 “愛の12段階”をきっかけに人と付き合うとはどういうことなのかを知ってほしいと考えています。

 そしてもう1つ、包括的性教育で大切なことが、NOと言う権利。嫌だと言えることが自分を守るためにはとても大切になります。

 (講演する大石真那さん)「境界線、NOという権利、そして同意が日常生活においても大切ですし、(嫌と言われたとしても)嫌だというのはあなたのことを嫌いなわけではなくて、そのときその瞬間、提案されたことが受け入れられないだけ。なので、相手が嫌だと言ったときの気持ちを受け入れる練習をちょっとずつしていってほしいなと思います」

感染症の広がりやすさを知ってもらう実験

 最後に伝えるのは感染症のリスクについて。いかに気づかないうちに感染症が広がっていくのかを“水を使って”体験してもらいます。今回は河田アナが感染症にかかっていると仮定して、ペアでコップに入った水を交換して感染症がどう広がるか実験です。

 (講演する大石真那さん)「まず、どちらかのお水を相手のコップの中に全部入れてください」

 水を体液と見立てて、河田アナの水を別の生徒の水と合わせて、その後、半分ずつ戻します。これを繰り返すこと3人。感染症はどのように広がっていくのでしょうか。

 試薬を入れてみると…河田アナと直接水を交換していない生徒まで色が変わる結果に。感染症の広がりやすさがわかりました。

 講演に参加した生徒たちはどう思ったのでしょうか。

 (河田アナ)「1時間のお話を聞いてどんな印象を受けましたか?」
 (中学3年)「これから生きていく中ですごく大事なことなんだなって。なので学べて良かったと思っています」
 (中学3年)「考え方の変化であったり、新しいことをたくさん学べたので、1年に1回は講演会を受けたいです」

 (河田アナ)「学校でこういう形で性について教わるというのは正直どうですか?」
 (中学3年)「女子も周りにいるので恥ずかしいなというのはあるんですけど、学校の授業では教えてくれないことなので、しっかり聞いて知識を持っていかなければなと思いました」
 (中学3年)「私も母親とかと性の話をしたことがあまりないので、このような機会でいろいろなことが知れてよかったです」

「性交については一律に教えるものではない」はどめ規定

 ただ、こうした性教育について、大石さんは「受けられるかどうかは“運次第”」だと言います。

 (大石真那さん)「学校によって外部講師を呼ぶか呼ばないかも違ってきますし、外部講師として学校に行っても話せる内容が学校によって違う」

 その背景にあるのが、「はどめ規定」です。日本の教育課程では、小学5年の理科で、生命の誕生として受精の仕組みを学びます。しかし、学習指導要領には「人の受精に至る過程は取り扱わないものとする」と書かれています。

 また、思春期の身体の変化や妊娠について学ぶ中学1年の保健体育の学習指導要領には「妊娠の経過は取り扱わないものとする」と記載されています。つまり、受精や妊娠の前提となる性交については一律に教えるものではないというのです。これが、通称「はどめ規定」と呼ばれています。

 (大石真那さん)「はどめ規定があるからこそ先生も言いたいけど言えないところがあるので、(はどめ規定が)ないほうが子どもたちがきちんと知りたいと思ったときに知れる環境が整うんじゃないかと思います」

どう実施するのか悩み続ける教育現場

 この日、大石さんは南あわじ市を訪れました。南あわじ市の教育委員会や医師会などで作る団体から「包括的性教育」について講演をしてほしいと依頼を受けたのです。

 (講演をする大石さん)「自分の身体がどうなっていて、何をされたらおかしいことでどう対応したらいいのか、ぜひ小さい子どものころから伝えていきたい。」「性教育は年に1回、もしくは3年に1回聞いただけでとても身につくものではない」

 参加者からは、性教育の必要性はわかるが、どう実施していくのか、困惑する声も聞かれました。

 (質問する参加者)「まず何をしたらいいのでしょうか」
 (答える大石真那さん)「自分が性教育をどうとらえていたかなというのと向き合っていただくのが1つ。それから、“これからの性教育は人権をベースとしたもの”なんだというイメージを学校内で共有するだけでもだいぶ違うと思う」

 (質問する参加者)「市町村や教育委員会がどのような対応をすべきか教えてください」
 (答える大石真那さん)「(各学校の)凹凸をなくすために、市全体で包括的性教育をどう進めていくのか指針みたいなものが作れたらいい」

 (参加者 小学校の養護教諭)「実際学校現場で働いていても、もう少し踏み込んでやっていったほうがいいと思うときもあるし、なお一層やらないといけない領域だという考えになりました」
 (参加者 小学校の養護教諭)「各家庭の方針とか考え方もあると思うので、そういった面では、足並みをそろえて保護者の理解も得ながら進めることが必要。その点、進めるのは思い立ったらすぐにはできないし、計画的にしないといけないですね」

地域一丸で包括的性教育を進める

 大石さんは、すべての子どもたちが包括的性教育を受けられるためには、まず大人が変わる必要があると考えています。

 (大石真那さん)「人権をベースにして、自分と相手の心と体を守るとか同意のこととか、いろいろなことを含めたのが性教育なんだよという、性教育のとらえ方がまず大人の中で変わっていくといいのかなと思います」

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