『赤い悪魔』が増殖!生態系を壊すアメリカザリガニ駆除現場にカメラが密着...捕獲したザリガニは"特製フレーク"にして魚の餌に!?
MBSニュース / 2024年8月23日 13時22分
私たちの身近にいる“ヤバイ外来生物”に農家の人たちは頭を悩ませています。外来生物の脅威になすすべはないのでしょうか。
「うちの田んぼも食害された」稲の苗を食い荒らす“侵略者”ジャンボタニシ
奈良県大和郡山市。農業が盛んなのどかな地域に“ある危機”が迫っているといいます。
(農家 山田和彦さん)「ジャンボタニシを見ているんですよ。ここ最近増えてきましてね」
田んぼにいたのは、ゴルフボールほどの大きさをした丸い物体。触覚をくねらせ動いています。外来生物のジャンボタニシ(正式名称:スクミリンゴガイ)です。
南米が原産で、1980年代に食用のため台湾から輸入。一時は各地で養殖もされ、試食会が開かれるなど人気を博しました。しかし…
(山田和彦さん)「この辺が食べられたあとかなと思うんですけどね。ちょっとはげているところ。(手の)施しようがない」
大切に育てた稲の苗を食べるというのです。確かに、田んぼの一角がぽっかりと…。出荷に響くと嘆きます。さらに…
(山田和彦さん)「こういう苗の間にも卵を産んでいる」
(記者)「あのピンクのですね?」
毒々しいピンク色の卵。“PV2”という神経毒を持ち、素手で触れないといいます。
今年、ジャンボタニシは特に多いそうで、取材班が探してみると…
(記者)「いましたね、ここにも。ジャンボタニシいました」
(山田和彦さん)「『やられた』という感じやね。うちの田んぼも食害されたなと」
『農家の敵、害虫や』夏に急増する“赤い悪魔”アメリカザリガニ
ただ、この夏、猛威をふるう外来生物は、ほかにも。カメラを仕掛けたカゴを水中に沈めると、一瞬見えた赤い影。そう、その外来生物というのは、アメリカザリガニです。今、各地で怒りの声が上がっています。
【SNSの投稿内容より】
『田んぼの畔を破壊してくるから腹立ってしょうがない』
『農家の敵、害虫や』
夏の時期に急増するアメリカザリガニ。その繁殖力の強さで、生態系を壊すといいます。田んぼの畔に穴を開けるため、水漏れし、農業に被害を与えることも。去年6月には「条件付特定外来生物」に指定され、飼育したものを野外に逃がすなどした場合に、重い罰則(最大3年以下の懲役か300万円以下の罰金)が設けられました。しかし、今も各地で目撃が後を絶ちません。
近畿大学・農学部が立ち上がる「今のうちに対処しないと」
こうした脅威に立ち上がったのが近畿大学の農学部です。北川忠生教授のゼミでは、絶滅危惧種の調査・研究を行っていて、悪影響を及ぼす外来生物の駆除にもあたっています。
(近畿大学 北川忠生教授)「私たちは生態系にものすごく大きな恩恵やサービスを受けているんですけれども、私たちはそれがあるのが当たり前と思っているんですね。その生態系が(アメリカザリガニによって)崩れているということは、それらの恩恵に授かれなくなる。間接的に人間に大きな影響を及ぼしていくと思います」
今年6月、北川教授らは大和郡山市のため池に向かいました。 駆除の中心メンバーは農学部4年の宮部和樹さんと川畑涼さんです。
(北川忠生教授)「ここを拠点に広がっているのではないかと懸念もあります。トラップをしかけてとろうと思います」
(記者)「アメリカザリガニがいることでそんなに生態系は変わる?」
(宮部和樹さん)「水草から魚までなんでもかんでも食べるので、池の環境ががらりと変わってしまう」
(川畑涼さん)「今のうちに対処しないといけない」
自作のトラップで捕獲…1時間で約150匹!
使うのは自作のトラップ。一度入るとなかなか出られない仕組みです。
(川畑涼さん)「ザリガニは暗いところを好む生態なので、木の枝とかで影になっているので、ここだったら寄ってくるかなと」
そして、しばらく待つと…
(川畑涼さん)「いっぱい入ってます。大きいのがだいぶ。20くらいいるんじゃないですかね」
(記者)「これは仕掛けて何分?」
(宮部和樹さん)「1時間です」
次々と、アメリカザリガニがとれていきます。ハサミを見せて威嚇する様子も。わずか1時間で約150匹を捕獲しました。
(北川忠生教授)「おそろしいですよね。私たちが知っている親しみがあるようなそういうものを超えて危険なものとして認識するべきだと思いますね。“赤い悪魔”と呼んだ方がいいんじゃないでしょうか」
迷惑な“赤い悪魔”。実は絶滅危惧種の魚にも危機が及んでいます。
絶滅危惧種の繁殖に不可欠な二枚貝を狙うアメリカザリガニ
絶滅危惧種の魚「ニッポンバラタナゴ」。産卵では、メスが産卵管を二枚貝の隙間に差し込み、続けてオスが精子をかけます。貝がなければ繁殖できないのです。ところが…
(宮部和樹さん)「(貝が)死んじゃって殻が開いてしまって。(殻の)周りがギザギザになっている」
アメリカザリガニによって無残に食いつくされた貝。確実に生態系は崩れ始めていました。
そこで宮部さんたちは貝を守るため、細かい目の網で囲い、さらにその中にカゴを入れるという二重の対策で保全。生育状況を確認しています。カゴの中の貝を見ると…
(宮部和樹さん)「見た感じザリガニに削られたような感じはないです」
カゴにはザリガニはいません。ところが、網の中にザリガニがいました。
明らかに自分の体よりも細かい網目をすり抜け入ってきていました。
(宮部和樹さん)「あぁ入ってるんだなと思いました…」
(北川忠生教授)「なかなか対策が難しいですね…」
おそるべしアメリカザリガニ。池には、卵からふ化した赤ちゃんを抱えているものもいました。
駆除がゴールではない 捕獲したアメリカザリガニを魚の餌に!?
ただ、宮部さんは駆除がゴールだとは思っていません。
(宮部和樹さん)「これ(アメリカザリガニ)を悪者にしてしまうのは良くないことかなと思います。これも命なので、そこで捕獲して殺して終わりではなくて、捕獲して殺したあと、利用できるような段階につなげていけたらなと思っています」
そして7月、宮部さんたちは、ペットフードメーカー「キョーリンフード工業」を訪れました。駆除したザリガニを魚の餌にする取り組みを始めたのです。
(キョーリンフード工業 開発担当)「こんなにザリガニを触ることない。あんまりにおいはしないですね。いい意味で。くさくない」
まず、ザリガニをミキサーにかけます。次に、ザリガニペーストにつなぎを加え、薄く焼いていくと…
(北川忠生教授)「おいしそうなにおいがしてきた。えびせんみたいな」
特製“ザリガニフレーク”が完成しました。
さっそく、水槽内の魚に与えてみます。
(北川忠生教授)「食べた食べた」
(川畑涼さん)「食べますね。よかった」
“赤い悪魔”が、次の命につながった瞬間でした。
(川畑涼さん)「しっかり食べてくれたので本当によかったなと思います」
(宮部和樹さん)「今まで処分していたザリガニが、ほかの生き物の餌になって有効活用できるのはすごくいいことだなと思います。本当に大きな一歩だと感じています」
迷惑な外来生物とはいえ、同じ命。共存への模索が続けられています。
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