24歳ダウン症のアマチュア落語家『お迎えは4時』『どこの時計の?』ダウン症の特徴をエピソードに母娘で奮闘「ずっと死ぬまでしゃべり続けたい」
MBSニュース / 2024年9月12日 12時43分
ダウン症のアマチュア落語家・村上有香さん(24)。母親の喜美子さんとの間にあったユニークな会話を題材にした創作落語で高座に上がります。親子でつくる”創作落語”で伝えたい思いがありました。
8月、大阪で開かれた落語会。軽妙な語り口のベテランに混じり高座に上がったのは…「楽亭ゆかしー」こと、村上有香さん(24)。
「有香ちゃんは泳げるの?」
「はい」
「何メートル泳げるの?」
「0.0メートル!(得意げに)」
「ハハハ」
「小数点だって知ってるんです!」
「ダウン症のあるアマチュア落語家」として、去年デビューしました。
娘はダウン症とわかり母は…「思い描いていたことはできないと思い込んでしまった」
神戸市西区に住む有香さんは、父・啓吾さん、母・喜美子さんと3人で暮らしています。
母)「じゃがいももおいしいわ」
有香さん)「うん」
母)「有香ちゃんが切ってくれたらおいしいわ」
有香さん)「うん」
ひとり娘の有香さん。生まれてすぐダウン症と分かりました。
母)「えらいことになったなって。将来が想像もできなかったし、みんなに迷惑かけちゃうのかなとか思ってしまって。思い描いていたようなことはできないと思い込んでしまった」
ダウン症の子どもは一般的に発達がゆっくりだとされていますが、有香さんは2歳のころから言葉を話し始め、明るくおしゃべり好きに成長しました。
「おしゃべり好き」生かし、職場の高齢者施設でも活躍
人と接する仕事がしたくて、4年前からは神戸市内の高齢者施設で働いています。
利用者)「これはなに?」
有香さん)「ポシェット」
利用者)「いっぱい入れているの?」
有香さん)「四次元ポケット」
利用者)「なかなかユーモアあるよね、仕事もリズミカルやね」
有香さん)「私しゃべることが大好きなのでね。利用者さんにおしぼり配りながら話ししたり。楽しいです」
日課は落語の練習「ダウン症ってしゃべるのが難しい。私の場合はしゃべると発散できる」
夕方、仕事を終えて帰宅すると、落語の練習をするのが日課です。
練習する有香さん)「私が生まれる前の母の夢は壮大で、バイリンガルにする。生まれてから、目標を大幅に修正、日本語だけは話せるようにする」
有香さん)「ダウン症ってなかなかしゃべるのが難しい。私の場合はもししゃべれなかったら、ストレスは溜まります。でもしゃべると発散できるんですよ」
有香さんが落語に出合ったのはおととし、ダウン症の若者が集うお笑い教室でのことでした。独特の語り口調に魅せられて、すぐに挑戦するようになりました。
有香さんが扱うのは「古典落語」ではなく、母の喜美子さんが考えた「創作落語」。話のもとになっているのは、「幼いころからの有香さんとのエピソード」を書き留めた子育ての記録です。
お迎えは4時「どこの時計の?」ダウン症の特徴をエピソードに
母)「時計はどこの時計でも同じ時間なんやけど、『きょうのお迎えは?』(と有香さんが聞いて)お母さんが『4時』って言ったら、有香ちゃんが『どこの時計の?』って言った」
「時間の概念」が理解しにくいというのは、ダウン症の子どもに多い特徴だといいます。今はどう思ってるの?
有香さん)「今はどの時計も同じ時間やん、あはは!わかってるよ」
喜美子さんは、こうした会話を落語にすることで、笑いながらダウン症についての理解を深めてもらいたいと考えています。
母)「ダウン症の人の話を笑っちゃいけないんじゃないかとか、笑わないといけないんじゃないかとか、そういうことじゃなくて、私たちの感情と同じものをダウン症の子も持ってるっていうことを落語を通して、伝えていけたらなと」
セリフによって「声色を変える」のが苦手…どうする有香さん!?
7月中旬、有香さんは大阪にいました。落語の先生である笑い教育家・笑ってみ亭じゅげむさんに、新作落語の稽古をつけてもらいに来たのです。実は有香さん、1か月後に控えた落語会で、新作を披露しようと考えていました。
有香さん)「きょうのお迎えは?」「4時」「どこの時計の?」
保育園児のころ、時間の概念がよく分からなかったというエピソードも盛り込みました。
有香さん)「ありがとうございました」
先生)「すばらしい、勢いがいいですし、有香ちゃんにだからこそできる芸だなって」
一方で、課題も見つかりました。
母)「声だけ聞いてたら(セリフの)人が変わったことがわかりにくいので、私が言っていることと、自分(有香さん)が言っていることの差がもう少しつけばいいなと」
有香さんは演じ分けるために声色を変えるのが苦手でした。そこで…
先生)「(セリフの冒頭に)『お母さん』とつけてみてもいいかもしれないですね。語りかけてみてください」
呼びかけを入れることで誰の発言か伝わるように工夫します。実際にやってみると…
先生)「すごく良くなりました、そうしましょう」
母「金メダルやな」娘の大舞台終え抱き合う親子
そしていよいよ本番当日。衣装に身を包み、気持ちも高ぶってきました。
有香さん)「超アゲアゲでーす。(Q緊張は?)ないです、アゲアゲでいきましょう!」
母)「失敗しても笑おう」
出番を待つ舞台袖でも、先輩の落語に大ウケ。余裕です。
そして、いよいよ有香さんの番です。
「楽亭ゆかしーでございます。私は赤ちゃんの時から言葉の教室に通いました。おかげさまで、今、ペラペラです!日本語が!」
つかみはばっちりです。
「お母さん、きょうのお迎えは?」
「4時」
「どこの時計の?」
「え?保育園の時計も、家の時計も、時間はみんな同じなの」
「中学生の頃から学校で『自立』『自立』と言われてきました。自立は大嫌いです。だから、両親と一緒に三途の川を渡ると決めていました。」
「私を見かけたら『ゆかしー!』と手を振ってくださいね、本日はありがとうございました」
新作の落語を10分間、堂々とした高座でした。
母)「よかったね、金メダルやな」
有香さん)「みんなが幸せになれる落語をレパートリーを増やして、みんなが笑えるような落語をし続けたい。ずっと死ぬまでしゃべり続けたいです」
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