奈良の博物館がパンク状態!収蔵品が増えすぎて『整理のために休館』 同じ農具が180点あるが「1点1点に価値」と学芸員は指摘 資料を保存?廃棄?迫られる判断
MBSニュース / 2024年10月22日 12時8分
全国の博物館で収蔵スペースが足りていません。中でも、奈良にある県立民俗博物館では、収蔵品が増えすぎてしまい、整理のために7月から休館する事態となっています。歴史をたどる手がかりとなる資料を廃棄するか保存するか…線引きが難しいところ。判断を迫られる博物館を取材しました。
収蔵庫が“パンク状態”で休館中の奈良県立民俗博物館
奈良県大和郡山市にある県立民俗博物館。農作業に使っていた道具やはた織り機など、主に大正から昭和にかけての民俗資料が展示されています。収蔵庫に案内してもらうと、さらに多くの資料が収められていました。
(奈良県立民俗博物館 高橋史弥学芸員)「こちらが薬箱でございます。『大和の薬売り』というのが奈良県では有名ですが、箱の中に昔の生薬が入っています」
「犂(からすき)」と呼ばれる、牛にひかせて田畑を耕す道具もありました。特に奈良県では盛んに使われていたといいます。ここでは犂だけで約180点を集めています。
(高橋史弥学芸員)「複数点集めて、それがどこで収集されたのかという情報も加えることで、1点1点に価値が出てくる。そして、複数点集めることによって地域の中での農業の全体像がわかってくるので重要です」
奈良の先人たちの暮らしぶりがわかる博物館は、子どもたちの校外学習などで利用されてきましたが、今年7月から休館しています。その理由は、博物館の収蔵庫が“パンク状態”になっているためです。
資料の数はオープン時の6倍 中には虫食いがついたものも
この博物館では、高度経済成長期の生活様式の急速な変化で伝統的な生活用具が消えていく危機感から、収集に力を入れました。その結果、50年前のオープン時には約7000点だった資料が、今は約4万5000点と6倍に増加しました。
入りきらないものは博物館の外にあるプレハブ倉庫や廃校となった学校の校舎などに仮置きしていますが、空調設備も不十分で、決して保存状態が良いとは言えません。
(高橋史弥学芸員)「(Q資料の虫食いはもらったときから?)もらった時からついていたものなのか、収蔵してからついたものなのかは、まだわかっていません。これから整理していく中で、いつついたものなのか把握しようと思っています」
今の館長や学芸員が赴任した3年前から資料の整理に乗り出しましたが、中には「どこで何に使われていたのか」など、由来がわからないものも多数あることから、一度休館し整理作業に専念することになったのです。
奈良県が打ち出した対策“奈良モデル”とは?
こうした状況を受け、奈良県の山下真知事も対応に乗り出しました。
(山下真知事 7月10日)「どういうものは残してどういうものは残さないのか、明確なルールを決めた上で、価値のあるものだけ残して、それ以外のものは廃棄処分も含めて検討せざるを得ないかなと」
7月30日には「民俗資料の収集・保存」の“奈良モデル”を策定する方針を示した山下知事。奈良モデルでは、すべての収蔵品を3D画像などでデータ化して保存します。そのうえで不要なものは市町村や民間の譲渡先を探し、引き取り手が見つからないものは廃棄するとしています。また、収蔵庫の新設については8億円以上かかるため「政策判断として、ない」と説明しました。
保管場所の不足は、全国の博物館で深刻化しています。日本博物館協会の5年前の調査では、全国の約2300の博物館のうち、「収蔵庫が9割以上埋まっている」、または「収蔵庫に入りきらない資料がある」と回答した施設は計約6割にのぼっています。
いずれは多くの博物館で収蔵品を手放したり廃棄したりすることが避けられない状況に、今年7月、民俗資料の研究者でつくる日本民具学会は懸念を表明しました。
【日本民具学会HPより】
『身近な暮らしの道具である民具は、文字記録に残されることの少ない民衆の生活史を雄弁に物語る、他に類を見ない貴重な資料群です。民具を軽視することは、過去から未来へと続く自らの歴史そのものをないがしろにすることと同義であります』
保管ルールを決めた博物館「どういう資料を残すか明確化しないと前進しない」
こうした中、全国に先駆けてすでにルールに則った収蔵品の管理をしている施設があります。栃木県宇都宮市にある県立博物館です。
(栃木県立博物館 篠崎茂雄学芸部長)「とにかくこの部屋全体に資料が置いてあって、歩くスペースもないぐらいたくさん資料がありました」
保管場所の不足が深刻化したことから、2016年にルールを整備。定期的に収蔵品を見直し、価値が失われたものや活用しにくいものは、博物館の資料から外して譲渡や廃棄する除籍処分ができるようにしました。
(篠崎茂雄学芸部長)「博物館全体の職員が協議して、あるいは専門の研究者の意見を聞いた上で、除籍が相当だと判断された場合に除籍する。逆に言うと、除籍のルールはあるけれども簡単に除籍できない」
除籍に踏み込んだ内容のため、当初は批判もあったといいますが、これまでに除籍した資料は10点以下。逆に資料の価値をはっきり示せるようになったことから、2021年には17億円かけて新たな収蔵庫を開設することができました。
(篠崎茂雄学芸部長)「博物館は展示するだけではなく地域の資料を永久に保存する施設。地域の人みんなが何を残していくか考えることも大切かなと。どういう資料を残していくのか明確に定めておかないと前進しないと思います」
人口減少で税収減 専門家は“国の介入”必要性を訴え
文化政策を研究する同志社大学の太下義之教授は、人口減少で税収が減る中、公立の博物館がすべての資料を維持するのは難しいとしたうえで、資料が散り散りにならないよう、国が介入するべきだと話します。
(同志社大学 太下義之教授)「民俗資料に関しては、将来何が価値を持つかなんてわからない。ミュージアム(博物館)が持続できないという懸念も含めて、資料を受け入れる受け皿となるような機構を国がつくることも人口減少時代には考えないといけないのではないかなと」
9月中旬、資料の整理を進めている奈良の民俗博物館では、奈良大学の学生も作業に参加していました。
(奈良大学の学生)「資料ひとつひとつにちゃんと歴史があるものなので、民族資料保存の問題を解決していくために今勉強していて、私たちが何かできるといいなと思っています」
暮らしの移り変わりを映し出す民俗資料。次の世代にどう残すのか、慎重な対応が求められます。
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