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【103万円の壁】引き上げで実は会社員などにもメリット...国民民主党案では年収が低い人の方が減税の割合が高い!? 政府試算『税収約7兆6000億円減少』をどう見る?

MBSニュース / 2024年11月2日 11時51分

 衆院選で過半数割れとなった与党に対し、4倍増の28議席獲得と大躍進を見せた国民民主党。「手取りを増やす」政策を訴え、なかでも年収「103万円の壁」を178万円に引き上げる案に強い意欲を見せています。 アルバイトの学生やパート従業員の人にとって馴染のある、この「103万円の壁」。そもそも、どういった仕組みなのか。「壁」が引き上げられた場合、どんなメリットがあるのでしょうか?そして、本当に国民民主党の訴えは現実となるのでしょうか?ジャーナリストの武田一顕氏の意見を交えながら情報をまとめました。

働きたいけれど働けない…そもそも「103万円の壁」とは?

 「103万円の壁」とは、所得税が課税される“ボーダーライン”のことです。年収が、基礎控除の48万円と給与所得控除の55万円の合計103万円を超えると、超えた分に所得税が課税されます。

▼年収103万円以下:所得税が課税されない
▼年収103万円超え:超えた金額に所得税が課税

 さらに、誰か(親など)の扶養親族である場合、年収が103万円を超えると税制上の扶養から外れます。扶養控除に影響するため、アルバイトの学生や週2~3回パートタイムで働く人たちは、103万円を超えないように勤務を調整することがあります。「103万円を超えると親の手取りが減るから、『超えないで』と親から言われている」という学生もいるでしょう。また、12月になると103万円を超えないよう調整するアルバイト・パート従業員が増えるため、「シフトが埋まらない」と頭を悩ませている店舗もあるでしょう。現状では、店側は「年末は人手がほしい」、学生側は「働きたいけれど、働けない」という状態になっています。

「壁」崩壊は会社員・自営業にもメリットが!

 この「103万円の壁」が引き上げられた場合、影響を受けるのはアルバイト・パート従業員だけではありません。普段この「壁」を意識していない給与所得者(会社員など)も、基礎控除・給与所得控除が増えるため、納める税金が減ることになります。

 例えば年収400万円の場合、現在は「400万円-103万円」が所得税の対象となりますが、仮にこの「103万円」が引き上げられると、所得税の対象金額が減るため、支払う税金も減ることになります。給料制でない自営業者の場合、給与所得控除は関係ありませんが、基礎控除が増えるため、支払う税金が減ることになります。

 この「103万円の壁」を「178万円」に引き上げようと提案しているのが国民民主党。玉木雄一郎代表は「103万円の壁を引き上げて、もっと働けるように、もっと稼げるようにしたい」と主張しています。国民民主党の党本部によりますと、控除の内訳は未定で(11月1日時点)、今後議論を重ねていくということです。

 では、この「178万円」はどこから捻出された数字なのでしょうか。「103万円の壁」ができたのは1995年でした。当時の日本の最低賃金は全国平均で611円。そこから約30年経ち、現在の最低賃金は「1.73倍」の1055円となっています。一方で「壁」は103万円のまま変わっていません。

 例えば、時給制のアルバイトとして働いた場合、同じ時間働いたとしても、30年前より今の方が多く稼げることになります。ただ、「壁」が103万円のままなので、「働きたいのに、働けない」「働く時間を短くするしかない」状態になっています。そこで、最低賃金が「1.73倍」になった分、「壁」である103万円も「1.73倍」にして、「103万円×1.73=178万円」にしようと国民民主党が主張しています。

玉木代表“国に入りすぎたお金を返す”どれくらい減税される?

 では、「103万円の壁」が178万円に上がった場合、いくら減税されるのでしょうか。玉木代表のSNS投稿によりますと、減税額は次の通りです。

 ▼年収 200万円:減税額 8.6万円
 ▼年収 300万円:減税額11.3万円
 ▼年収 500万円:減税額13.2万円
 ▼年収 600万円:減税額15.2万円
 ▼年収 800万円:減税額22.8万円
 ▼年収1000万円:減税額22.8万円

 年収(給与所得)が高い人ほど減税額が多いため、SNSなどでは“金持ち優遇制度”だという意見もあがっています。一方、年収に対する減税額の割合では、年収が低い方が割合は高くなるという見方ができます。

 ▼年収 200万円:減税額 8.6万円→年収の4.3%
 ▼年収 300万円:減税額11.3万円→年収の3.8%
 ▼年収 500万円:減税額13.2万円→年収の2.6%
 ▼年収 600万円:減税額15.2万円→年収の2.5%
 ▼年収 800万円:減税額22.8万円→年収の2.9%
 ▼年収1000万円:減税額22.8万円→年収の2.3%

 一方、国の税収はどうなるのでしょうか。政府の試算によりますと、国民民主党案の通りに「103万円の壁」を178万円に引き上げた場合、減少する税収は約7兆6000億円にのぼるということです。この試算について、ジャーナリストの武田一顕さんは「こんな額にはならない。政府としては税収が減ることになるため、玉木代表の言っていることはだめだと言いたい。そのため、試算の額を大きく言うわけです」とコメント。

 この税収減について、玉木代表は、物価高であることやパート従業員らがさらに働くことができれば経済が活性化することから「税収は増えていくので大丈夫」「現在、税収が大幅に増えている。国に入りすぎたお金を返すという考え方」としていて、「税収の増え方」と「国民の年収の増え方」がつり合っておらず、国が儲けすぎていると考えているようです。

過半数割れの与党…国民民主党の言い分を本当に飲むのか

 はたして「103万円の壁」は壊れるのでしょうか。玉木代表は「(引き上げを)全くやらないということであれば、当然われわれは協力できませんから。そのときは(与党は)過半数に届いていないわけですから、予算も通らない、法律も通らないということ」と発言し、非常に強気の姿勢を見せています。

 11月11日には特別国会が召集される見込みで、総理指名選挙が行われる予定です。国民民主党は、そこで玉木代表の名前を書こうと一致団結しています。さらにそれ以降は、臨時国会で補正予算の審議、来年1月には通常国会で来年度予算が審議される予定で、法案を通すためにも、与党としては国民民主党の協力が必要不可欠になってきます。

 ただ、国民民主党は野党です。与党の出した案に野党が賛成することはあるのでしょうか。実は、2022年、「トリガー条項」凍結解除を目指す国民民主党は、野党でありながら予算案に賛成。しかし、トリガー条項の凍結解除は先送りされました。このトリガー条項とは、ガソリン価格が高騰したときにストップさせる特例税率の仕組みで、民主党政権下で導入されたものの、今まで一度も発動されたことはありません。東日本大震災の復興財源確保のため凍結されていますが、ガソリン価格が高騰してきたら、凍結を解除しようと国民民主党は呼びかけています。

 「103万円の壁」の引き上げを訴える国民民主党の政策に自民党が協力するとなった場合、本当に自民党はそれを実現させるのでしょうか。武田一顕さんは「自民党は国民民主党の言い分をある程度飲むしかない状況だが…」と前置きしつつ、「問題は、時期と額」だと指摘。さらに「『103万円の壁』を178万円に引き上げたいと玉木代表は主張していますが、自民党としてはできるだけ『額』を下げたい。自民党はたぶん初めのうちは、110万円とか115万円ぐらいで納得して、その後にまた協議しましょうなどと言いながら、玉木代表を少しずつ取り込み、国民民主党を“溶かしていく”方向にもっていきたいのでは」と話します。「税収が約7兆6000億円減る」という政府の試算についても疑いの目を持つ必要があるのかもしれません。

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