1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

「ゴールはがんの完全治療」ノーベル賞受賞・本庶佑さんの悲願『がん免疫治療研究』の新拠点...最後の大仕事への思い「天井が見えるかもわからない、サイエンスとはそういうもの」

MBSニュース / 2024年11月13日 12時42分

 がん治療において手術・放射線・抗がん剤に次いで進化が期待されている『がん免疫治療』。その専門の研究施設「がん免疫総合研究センター」が完成しました。がん免疫治療薬の開発で2018年にノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑さん(82)がセンター長を務めます。そんな本庶さんが“最後の大仕事”として研究センターにかける思いや、がん免疫治療について取材しました。

研究センター完成 目標は「2050年までにほぼ全てのがんを制御」

 京都大学に完成したがん免疫総合研究センター。11月12日に行われた開所式には本庶佑さん(82)も出席しました。公の場に出るのは2年9か月ぶりです。

 センターの目標は「2050年までにほとんど全てのがんを制御できる」こと。免疫研究の世界拠点を目指し、国内外から若い研究者が集まっています。記者会見に臨んだ本庶さんは…

 (がん免疫総合研究センター 本庶佑センター長)「本日は、建築の開始から3年の歳月を経てようやく完成しました、CCII・がん免疫総合研究センターの開所式を迎えられましたことは、まさに感無量でございます」

話題になった言葉「教科書に書いてあることを信じない」

 3か月前の今年8月、大学内にある本庶さんの研究室は、新しい施設への引っ越しを前に、大量の資料や書籍の整理で大忙しでした。

 本庶さんはがん治療に革命をもたらした発見で2018年、ノーベル医学生理学賞を受賞しました。受賞が決まった直後の会見では研究者の矜持ともいえる「教科書を疑え」という言葉が話題になりました。

 (本庶佑さん ※2018年)「研究者において一番重要なのは、『何か知りたい』『不思議だな』と思う心を大切にすること。教科書に書いてあることを信じない。常に疑いをもって『本当はどうなっているんだろう』という心を大切にする」

がん治療に革命 “免疫を使ってがん細胞を攻撃”

 本庶さんの研究グループは、免疫細胞に「PD-1」というブレーキ機能があることを発見。このブレーキを外す薬「オプジーボ」を開発しました。

 免疫を使ってがん細胞を攻撃する研究は、100年以上前から注目されながらも成功した例がなく「がん治療に革命をもたらした」と称賛されました。

 (本庶佑さん ※2015年取材)「この薬はどのがん種にも効く。(がん治療が)根本的に変わると臨床の医師たちは感じています」

 本庶さんの研究室には32年前、ノーベル賞受賞につながった「PD-1」発見を記録したノートが残っています。この発見を機に世界中で がん免疫治療薬の開発が進み、今ではがん治療に欠かせない薬となりました。

 その一方で…

 (本庶佑さん ※2020年)「特許の使用料について、非常に大きな問題が存在して、残念ながら誠意ある回答を得られず、やむなく訴訟を決意するに至った」

 2020年、薬の開発を共に進めてきた大阪の製薬会社を提訴。特許使用料の割合をめぐり「企業は研究者に対し充分な対価を支払うべきだ」と、220億円あまりの賠償を求めたのです。

衰退する基礎研究への「支援」と「理解」を促したい 裁判への思い

 本庶さんが裁判という手段に打って出た理由、それは衰退し続ける日本の基礎研究への支援と理解を促したい思いからでした。

 (本庶佑さん ※2021年取材)「(免疫治療薬のような)アカデミアの発明は、何十年に1回しか起こらないんですよ。そういうときにアカデミア(大学や研究機関)が正当なリターンをもらえないと。がんばって良いことがあったらそれなりのリターンがあると。(リターンは)個人的にも一部あるかもしれないが、もっと大きなところに、アカデミア全体に。そういう環境を作っておかないと、日本の科学は以前のように国のサポートがある時代ではないですから、(アカデミアも)自立していかなくてはならない」

 裁判は双方の主張が対立。本人尋問も行われ、本庶さんも法廷に立ちました。結果、製薬会社側が京都大学に研究を支援する基金を設立し、約230億円を寄付することで和解が成立しました。

 (小野薬品工業 相良暁社長 ※当時)「京都大学の志の高い若い研究者の皆さんが精いっぱい研究できる環境が整えられる。我が国の産学連携の新しい形を示すことができた」

交通事故で頸椎を損傷するも、研究への熱は冷めない

 裁判と同時に本庶さんが準備を進めていたのが、がん免疫総合研究センターの設立です。

 がん免疫治療では薬を投与されても効く人が20%~30%と言われていて、薬の効果を高めるための研究を国内外の施設と共に進めるセンターを設立するのが本庶さんの悲願でした。

 ところが2022年2月、本庶さんが運転する車がバスと衝突。この事故で本庶さんは頸椎を損傷します。

 長い入院生活のあとリハビリを続けながらリモートで会議をこなし、センターは今年春に完成しました。

 今年8月、引っ越しを直前に控えた研究室で話を聞きました。事故で左側の手足が動かしにくい状態です。

 (本庶佑さん)「(Q以前より動かしにくいもどかしさは?)それはもう…何というか諦める。しょうがない。だけど前より良くなってきている」

 体調に気をつけながら今もリハビリを続けています。研究への熱は全く冷めていません。

 (本庶佑さん)「(研究の)ゴールから見たらまだ下。ゴールが、どこが天井か、見えるかどうかもわからない。サイエンスとはそういうものですよ。物理学のように、例えば『核融合』のようなゴールがある。そこにいかにして到達するかという。(がん免疫研究の)ゴールといえば“完全治療”。それが可能かどうかはまだわからない。やってみないと…」

 前より表情が柔和になった印象を受ける本庶さん。自ら法廷にも立った裁判については意外なことも口にしました。

 (本庶佑さん)「今から考えると、裁判を起こさないようにうまくやればよかったという反省はあります。けんか別れではなく、もう少しいい形で、早い段階でいい握手をしていれば(裁判に)これだけのエネルギーを使わなくてもよかった」

がん免疫治療薬で『みんな治る』のがゴール

 新しい研究室への引っ越し作業が佳境を迎えた8月、半世紀にわたって記録した研究ノートや資料も新たな場所に移ります。

 がん治療に革命をもたらしたと称された免疫治療薬の発見。結果をすぐに求める社会の風潮や若き研究者たちに釘をさすと共に、エールを送ります。

 (本庶佑さん)「(若い研究者が)小さな会社を起こして独立するよりも、大きな発見があれば特許で十分なリターンがあるわけですよ。(Qご自身の研究には?)全然満足できない。がん免疫治療薬が初めて効いたとかそういう話ではなくて、本当にみんながこれで治るというのがゴールといえばゴール。100%(治ると)ね。それはなかなか難しい。簡単にはいかない」

 50年以上の研究生活を経ても、医学の世界は未知という本庶さん。「がんを治す」難しいゴールに向かって、最後の大仕事にこれからも取り組みます。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください