「すごく寂しい人生...彼を受け入れる社会があったのか」26人死亡の放火事件で兄亡くした妹が容疑者に思うこと たどり着いた答えは加害者への寄り添い「やり直そうとしている人がいると伝えたい」
MBSニュース / 2024年12月17日 18時4分
大阪・北新地のビルに入る心療内科クリニックが放火され、患者やスタッフら26人が死亡した事件から12月17日で3年となりました。事件を起こしたとされる谷本盛雄容疑者(当時61)はクリニックの元患者で、自らも一酸化炭素中毒で死亡。事件の動機など真相は明らかになっていません。 この事件で亡くなったクリニックの院長・西澤弘太郎さん(当時49)の妹の伸子さんは現在、クリニックに通っていた元患者の支援を行っています。さらに、この1年で『加害者に寄り添うこと』にも力を入れるようになったといいます。その理由とは何なのか、取材しました。
兄・弘太郎さんはいつも気遣ってくれる優しいお兄ちゃん
伸子さん(47)は、大阪府内で夫と息子2人の4人で暮らしています。主婦業の合間に、保護者会の活動や地域の交流イベントなどに参加し、忙しい日々を送っています。
(伸子さん)「主人がね、毎日弁当なんですよ」
(記者)「愛妻弁当ですね」
(伸子さん)「愛妻かどうかは知りませんけど…(笑)」
医師と歯科医の両親の間に生まれた伸子さんと、兄・弘太郎さん。学生時代には、朝まで一緒に勉強をするなど、伸子さんのことをいつも気遣ってくれる優しいお兄ちゃんでした。卒業後、弘太郎さんは父と同じ内科の医師に、伸子さんは母と同じ歯科医になりました。
伸子さんが結婚・出産を機に仕事をやめたころ、弘太郎さんは大阪・松原市の実家で「心療内科」を開業しました。心の病が原因で体調不良を訴える患者が多かったからです。その後、北新地にも「こころのクリニック」を開業し、2つの施設で計800人以上の患者と向き合っていたといいます。
「すごく寂しい人生」孤立深めていた容疑者に思うことは…
事件があったのは金曜日の午前。北新地のクリニックには大勢の患者がいました。火をつけたとされる元患者の谷本容疑者。スマートフォンには交友関係を示す連絡先はなく、銀行口座の残高もなかったといいます。生活が困窮し、社会から孤立を深める中、自暴自棄になり他人を巻き添えに“拡大自殺”を図ったとみられています。
(伸子さん)「人間って本当に人と関わっていかないといけないものだと思うんですよね。谷本容疑者もほとんど学校の先生が覚えてないとか、存在はなかったとか、そういう人だったとお聞きして。すごく寂しい人生を、誰にも『自分はこう思ってる』すら言ってないような気がするんですよね。『それは間違ってるで』とかいう人がいてたっておかしくない」
「京都アニメーション放火殺人事件」青葉被告の裁判の傍聴へ
谷本容疑者には、犯行の参考にしたとされる事件がありました。北新地の事件の2年前に起きた京都アニメーション放火殺人事件。社員36人が死亡、32人が重軽傷を負いました。
去年9月、裁判が始まり、現場にガソリンをまいて火をつけた青葉真司被告(46)が法廷で語り始めていました。
多くの人が巻き込まれた、その真相に迫ることで、これまで直視できていなかった遺族としての感情に向き合う必要があるという思いから、伸子さんは青葉被告の裁判の傍聴に訪れました。
(青葉被告)「たくさんの人がなくなるとは思っていなかった」
軽率な気持ちで犯行に及んだ青葉被告。この日の裁判では、初めて遺族が被告に質問を投げかけました。自分の愛する家族がなぜ殺されなければならなかったのか。遺族らは、被告の言葉に答えを探しました。
「加害者への寄り添いが新たな犯罪を防ぐ近道」と考えるように
傍聴を終えた伸子さんは…
(伸子さん)「奥さまを亡くされた方がいくつか質問されてたんですけど、最後に『火をつけるときに、その方に家族がいるとか子どもがいるとか考えなかったんですか』という質問をなさって。『考えてなかったです』とおっしゃってたんですけど。そのときに北新地の事件で、皆さんに家族がいて、本当に皆さんのつらさとかが一気に感じた気がして、聞いててつらかったですね」
無差別に多くの人が殺害された2つの事件。谷本容疑者と青葉被告には共通点がありました。それは別の事件で服役していた過去があり、孤独だったとされること。一度過ちを犯した加害者に寄り添い、手を差し伸べることが、新たな犯罪を防ぐ近道かもしれない。伸子さんはそう考えるようになりました。
「これからどうするかが大事」伸子さんの言葉に背中を押された元受刑者
奈良県にある元受刑者や依存症の人を支援する施設。伸子さんは、ここに2週間に1度足を運び、利用者の相談にのっています。施設を利用する32歳の男性。ギャンブルに依存した結果、金に困り、いわゆる「闇バイト」に手を染め逮捕されました。
取材した日は男性と3回目の面談。趣味のマラソンのことや、最近の悩みなど約1時間、話をしました。
(伸子さん)「今、悩んでいることもない?」
(施設を利用する男性)「睡眠の質のことくらいですかね。熟睡がずっと前からできなくて。眠りが浅くて」
男性は、出所してもしばらくの間、罪を犯してしまった罪悪感から前を向けない時期があったといいます。そんな時に背中を押したのが、伸子さんから言われた「過去は変えられないが、これからどうするかが大事じゃないか」という言葉でした。
(施設を利用する男性)「悩みごとができたら相談できる人は今後の僕にとっては大事なのかなと。これまであんまり相談ということをやってこなかった。(伸子さんは)常に前を向いていらっしゃるなと。そのアグレッシブさを感じると、僕も元気になるというか、頑張らないとと思う。刺激を受けています」
男性は今年8月、社会復帰に向けて一歩を踏み出しました。施設からの紹介を受け、奈良県内のラーメン店で働いています。正社員になって社会に貢献していくことがこれからの目標だといいます。
「頑張ってやり直そうと思っている人がいることを伝えたい」
伸子さんは元受刑者と関わる中で、兄の事件を起こした谷本容疑者について考えていました。
(伸子さん)「社会とか良い人に出会えるか出会えないかって、すごく大きいと思うんですよね。加害者(谷本容疑者)が出てきたときに、それを受け入れる社会があったのかなって。私も以前は全く関わってもなかったし、考えたこともなかったけれど、頑張ってやり直そうと思っている人がいると知った。そういう世界がある、そういう人たちがいるということを私は伝えていきたい」
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