「売春は怖いっちゃ怖いけど...」違法と知りつつ"立ちんぼ"やめないのはなぜ?客待ちする29歳女性に聞くと「交渉成立すれば別にいい。もっと悪いやつを捕まえればいいのに」 大阪・キタ
MBSニュース / 2024年12月19日 11時17分
大阪・北区のホテル街「兎我野町」では、売春の客待ちをする“立ちんぼ”が後を絶たない。なぜ、違法と知りながら立ち続けるのか…“立ちんぼ”をする女性に話を聞いた。また、人間の心理に働きかける路上売春対策とその効果を取材した。
日本有数の繁華街、梅田。JR大阪駅から東へ約700mにあるのが兎我野町エリアだ。この周辺には複数のラブホテルや飲食店が立ち並んでいる。
午後10時。通りには10人ほどの女性が立っていた。皆スマートフォンを片手に誰かを待っているようだ。しばらくすると…
(記者リポート)「男性が路上に立っている女性に声をかけました。2人は何かを話し込んでいる様子です」
路上に立つ若い女性にサラリーマン風の中年男性が話しかけている。そして、2人は夜の街へと消えて行った。
地元住民たちも苦慮「異様だなって思ってしまう」
このエリアは路上で売春の客待ちをするいわゆる「立ちんぼ」が多く集まる場所として以前から知られているが、コロナ禍後は10代や20代の若い女性が急増しているという。
地元住民らは定期的にパトロールを行ったり、対策会議を開いたりするなど長年にわたって街の環境改善に頭を悩ませている。
(地元住民)「変な雰囲気というか普通じゃない。異様だなって思ってしまうので、いい場所だな、訪れたいというものではないと思います」
(地元住民)「地域の方々も大きな問題として家族でも話し合っているし、子育て中の親御さんも『あの道は通ったらあかんよ』って」
警察も取り締まりを強化している。今年10月には一斉摘発を行い、20代から30代の女5人を売春防止法違反の疑いで逮捕した。警察によると、この一帯で1年間で30人が客待ちの疑いで逮捕されている。
しかし、摘発を受けても客待ちの女性は路上から一向にいなくならない。
“立ちんぼ”する女性「生活費を稼ぐため」
彼女たちはなぜ、違法行為に手を染めるのか。一人の女性が取材に応じた。
(記者)「いつから立っている?」
(女性)「だいたい4、5か月前くらいからですかね。やっぱり生活のため、生活の足しのため。自分の家賃とか食費とかそっちに回している」
女性は29歳。仕事が見つからず生活に困り売春をしていると話す。
(記者)「結構稼げるんですか?」
(女性)「1日多くて6~7万円くらい」
(記者)「毎日?」
(女性)「毎日。売春は怖いっちゃ怖いけど、今のところは大丈夫なんで。最初のときは怖かったけど」
売春は法律で禁じられている。「犯罪」という認識はないのだろうか。
(記者)「犯罪ということはわかっている?」
(女性)「わかってるけど、交渉成立すれば別にいいじゃないですか。(警察は)もっと悪いやつを捕まえればいいのに、こういう子たちを捕まえるのはよくわからない」
女性は「生活費を稼ぐため」と客待ちをしに戻っていった。一方で警察によると、売春で稼いだ金を「ホストクラブなどの遊興費に充てている」と話す女性も多いという。
心理学を用いた“客待ちしにくい路地”とは?
取り締まりをしても一向に無くならない“立ちんぼ”。大阪府警と警察庁の心理学のスペシャリストらがタッグを組み、新たな対策を打ち出した。
(科警研・犯罪予防研究室 島田貴仁室長)「今回行う介入の基本的な考え方は、環境デザインによる犯罪予防」
対策では路面を黄色く塗ったり絵を貼ったりして、客待ちをしにくくさせるという。一見、大きな変化ではないように感じるが、行動経済学の「ナッジ理論」に裏付けされた対策だ。
ナッジ理論とは、行動を強制するのではなく無意識のうちにその行動を取るよう、背中をそっと後押しする行動理論のことだ。例えば、コンビニのレジの近くなどに足跡のマークを描いておくと自然とその場所に列ができる。また、男子トイレの便器に的を描いておくことで、床の汚れが軽減される。
兎我野町の対策でもナッジ理論を活用。路面を派手な黄色にするのはその場に留まりにくい雰囲気を作り出す狙いがある。また、路面には魚を描いた複数の絵も貼られる。人間の追いかけたくなる心理を利用し、魚の絵をたどっていくうちに自然と路地から出ていく効果が期待できるという。
(科警研 島田貴仁室長)「場所へ介入することで問題が改善できる可能性があります。客待ちだとか交渉だとか、連れ出しを困難にさせることができる」
再発防止のために行政機関につなげる取り組みも
また、警察はこの場所からの排除だけでなく再犯を防ぐ対策にも力を入れる。
(大阪府警曾根崎署 北川龍生活安全課長)「(逮捕した女性の)申し出があれば全国の女性相談センターにつなぐ、一歩踏み込んだ対応というのも、曽根崎署ではやっていきます」
兎我野町を管轄とする曽根崎署は逮捕した女性が釈放された後、希望があれば警察の車で生活支援を行う行政機関まで送り届ける取り組みを始めた。
路上に立つ女性は減少…しかし話を聞くと
そして、12月。通りが100mにわたり黄色く塗られた。そして、ナッジ理論に基づいてデザインされた10枚の魚の絵が通りの入り口から出口まで誘導するような形で貼られた。建物に囲まれていて昼間でも薄暗かった路地が明るい雰囲気へと生まれ変わった。
(科警研 島田貴仁室長)「この取り組みが、路上客待ちの問題が大都市どこも今起きている中で、少しでも問題解決につながってほしいと思っています」
翌日の夜、再び通りを訪れてみると、路上に立っている女性は数人みられたが、確実に数は減っていた。ただ、女性たちに話を聞いてみると…
(女性)「(路地が)明るくはなったね。反射するから黄色が。(女の子たちは)天王寺とミナミに流れたらしいね、メインが」
(記者)「やめることはない?」
(女性)「やめることはないね、みんな」
大阪の繁華街から消えない“立ちんぼ”。問題解決に向け試行錯誤が続く。
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