【なぜ恫喝的な取り調べに?】検事が「うそだろ、ふざけるな!」「検察なめんな」机叩く行為も... 元検事は「特捜部のチーム捜査と縦社会」を指摘 プレサンス元社長めぐる冤罪事件
MBSニュース / 2024年12月24日 13時50分
「何言ってるんだ!」「検察なめんなよ!」これは5年前、学校法人の土地取引をめぐる横領事件での取り調べで検事から発せられた言葉です。公開された取り調べ映像は、“恫喝”とも言えるようなものでした。 なぜ取り調べは“恫喝的”なものになったのか?そもそもどんな事件だったのかも含めて、元検事への取材などをもとにまとめました。
無罪の元社長はなぜ逮捕・起訴された?事件の経緯
大阪の不動産会社・プレサンスコーポレーションの山岸忍元社長(61)は、2019年、横領事件で大阪地検特捜部に逮捕・起訴されました。248日間、身柄が拘束されましたが、その後、無罪に。この際の取り調べをめぐって違法な捜査があったとして、山岸元社長は2022年に国に賠償を求めて提訴しました。
そもそもなぜ、逮捕・起訴されることになったのか。背景には複雑な構図があります。
発端は、大阪の学校法人の土地7300平方メートルを不動産会社プレサンスに31億円で売却する、という取引です。間には不動産仲介業者が1社入っていました。この取引では、プレサンスから学校法人にまず21億円が支払われました。
一見すると通常の土地取引です。しかし、学校法人の当時の理事長と仲介業者の代表、山岸元社長の元部下の3者が共謀していたのではないか、として後に有罪となります。
実は、学校法人に支払われた21億円を、学校法人の当時の理事長が“個人のお金”として使っていたのです。その一部は仲介業者の代表や山岸元社長の元部下にも渡っていたとも言われています。
理事長は18億円の借金をして、お金の力で学校法人での実権を握り、理事長になったとみられています。その借金を返すために、土地の売却で得たお金が利用された、ということです。
そして、その18億円を理事長に貸したのが、プレサンスの山岸元社長でした。
検察のヨミは『山岸元社長も共犯では』
検察はこうしたお金の流れから、理事長が“学校の土地を売ったお金で借金を返済する”ことを山岸元社長は知っていたのではないか、取引で土地を手に入れて一番得をするのは山岸元社長ではないか、つまり山岸元社長も共犯ではないかと考えたのです。
山岸元社長は『私は知りませんでした。学校法人に貸しただけで、学校法人から返ってきたと思っている。私は関係ありません』と主張していました。
山岸元社長が『学校法人に18億円を貸した』なら問題ありませんが、『理事長個人に18億円を貸した』のであれば共犯と考えられる、これが事件捜査のポイントでした。
山岸元社長の元部下は取り調べで『個人への貸し付けだと山岸元社長は知っていた』という供述をしていましたが、プレサンス内の資料に『“学校法人への貸し付け”と山岸元社長に説明した』という資料が残っており、元部下の供述だけでは決められないとして、無罪となりました。
“恫喝”ともとれる取り調べ後に変わった「元部下の供述」
ではなぜ、元部下は『“個人への貸し付け”ということを山岸元社長は知っていた』という供述をしていたのか。ここで出てくるのが、大阪地検特捜部(当時)の田渕大輔検事による取り調べです。
元部下へ、2019年12月8日には自身の事件への関与を追及する取り調べ、その翌日の12月9日には、山岸元社長の関与を追及する取り調べを連続で行います。
【田渕大輔検事の取り調べ映像より 2019年12月8日】
「バンッ(※机を叩く音)。うそだろ。今のがうそじゃなかったら何がうそなんですか。何を言っているんだ!ふざけんじゃないよ!ふざけるな!家族に誓って、良心に誓って、うそをつかないって言ったのに、うそをついてまだ言い訳するなんて、ひどいだろ!どういう頭の構造してるんですか。どういう神経してるんですか!検察なめんなよ!命懸けてるんだよ、俺たちは。あなたたちみたいに金をかけてるんじゃねえんだ」
【田渕大輔検事の取り調べ映像より 2019年12月9日】
「はなからあなたは社長をだましにかかっていったことになるんだけど、そんなことする?普通。それに理由はありますか?自分の手柄が欲しいがあまりですか?そうだとしたら、あなたはプレサンスの評判をおとしめた大罪人ですよ」
こうした恫喝的な取り調べの後、元部下は自身の関与を認めました。また、山岸元社長の関与については、最初は証言し、その後、撤回していましたが、この取り調べの後、再び関与の証言に転じました。
「明らかに問題」元検事が指摘 背景にある特捜部の体制とは
この取り調べにおける“説得”と“脅迫”の線引きはどこなのでしょうか。明確なガイドラインはありませんが、机を叩く行為や『うそだろ!ふざけるな!』『会社の評判を落とした大罪人』といった発言は、「明らかに問題」と元検事・西山晴基弁護士は指摘します。
では、取り調べ時は録音・録画が義務化されているにもかかわらず、なぜこのような取り調べが起きてしまったのか。
原因の1つとして、取り調べ時の録音・録画が裁判の証拠となる前例が非常に少ないため、検察官としては“どうせ録画は世に出ない”“証拠採用されない”という安心感があったのではないかと西山弁護士はいいます。実際、田渕検事の取り調べ映像の公開をめぐっては、裁判で地裁・高裁を経て最高裁でようやく決まった経緯があります。
また、2つ目の原因として西山弁護士は、特捜部にある「チーム捜査」と「縦社会」を挙げています。特捜部は1つの事件をチームで担当するため、取り調べと裁判の担当が分かれています。また、上司が『こういうストーリーだろう』と推測してくるため、現場の検察官は被疑者と上司の板挟みになり、強引な取り調べになってしまうのではないかということです。
今後の“正しい取り調べ”のためには、積極的に録画を公開することで抑止力につながる、と西山弁護士は指摘します。また、先進国で多く採用されている“弁護士による取り調べの立ち会い”を日本でも早く導入するべきではないかと見解を述べました。
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