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"95歳のゲイ"が残した言葉「男と男、女と女の恋愛も恥ずかしいことはない」 かつて『異常性欲』と考えられた同性愛...偏見に苦しみ続けた男性が時代の変化を実感

MBSニュース / 2024年12月29日 19時53分

 同性愛への偏見に苦しみ続けた長谷忠さんが、今年(2024年)11月に心不全のため亡くなりました。95歳でした。 長年「ゲイ」であることを隠し、孤独の中で生きてきた長谷さん。かつて同性愛は“一種の伝染病”や“異常性欲”だと考えられ、長谷さんは「ものすごく生きづらかった」と話す一方、今の世の中に時代の変化を感じているようでした。生前の様子を振り返ります。

過去に詩集や小説を出版 詩で受賞経験も

 大阪市西成区で、月12万円の年金でひとりで暮らしていた長谷さん。部屋の壁には、雑誌や新聞紙から切り抜いた好みの男性の写真を貼っていました。

 (長谷忠さん)「なんていう人か知らんねん。わからへんねん、この人、どこの人か。年格好はわかる。この顔が一番好きやねん。いいと思うやろ?」

 長谷さんは時間があると、短歌や俳句をしたためていました。実は、過去に詩集や自身の半生を描いた小説を出版しています。創作活動の時に使う名前は「康雄」。34歳のときに、詩の新人賞で最も歴史のある「現代詩手帖賞」も受賞しています。

 (長谷忠さん)「僕の場合は文学に惹かれたのが大きかったよ。ひとりの詩人になれたことが僕の誇りやったからね」

 本当の自分をさらけ出すことができたのは、「康雄」の名で書いた詩や小説でした。1960年代の自らを描写した小説には、次のような一節があります。

 『男たちに誘われて温泉地のストリップショーを見に行っても少しも楽しくなかった。(中略)男子部員の手前もあって興奮した顔をしていた』
 『よほどの覚悟がなければ生き通すことはできない。(中略)性を通しての自分に対する一生の恨みつらみであり、運命への憎しみでもある』

“治療可能な精神疾患”とされていた同性愛 「ものすごく生きづらかった」家族とも疎遠に

 同性愛者への差別や偏見が広がったきっかけは、100年以上前にさかのぼります。1915年に発表され同性愛を医学的に論じた『変態性欲論』には、同性愛は“治療可能な精神疾患”とされ、一種の伝染病であり、まん延すれば社会を破壊すると考えられていました。

 同性愛が病気だと認識された頃、長谷さんは香川県で生まれました。初恋は、小学校の男性教諭でした。

 (長谷忠さん)「(Q告白はした?)しない、告白なんて一切していない。そういうことをできない、その頃は。男が女を好きになると簡単に告白できるけど」

 長谷さんは戦後、大阪に移り住み、電報配達やビルの清掃員など11もの仕事を転々としました。身の上話になり「なぜ結婚しないのか」と聞かれるのが嫌で、仕事仲間と親密になるのを避けてきたそうです。同性愛者である自分が近くにいると迷惑になると思い、母やきょうだいとは次第に疎遠になりました。

 (長谷忠さん)「ものすごく生きづらかった。人と話をすることができない。もし他人から『同性愛者気味の人間やな』と言われたら、『違います』って言う時代や。他人の言葉を遮って、偽の言葉で隠すわけよ」

 日本では1990年代まで国が同性愛を病気とみなし、辞書にも『異常性欲』と記されていました。長谷さんは人生の大半を偏見や差別に耐えながら生きてきたのです。

人生初の東京で時代の変化を実感「ゲイを理解できる人は多くはないけど、少なくもないと思いたい」

 今年4月、新幹線で人生初の東京に向かった長谷さん。渋谷周辺では『東京レインボープライド』というイベントのパレードが行われました。今年は約1万5000人が参加。長谷さんは同性婚の実現を目指すグループと一緒に、虹色の旗を掲げながら車椅子で行進しました。

 (長谷忠さん)「こんなん初めて知ったよ。びっくりしたわ。ゲイの人がぎょうさんいるとは知らなかった。ゲイを理解できる人は多くはないけど、少なくもないと思いたいわ」

 沿道で多くの人たちが声援を送る姿を見て、時代が大きく変わったことを実感しました。

 (長谷忠さん)「(Q今の時代に長谷さんが生まれていたら生き方はどう変わった?)好きな男がおったら結婚するわよ。結婚して周囲が認めなくても、2人の生活をやったら楽しいやんか。同性愛者を異性愛者がどのように認めていくかということで、世の中はだいぶ変わってくると思うよ」

ドキュメンタリー映画が全国で公開

 長谷さんのこうした人生は、ドキュメンタリー映画『94歳のゲイ』に描かれ、今年、全国で公開されました。また、最近は大学の授業にも招かれ、若い世代に多様性を認め合う大切さを伝えてきました。

 (長谷忠さん)「男と男の恋愛、女と女の恋愛というのも少しも恥ずかしいことはないで」

 晩年はゲイであることを周囲に明かしていた長谷さん。11月の葬儀には、通っていた紙芝居劇団の仲間や90代で出会ったゲイの友人が参列しました。

 (長谷さんの友人 ボーン・クロイドさん)「何か行動しないと人生って変わらないんだよということを教えてくれている。先を行くロールモデルなんだろうなと思います」


◆ドキュメンタリー映画『94歳のゲイ』
 2025年1月25日から東京・ポレポレ東中野と大阪・シアターセブンで追悼上映

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